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「楽しそうだな……いいな……モフモフしたいな……」
ムツキは後ろで楽しそうな声が聞こえてきて、聞き耳を立てている。
「敵を目の前に余裕を出し過ぎですよ」
サラフェは手に持っているステッキをムツキに向けたまま、いつでも何かを出せる状態で話しかけている。
「そんなこと言われても、俺は何も効かないぞ?」
「いえ、そのようなことはありません」
「ん? なぜそう思う?」
サラフェの自信ありげな発言にムツキは首を傾げる。
「既に別の無効スキル持ちに試してあります。無効というのは定義があるのです。このキルバギリーはレブテメスプ様がこの世界の理から外れた理、つまり、全く別の理から生み出した創造物なのですよ」
ムツキはサラフェの説明を聞いてニヤリと笑った。
「ほー。つまり、俺が無効スキルを持っていたとしても、それが効かない攻撃だから倒せる、と? じゃあ、何で最初からそれで戦わないんだ?」
サラフェの説明には不足がある。無効というスキルには段階、つまり、レベルがある。魔法無効で説明するなら、下級魔法まで無効にできるのか、上級魔法まで無効にできるのか、それはスキル保持者の力量による。
ムツキほどの実力者が有する無効スキルに有効かどうかは試されていないのである。
「……奥の手は極力出さないものですよ!」
サラフェは空中で制止して構える。6枚の翼の内、4枚がサラフェの身体から離れると、変形しつつ陣形を組み始める。
「翼が分離した!?」
「超高濃度の魔力を直接ぶつける魔砲の威力をその身で確かめなさい!」
サラフェの持つステッキと4枚の翼から魔力の塊が放たれる。5つの野球ボール大の塊が途中で混ざり合い、バスケットボール大の大きさになってムツキへと襲い掛かった。
「なるほど。たしかに、これは自動で無効にはできない。けどな!」
ムツキはまじまじと魔力の塊を見つめた後、手を大きく振り払うことで自分の目の前まで迫っていたそれをいとも簡単にかき消してしまった。
「か、かき消した?」
「なんとなくの理屈は分かった。【マジックアロー】と似ているが、少し魔力の構成が違うようだったから、たしかに単純に無効化できないってのも間違っていない。だけど、1つ忘れていないか?」
「……何を忘れていると?」
自信ありげな表情のムツキとは真逆の表情をしたサラフェが彼を睨み付ける。
「俺は最強なんだ」
「っ! 魔砲を消したところで! 調子に乗らないでください!」
サラフェがムツキへと近付く。その途中、ステッキは刀へと形状を変え、翼もまた投擲槍のような形状へと変わる。彼女が刀を大上段から振り下ろすも、彼は刃先を難なく摘まむ。次いで迫り来る投擲槍を彼は1つ手に取ると、それを使って残りの3本を弾き散らした。それも終えると、彼はそのまま、手に持っている投擲槍を彼女の喉元へと近付ける。
「っ!」
サラフェは刀を引いて、5,6歩ほど下がる。ムツキは投擲槍を地面に深々と突き刺した。
「調子に乗っているわけじゃない」
「では何だと言うのですか?」
「ただただ俺は至って冷静だよ」
「抜かすな!」
サラフェは再びムツキへと迫る。彼女が全速前進の突きを繰り出すも、彼は難なく受け止めてしまう。
「実際、この魔力の刃だって通らないだろう?」
「ぐっ……」
「押し込もうと思っているんだろう? 無理だ。キルバギリーとサラフェの力を足し合わせたところで、俺には勝てない!」
「ぐぐぐぐぐぐ……あっ!」
押し込もうとしていた刀をムツキに跳ね上げられてしまい、サラフェは思わず声を上げる。
「いい加減に諦めたらどうだ? 今ならさっきのことも俺は笑って許してやれるし、コイハやメイリには許してもらえるか分からないけど、俺からも一緒に謝ってやるからさ。今なら4番目だぞ? 早い者勝ちだ」
ムツキは追撃することもなく、サラフェに話しかけている。彼女は、まともに相手にされていないと感じ、苛立ちを募らせていく。
「バカにするな! サラフェをよくもそこまでコケにしてくれますね!」
「バカになんてしていない。俺はサラフェと仲良くしたいだけだ。キルバギリーともな」
「戯言を! あなたの目的は何ですか!」
「…………」
ムツキは諭すように優しい声で語るが、サラフェは聞く耳を持たない。キルバギリーは終始無言である。
「俺はただスローライフを送りたいだけなんだ! できれば、争いたくないし戦いたくもない……妖精たちを楽しくモフモフして、ハーレムの女の子たちと楽しくのんびりと暮らしたいだけなんだ!」
ムツキはグッと拳を握り締め、熱く語り始める。その瞳に嘘偽りがないことはサラフェにも容易に理解できた。しかし、彼女はそれに納得している様子がない。
「本当に戯言ですね……戦わずして、理想を得ようなどと!」
「なんと言われようとも、俺はその理想のために生まれてきたんだからな」
サラフェは考える。このままでは絶対に勝てない。勝てない相手に真っ向勝負は意味がない。いろいろと頭を回転させている最中、彼女は目ざとくあるものを見つけた。高速で移動し、それを捕まえる。
「では、これならどうするのです?」
「何のつ……っ!」
「にゃ、にゃー……」
サラフェはたまたま家に戻ろうとしていた猫の首を掴み、ムツキに見せつけた。