テラーノベル
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『ねぇ、どうして君はいつも鶴を折るの?』
濃く、鮮やかな青が入道雲と混じり合う季節。
君はいつものように白い壁、
アコーディオンカーテンの内側から
丁寧に折り鶴を作っていて
思わず僕は長年思った問いを口にしてみた。
僕のその問いかけに君は困ったように顔をほころばせた
「千羽鶴を作るんだ。
お兄ちゃんから初めて教えてもらった鶴をお兄ちゃんのために。」
『でも、君のお兄ちゃんって…』
そう言いかけた僕を遮るように君は言葉を発した
「わかってるよ。」
「でも…折りたいんだ。」
弱々しく、でもはっきりとした芯を持つ表情でこちらを見つめる君。
(自分のために作ればいいのに……)
そう思う気持ちをグッとこらえ、下唇を噛んだ。
ある日。
一本の電話が鳴った
君の訃報だった__
いつもとは違う白い壁の個室、
整われたベットに君は横になっていた。
看護師からもらった最後の1枚。
僕は不器用ながら君との思い出を
折り鶴に織り込み、
最後の1羽を君の隣へ置いた。
きっと、この折り鶴が入道雲の先まで飛んで
この思いを 空の、そのまた奥に居る
君と、君のお兄ちゃんまで連れていってくれる。
いつか、僕が折り鶴に乗って入道雲を超えた時、
君は僕に「頑張ったね」って
いつものように笑ってくれるだろうか。
いつも見上げていた鮮やかな青は
優しく横にいてくれた君のように、
僕に微笑んだような気がした。
コメント
3件
素敵