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「何か街全体がザワザワしてる感じ…」
「住民情報盗まれてっからな…あちこちで…桃が暴れ回ってんだろ」
「(従児ちゃん…)まだまだケガ人が増えるしそれに四季のことも、どこにいるか分からないし」
「にぃ、またいろいろ考え過ぎてるよ」
「!」
「紫苑さんが桃の本部で言ったこと思い出して?」
「…あれもこれも考えない。目の前のことに集中」
「そうそう。みんなが傍にいるから大丈夫」
「この状態で言っても説得力ねぇけど…俺らもいる。皆でやりゃどうにかなっから」
「猫ちゃん」
「鳴海、元気を「俺に血かかるから、印南は静かにしてて」
3人の頼もしい後輩たちに励まされ、鳴海は1つ大きく息を吐いてから笑顔を取り戻す。
その数分後には、全員が無事に地下にあるアジトへ到着するのだった。
到着するなり、猫咲と印南はすぐに援護部隊によって運ばれて行った。
残った2人の元には、アジトの陣頭指揮をとる人物が駆け寄って来る。
「鳴海!紫苑!」
「京夜くん!」「お疲れ様っす」
「お疲れ。2人はケガして…ってなるちゃんなんでそんなに血塗れなの!!?」
騒ぐ花魁坂に事情を説明した上でそこまで酷い怪我はしていないと伝えるとホッとした顔をした。
互いの無事を確認すると、落ち着く間もなくその足で会議室へと向かう。
鳴海と紫苑の向かいに座った花魁坂は、早速2人から聞き取りを始めた。
それぞれの労をねぎらいながら聞いていた彼が一番興味をもったのは、例の自爆事件についてだった。
「自爆?」
「うん。俺のところにも何名か来たけど全員躊躇なく自爆していった」
「先輩も狙われたみたいで…」
「そんなことあったな…」
「えっ!大丈夫だったの!?」
「うん。大丈夫だったよ。練馬の桃にもあったけど特に何もなかったし」
「(そういう意味でも狙われてるのか~うちの子は)なら良かったけど、なるちゃんの体術で太刀打ちできたの?」
「出来ないことはなかったけど何かいつもの桃と違った…力の強さとか圧とか…」
「俺の目から見ても、かなりヤバイ雰囲気だったっすね」
「そっか…ちょっと調べてみた方がいいかもな」
そうして話がひと区切りついたタイミングで、淀川から連絡が入る。
鬼の救助のため市街地にいる彼らは、ビルの屋上から街全体を見渡していた。
今桃太郎が鬼を捕まえ、その息の根を止めるというカオスな状況が街のあちこちで同時多発的に起こっている。
それを踏まえた上で、一旦こちら側の現状を把握するため、淀川は報告を促す。
『各自状況は?』
「こちら京夜。印南・波久礼は一時離脱!でも鳴海の応急処置で大事には至ってない。他、負傷した隊員や避難者多数。 それと今鳴海と紫苑から聞いたんだけど、桃の隊員が自爆した話が気になる。右京に対する忠誠心が異常すぎる。 桃の死体を数人回収してくれ。調べたいことがある」
『分かった。鳴海、聞こえてっか?』
「聞こえてる〜」
『市街地でも負傷者が大勢出てる。一時救護所の指揮を頼む』
「おけ〜。うちの連れてくー」
「こちら紫苑~印南・波久礼運んだんで、先輩の護衛しながら戻ります~」
『テメェ、鳴海に手出したら殺すぞ』
「殺される前に先輩に息の根止められまーす」
『こちら無陀野。大我と一緒だが、分かれて救助にあたる。俺は並行して右京を捜す』
『戦闘は避けられねぇ!皆、怪我すんなよ!水分補給も各自忘れんなよコルァ!』
そうして会話を終えた面々は、それぞれ行動を開始する。
治療に向かう花魁坂と別れた鳴海は、朽森に少し待ってもらい、備品倉庫で出発に向けた準備を進めていた。
外で待機していた朽森は、こちらに歩いてくる足音を耳にして顔を上げる。
「お前、無陀野先輩んとこの…あ~名前何だっけ?」
「皇后崎。…鳴海は中か?」
「そうだけど、何か用?」
「ちょっとな」
「まぁいいけど…外に俺がいること忘れずに~」
冗談っぽくそう言いながらヒラヒラと手を振る先輩を無視し、皇后崎はノックをしてから倉庫内に入って行く。
同期の突然の訪問に驚いた鳴海だったが、すぐに表情を和らげ駆け寄った。
鳴海にとって彼は、久しぶりに敬語を使わずに話せる相手だった。
22
「迅!」
「何か久しぶりな感じすんな。どこも何ともねぇか?」
「うん、俺は全然…!それより従児ちゃんのこと…」
「あぁ。…殴られたのに、まだあんま実感わかねぇよ」
「俺も。…ほっぺ大丈夫?」
「大したことない。でも…鳴海に治してもらいたくて来た」
「! うん。座って?」
遊摺部に殴られた頬はすぐに冷やしたことで腫れは引いており、残りの口内の傷は鬼の力で簡単に治る程度だった。
それは鳴海も、皇后崎自身も当然分かっている。
それでも彼がここに来たのは、遊摺部の同期として同じ苦しさを抱えている鳴海に会いたかったからだ。
自分の右頬に添えられた鳴海の手に、皇后崎は目を閉じ甘えるようにすり寄る。
目の前で同期の裏切り行為を目撃した彼の心中を察し、鳴海はもう片方の手で皇后崎の手を優しく握った。
目を開け強く握り返した皇后崎は、静かに言葉を紡ぐ。
「…今自分が、遊摺部に対してどういう感情を持ってんのか分かんねぇ。 情報盗んで、他の鬼を危険な目に遭わせてることは…絶対に許せない。 でも…何か事情があるなら、同期としてどうにかしてやりたいって…心のどっかで思ってる」
「…俺も同じ気持ち。今までの従児ちゃんが、全部嘘だったなんて思えないし、思いたくない。 女子と話す時の楽しそうな笑顔も、変なこと言って怒られてる時の凹んだ顔も、男子同士でワチャワチャしてる明るい顔も… 絶対従児ちゃんの本心だった。嘘であんな表情出てこない…!このままお別れなんて…嫌だよ」
「……俺が同期の中で一番冷静なんだよな?」
「えっ」
「同期の中で、一番周りが見えてる」
不意に聞こえてきたその言葉は、鳴海の記憶を刺激するものだった。
いつだったか、自分と皇后崎の間でそんな会話をした覚えがある。
あれは確か…雪山修行の時。矢颪のことを気にかけて欲しいとお願いした時だ。
それに気づいた鳴海は、俯いていた顔をパッと上げ皇后崎と視線を合わせる。
「ふっ。だから遊摺部のことは…」
「…迅にしか、頼めない」
「分かった。鳴海のその言葉があれば、俺はどんな状況でも自分を信じて進める。…絶対遊摺部を連れ戻してくる」
「うん…!ありがとう、迅」
「礼言うのは俺の方だ。いつも背中押してくれてありがとな」
穏やかな表情でそう言った皇后崎は、さっきよりも少しだけいい顔になっていた。
紫苑と共に鳴海が地上へと戻っている頃…
遊摺部の今後について無陀野と会話していた淀川は、通話を切り夜の街を見下ろしていた。
生徒たちは各自待機場所へ向かったため、今屋上には彼と並木度の2人だけだった。
「ったく遊摺部も尋問かけて情報抜いて殺しちまえばいいのによぉ」
「大事な人だからじゃないですか?大事な人だから、理由があるって希望を持ちたいんですよ」
「は!お優しいこったなぁ。俺は仕事柄、俯瞰でしか物事を見ない。他人に寄り添わせる心もねぇし、できもしねぇ」
「何言ってるんですか。だから僕がいるんじゃないですか。それに…鳴海ちゃんのことはどうなんですか?」
「!」
「俯瞰で見てるなら、彼が誰とどうなろうと関係ないのでは?」
「…俺だって最初はそう思ってたよ。弟みたいな存在だって。 でもあいつと話したり、治療受けたりするたびに…自分の中で無視できねぇぐらい、存在がデカくなりやがる。 どんな手を使っても護ってやりてぇし、絶対に失いたくねぇ。鳴海には…ずっと笑ってて欲しい」
「…鳴海先輩のこと話してる時の隊長には、寄り添う心があるように見えますけど?」
「うるせぇ…生意気言ってんじゃねぇよ。無駄話は終わりだ。俺らも行くぞ」
「いつでも」
素直じゃない隊長殿を微笑ましく思いながら、並木度は静かに言葉を返す。
そうして2人は夜の街へと身を投じるのだった。
時を同じくして、別のビルの屋上には3人の桃太郎の姿があった。
先の戦闘でボロボロ状態の月詠と桜介、そしてもう1人は…
「旋律」
「おぉ!どうした2人揃って!」
「話がある」
「?」
キョトンとする同期へ、練馬コンビは自分達の現状を話し始める。
右京に部下を人質に取られ、命令を聞かされていることを…
「人質!?何だそれ!」
「やっぱ知らねぇか。だと思ったぜ」
「当たりめぇだろ!」
「右京さんのところにいて気になることとかなかった?」
「ん~…ある!銀も国領も他の隊員も全員…右京さんに忠誠心が半端ねぇんだよな。尊敬とかのレベルじゃなくて、”崇拝”・”絶対君主”って感じ」
「だからって右京のために自爆するか?」
「右京さんの能力、身体強化だもんね。じゃあ能力でってわけじゃないか」
「う~ん…まぁ考えても仕方ねぇ!俺が右京さんのところ行って話つけてくるわ。お前ら人質で動けねぇもんな」
「大丈夫かよ?」
「大丈夫だろ?間違ってんのはどう考えても右京さんだからな」
「真っ直ぐだねぇ」
「さっさと辞めて、ウチ来いっつーの」
「はは!また伝説作るか!」
月明りが降り注ぐ中、同期3人は笑顔を向け合う。
その光景はとても尊く、一時高円寺の戦乱を忘れさせた。
と、思い出したように旋律が言葉を発する。
「あっ。そういや鳴海に会ったぜ?」
「は?どこでだよ」
「華厳の滝の研究所で」
「あぁ!君が前にいたとこか」
「そっ。…あいつ、いい奴だな。鬼とか桃とか関係なく目の前の奴の治療してさ、自分のケガなんか後回しなんだぜ? 援護部隊の奴を強ぇなって思ったの初めてだったよ。あーいう筋の通った奴は俺も好きだ」
「おっ、ライバル登場じゃん桜介~」
「望むところだよ。お前が相手でも譲る気ねぇからな、旋律」
「バーカ、俺のはそういう意味じゃねぇよ。人として好きなだけ……今はな」
最後の呟きは、2人には届いていないようだった。
彼の気持ちが変わるかどうか…ゆっくりと見守ることにしよう。
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