ただセノの体温が温かかった。
俺は竜だから鱗は冷たいし、温かさは人間独特である。
その感覚は初めてだったから驚いたが
心まで温かくなるって素敵だ。
人は竜から見ればアリのようなものである。
そんなアリに恋をしたことがあるだろうか?
たとえ恋をしても、ちっぽけな命だ。
俺は迷った。竜からして一瞬の命だし
人からすれば人同士のほうが幸せであると考えた。
けど、セノに問いかけてみると
答えは全く違うものだった。
「思い出は永遠なのだから
貴方からしても私は死なないわ。」
「それに、私は人が嫌いなの。ほら、傲慢じゃない。」
セノは柔らかい笑みを浮かべて
冗談まじりに言った。
俺とセノは、そのまま一時ほど共にしたが
少しだけ複雑で背負いきれないほどの闇を
抱えていそうでならなかった。けど、聞くのも悪いから
複雑な感情で黙り込んでしまった。
「…」
セノの顔をチラリと覗き込むと
丸い目をして首を傾げた。
俺は顔をそらして、解かれた髪に目を向ける。
いつかは真っ白になり
抜け落ちてしまうのかと悲しくなった。
髪に触れると、とてもサラサラとしていて
少しだが俺のたてがみに似ていた。
「どうしたの?悲しい顔して。」
セノに聞かれて素直に答えた。
「思い出は生きてても
いつか死ぬんだなぁ…と。」
俺の発言にセノは黙った。
そして、口を開く。
「…そりゃそうよ。時間も違うじゃない。」
「貴方が一年迎える前に、私は息絶えてしまうけれど
私からすれば忘れなければ良いのよ。」
「ほら、忘れられたら死んだようなものじゃないの。」
真剣な眼差しで言うセノに「忘れないさ」と
ひと声かけて、また考え始めた。
本当にこれが本人にとって幸せなのか?
考えたが幸せだという偽りなき笑みから考え
それは態度に現れていた。
人を信じない俺からして妖に騙されるように感じたが
騙されることも良い。疑うこともよそうかと
諦めて身を委ねた。
俺は目を瞑って寄り添ったが、人の命は呆気なくて
すぐに散ってしまう。花も永遠に美しくないだろう?
だが花を散らせて種子を残す。子孫は残るのだ。
だからこそ、セノは子を産んだ。
竜と人の間の子は五百年間生きると聞く。
亡きセノの代わりに子を育てて
恩返ししようと俺は努力した。
生まれた子供は、俺に似ていなくて
とても愛らしい。だから、名前をつけてやった。
アテナだ。由来は、女神のように白い髪に角。
青みがかった翼が印象的だからである。
俺はアテナを育てながらも教師をして
セノとの思い出を一生忘れなかった。
子育てもセノから学んだから、セノが育てたようなものだ。
思い出は我が子に引き継がれていく。
アテナがいつも浮かべる柔らかい笑みでさえ
どこか共通点があった。アテナは死んでいない。
俺の記憶によって生きているんだと考えると
見られている気持ちで頑張ろうと力が出た。
だから、今は我が子を精一杯愛してあげようと思う。
いつかセノが認めてくれたように
俺はアテナを認めるし、この子の味方になれる親になろうと
心から決意をした。
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ご愛読、ありがとうございましたm(_ _)m