コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──キャッ!
裕哉は後方からの短い悲鳴を聞いた。急いで振り向くと夏帆がよろよろとして止まっていた。立ち漕ぎしている最中にバランスを崩したらしかった。
「あ、チェ、チェーンが外れちゃったのかな・・・」
「ええ、マジか。ちょっと直してみます」
「そ、そんな。いいんですか?」
「んー、多分直せると思います」
「ご、ごめんなさい・・・」
裕哉は夏帆の自転車のチェーンを直し始めた。夏帆をちらと見た。下を向いていた。少し涙目になっているようにも見えた。
裕哉は指先に力を込めて外れたチェーンを思いっきり引っ張った。ガチャン、という音と共に、チェーンが歯車に嵌まった。指先が油と金属の汚れで真っ黒になった。
「直りました」
「ほ、本当、ありがとうございます」
「いやぁ、びっくりした」
「・・・あの、私、今日初めて関わっていただいたのに──」
泣きそうなか細い声で夏帆が続けた。
「あの、その、もう私となんか関わらない方が、その、いいんじゃないでしょうか。わ、私四方田くんに迷惑しかかけてなくて・・・」
「えっ?全くそんなことないですよ」
「ほ、本当ですか・・・?」
直った自転車に乗りなおし、二人は発進した。気まずくならないように裕哉は他愛のない話をいくつか振ってみたが、帰ってくるのは短い返事ばかりで、どうもそこから話は広がらなかった。
菱岡町の方が学校に近いので、裕哉が先に家に到着した。裕哉は夏帆に釜萢から貰ってとっておいた飴玉を夏帆にあげた。
「そ、そんな、こんなモノまで貰っていいんですか?」
「はい。全然」
「あ、ありがとうございます。あ、さよなら」
夏帆は、裕哉があげた飴玉をギュッと握って急いで帰っていった。