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中学~高校辺りに付き合っていた二人、学パロです。
体育の授業中、生徒たちの様子を見ていると、汗ふきシートを使っている姿が見える。ああ、そういえばあの人もデートの時に使っていたな。なんで別れてしまったのだろう。そればかりを考えてしまう。
始まりは些細なことで、三人同時に東京に引っ越して、俺の家に引越しの挨拶をしに来た勇斗と仁人。それと、ちょうど母に引越しの挨拶をしに行けと言われ、渋々菓子折を手にぶら下げた俺とが偶然鉢合わせた。ただそれだけだった。そこから、東京にあまり馴染めなかった俺たちは、自然と会話するようになった。好きになったのはいつだったか、仁人と勇斗が付き合い始めたと勘違いして、しばらく部屋に閉じ篭っていたのは覚えているのに。大切なことはいつも覚えられない。
「……あー、寒」
鍵を忘れ、家に入れなくてそう呟いた。その瞬間、偶然帰ってきた勇斗が手を引いてくれて。それどころか毛布を貸して、部屋で少し休ませてくれた。俺は眠いと嘘をついて、勇斗に膝枕をしてもらった。そのとき、頬に柔らかい感触がしたのも覚えている。俺は彼の髪がくすぐったくて笑いそうになった。だが、彼が離れるのが嫌で、寝たフリをしつつも指先で彼を探した。
「……太智、起きてるだろ」
彼の人差し指を握っていたら、いつの間にかバレていたようでそう言われた。
「起きてないよ、おきてないさけ。……もう少し、そばにいさせて」
目を閉じたまま言えば、彼は溜息をつきつつも膝枕を続けてくれた。その優しさが愛おしい。この温さがずっと続けばいいのに。
「大好きだよ、太智」
俺が本当に眠りに落ちる直前、そんなことを言われたような気がする。眠気で上手く働かない脳みそが、バグを起こしたのかもしれない。けど、それでも。その言葉が俺には嬉しかった。だから、その嬉しさを厚い布団のようにして眠った。
俺たちが恋人として、正確には恋人のように接し始めたのは、その日からだった。告白をしていないから、俺達の関係は友達以上恋人未満だった。けれど、ハグも、接吻も、それ以上のことだってした。勇斗はいつも俺のことを優先してくれたし、褒めてといえば優しく頭撫でてくれた。これが恋人ではないのなら、俺と彼はなんだったのだろう。ただのオトモダチ、だったのだろうか。もしそうならば、俺の六年間を返して欲しい。恋人だと、少しでも思ってくれていたなら。それならば、あの六年間は正真正銘、彼のモノだったと言おう。
――初デートは遊園地だった。二人でデ○ズニーに行く金は正直なかったからだ。それでも十分すぎるくらい、俺は幸せを貰ったと思う。俺は家を出て、しばらくしたコンビニに売ってある汗ふきシート。彼は、家にあった母親の使っている汗ふきシート。お互いに汗ふきシートを持ってきていると思っていなかったから、 2人とも大きい汗ふきシートを持ってきたような気がする。
「なんでそんな、甘い香りのやつ持ってきたん?」
「これしか家になかった。……これのおかげかめちゃくちゃ脇がいい匂いになってるわ」
普段はつり眉気味の眉を下げ、笑う彼がやけに可愛く見えた。だから俺は、人目も気にせずに彼にキスをした。普段だったら考えてから行動、それを基本にしていたはずなのに。
「やばいわ、表でこんなんしたらあかんのに。……つい、ごめんな勇斗」
俺が目を逸らしながら言うと、許し代わりのキスを勇斗はしてきた。まあ、キスと言っても口ではなく頬だったが。俺はそれがどうしようもなく嬉しくて、永遠にこの時間が続けばいいと思っていた。けれど、現実は非情だった。俺たちは当たり前のように受験をして、当たり前のようにそれぞれの道へ進んで行った。初めて家でキスをしたあの日も、初めて互いの色に染まりあったあの日も、無かったかのように。彼はいつも俺になにか与えてくれた。俺はそれがたまらなく嬉しくて、堪らなく嫌だった。俺だって彼になにか与えることはできる、出来るのに彼はそれを拒否した。彼は意外とロマンチストだから、恋人になにか与えたいタイプなのだろう。だから、せめてこれだけはさせてくれと、そう言って抱いてもらったんだったか。あのときは相当強引にやってしまったし、勇斗もそのことについては怒っていた。けれど、お互いに止められなくて、求めて。朝日が照っていて、黒い髪の毛が透けて見えたのを覚えている。彼はそんな強引なことをしても怒らなかったというのに、お互い別れ話をしとき、何故かストレスが互いに、どうしようもないほど溜まってて。正直何度も後悔したし、彼からも連絡はあった。それでもよりを戻さなかったのは、お互いに、いや、俺に変なプライドなあったからだろう。意地を張らずに大好きだと伝えればよかったのに、俺にはそれが出来なかった。今だったら素直に好きだと、よりを戻してくれと伝えるのに。
「おーい、だいちゃん。もうタイマーなってるよ」
ふと生徒の声が聞こえる。ついさっき三十分間のタイマーをセットしたつもりだったのだが、もうそんなに経っていたのか。やはり、考え事は良くない。もしこれが真面目な授業だったとしたら、危うく大事故に繋がるところだった。
「だいちゃんってなんやねん、太智先生やろ」
俺がそう叱れば、生徒たちはヘラヘラと笑いながらごめんなさーい! と言ってきた。謝るならせめて反省している様子は見せてくれ、とは思うがこんなことで本気で怒るのは、さすがにみっともない。
「というか先生、マナーモードにし忘れてるよ。さっきからずっとスマホ鳴ってる」
「……え、ほんま!? 教えてくれてありがとうな!!」
そう言われ、スマホを見ると勇斗から着信が来ていた。なぜ今更? 最近はぱったりと連絡が来なくなっていたのに。もしかして、他の人と付き合ったのか? そんなのは絶対に嫌だ。そう思い、仕事中だというのに電話に出てしまった。
「勇斗!! 俺と寄り戻してくれ!!」
俺が大声を出したからか、周りの人はみな肩を震わせた。申し訳ないな、と思いつつ勇斗の声に集中する。
「……はぁ!? 今!? いや、超嬉しいけどさぁ」
「ほんま!? まじか!! なあ今夜会おうや!」
「もちろん。てか太智のせいで話したいこと飛んだわ」
勇斗がそう笑う。ああ、もう何年もあっていないのに、その笑顔が鮮明に浮かんでくるのは、きっと彼が愛しいからなのだろう。
「……ああ、思い出した。ほら、中学のとき同級生だった山崎が結婚するらしいからその式の連絡だ」
「はぁ? なんで電話で?」
そう言ったあと、すぐにハッとなった。そういえば俺、誰にも言わずに引っ越したんだった。しかも携帯も高校のときに水没して、俺の連絡先を持っている中学の友人なんて極わずか。その中でも仲がいい勇斗に連絡係が任されるのは、当然と言っちゃ当然のことだろう。
「……いや、そうよな。すまん……てか、俺の住所教えんと会えんよな、待ってな〜仕事終わったら送るわ」
「……は? 待て仕事中にあんな大声で寄り戻せって言ったのか!?」
「おん、まあなんとかなるやろ!」
そういった直後、生徒から白い目で見られているような気がして慌てて電話を切る。あとでLINE入れないとな、なんて思いながらスマホをポケットにしまい、授業を再開した。そのあと少し怒られたが、再び彼と歩めるのならそんなことどうでもいい。どこか眠たいような、春の日の出来事。
コメント
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あ、良、、良き… 大好きだぁぁぁ…🫶🫶🫶