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「まさか三人とも忘れてるなんて……」

「アロイス王子、早く言ってくださればよかったのに」

「いや、なんかすごく感動的な雰囲気だったから、割って入りづらくて」

「くそっ、不覚だった……。さすがにもう逃げられているだろうか」


悔しがるイザーク様に、私は無事だったし気にしないでくださいと言おうとしたとき、ヴァネサが「そういえば」と口にした。


「ラウラが毒で倒れたと騒ぎになったときに、邪悪な笑みを浮かべて『馬鹿なラウラ』と言いながら立ち去ろうとしていた怪しい娘がいたから、魔法で拘束してどこかの部屋に転がしておいたんだった」

「絶対そいつが犯人だろう! ヴァネサ、恩に着る。早く調べよう」




そうして私たちは、ヴァネサの後をついて「怪しい娘を転がしておいた」という部屋へとやって来た。


「ああ、この部屋だよ」


ヴァネサがパチンと指を鳴らし、魔法で開かないようにしていた部屋の扉を開ける。

そのまま彼女一人で部屋の中に足を踏み入れると、部屋の奥から甲高い声が聞こえてきた。


「貴女……! わたくしにこんなことをして許されると思っているの!? このおかしな魔法を早く解きなさい!」


聞き覚えのある声だと思いながら私も部屋に入る。

奥の床には、たしかに魔法の縄のようなものに縛られたご令嬢が横たわっていたのだが……。


「えっ、公女様!?」

「ラウラ!? 貴女、毒を飲んだはずじゃ……」


なんと、ヴァネサが捕まえたのはオフェリア公女だった。

あとから部屋に入ってきたイザーク様とアロイス王子も彼女の姿を見て驚きの表情を浮かべる。


「どうしてオフェリア嬢が?」

「というか、ラウラと公女は面識があったのか?」


二人の王子の登場にオフェリア公女は一瞬動揺を見せたが、すぐに態度も口調も取り繕ってみせた。


「イザーク殿下、アロイス殿下、助けてくださいませ! さっきの騒ぎに恐ろしくなってホールを出ようとしたら、この赤いドレスの女性にいきなり捕らえられて……」


突然の拉致に怯えるか弱い令嬢といった風情だったが、イザーク様もアロイス王子も助けようとはしなかった。


「公女、ラウラに毒を盛ったのはお前だな」

「な、なんのことですの? わたくしがそんなことをするはずありませんわ」

「先ほどの騒ぎの中、お前が笑いながら『馬鹿なラウラ』と言ったのをこの婦人が聞いている」

「それは、毒を飲んでしまったラウラが可哀想で言っただけですわ。笑ったというのは見間違いでは?」

「なら、ラウラとはどこで知り合った? 最近ラウラの様子がおかしかったのも、お前のせいだろう」

「廊下で会って、少しお話ししただけです。様子がおかしかったのはラウラ嬢の問題ではなくて?」


そう言って、オフェリア公女が私をキッと睨みつける。

余計なことを言ったらただではおかないと言っているようだ。


きっと、というか絶対に、私に毒を盛ったのは公女だろう。

でも、公女はしらばっくれてばかりだし、私が彼女から脅されたと言ったところで、それも否定するに違いない。


(何か、決定的な証拠があれば……)


そう思ったとき、ヴァネサの「なるほどねぇ」という艶のある声が聞こえた。


「ねえ、王子様。あんたはあたしに魅了魔法の仕事を依頼しただろう。相手は違うけど、今その仕事をしてやるよ」

「それはどういう……」

「こういうことさ」


ヴァネサがオフェリア公女の瞳を覗きこむ。


「ちょっ……わたくしに何を──!」


そして、騒ぐ公女の唇を人差し指で押さえ、何か呪文のようなものを唱えると……。


「──ああ、美しいお姉様……」


なんとオフェリア公女が頬を染め、うっとりとした声音でヴァネサを「お姉様」と呼んだ。

潤んだ瞳で愛おしげにヴァネサを見つめ、まるで恋する乙女のようだ。


ヴァネサがオフェリア公女の顎の下に手を滑らせ、くいと持ち上げる。


「オフェリア、お前は悪い子だね。いけないことをしただろう」

「お姉様、怒らないで……」

「あたしは隠し事は嫌いだよ。正直に言ってごらん」

「嫌われるのは嫌……! わたくし、正直に言うわ」


公女が声を震わせる。ヴァネサに嫌われるのを心底恐れているようだ。

そんな公女の頬にヴァネサが優しく触れる。


「いい子だね、オフェリア。じゃあ本当のことを話すんだよ。夜会でラウラに毒を盛ったのはお前だろう?」

「ええ、そうよ。夜会でラウラに毒を盛ったのはわたくしだわ」

「どうしてそんなことを?」

「だって、ラウラは平民のくせにイザーク殿下の恋人になっていたんだもの。身の程知らずだし、わたくしがイザーク殿下の妃になるのだから、1週間以内に別れなさいと命じたの。それなのに、8日経っても別れていないうえ、一緒に夜会になんて参加するから。公女の命令に従わない平民なんて、生きてる価値もないでしょう? だから毒を盛ったのよ」

「…………」


オフェリア公女の告白は、信じられないほど傲慢なものだった。絶句する私たちの前で、オフェリア公女が不安げに瞳を揺らす。


「お姉様? 怒っていらっしゃるの……? 待って! これもご覧になって!」


ヴァネサに嫌われたくない一心で、公女が後ろ手になっていた腕をごそごそと動かし、袖の中から小瓶を取り出す。

中には濃い紫色をした怪しげな液体が入っていた。


「これはイェド草の毒……」


ヴァネサが小瓶を手に取って呟くと、オフェリアはヴァネサを見つめる目をきらきらと輝かせた。


「まあ、一目で分かるなんてさすがお姉様は慧眼だわ!」

「……お前はこの毒をラウラの飲み物に入れたんだね?」

「ええ、そうよ。わたくしは、この毒を盛ったワインをラウラの席に置いたの。ラウラがそれを飲んで倒れるのを見たときは、これで愚か者の平民がいなくなったと思ってせいせいしたわ。それなのに、なぜか生きているから驚いてしまって……。毒の量が足りなかったのかしら? お姉様はどうお思いになる?」


言っていることは恐ろしいのに、妙に無垢な瞳をしているのが不気味に思えてしまう。

ヴァネサはオフェリア公女に色っぽく笑いかけると、パチンと指を鳴らした。


「自白をありがとう、オフェリア。証拠の毒はもらっていくよ」


先ほどまで恍惚としていたオフェリア公女が、ヴァネサの後ろ姿を呆然と見つめる。

そして我に返ったようにヴァネサを怒鳴りつけた。


「な、な……わたくしに何をしたの!? 無礼者! その小瓶を返しなさい!」


ヴァネサはオフェリア公女に答えることなく、イザーク様に小瓶を渡す。


「後は頼んだよ、王子様」

「分かった」


イザーク様が険しい表情でオフェリア公女の目の前に立ち、冷酷な目で見下ろす。


「公女、お前をラウラの毒殺未遂で捕縛する」

「わたくしを捕縛? 何を馬鹿馬鹿しい……」

「お前の自白は俺と兄上が聞いているし、証拠の毒もある。言い逃れできると思うな。必ず罪を償わせる」

「罪ですって? イザーク殿下、相手は取るに足らない平民ですわ! それなのに公女であるわたくしを捕らえるだなんて……。父である公爵が黙っていないでしょう」


オフェリア公女がイザーク様を鋭く睨みつける。

けれど、イザーク様はおかしそうに笑った。


「はっ、公爵が口を出せるものか」

「なっ……! お父様が平民ごときに黙ったままでいるとでも? すぐにわたくしを助けてくださるはずですわ!」

「いや、公爵はお前を助けられない。なぜなら、お前が手を出した相手は、取るに足らない平民ではなく、『聖女』だからだ」



冷血王子が「お前の魅了魔法にかかった」と溺愛してきます 〜でも私、魔力ゼロのはずなんですけど〜

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