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救護所へ向かう鳴海の護衛をしながら鬼の救助へと戻る朽森。
他愛のない会話で相手を笑顔にできるスキルは、これまで数多の女性たちを相手にしてきた彼の特技だ。
“チャラい”・”クズ”と評されることもあるが、時と場合によってはとても有効なもので…
すぐにいろいろ考え過ぎてしまう鳴海を大いに助けてくれていた。
2人で会話をしながら静かな街を進んでいると、不意に朽森が足を止める。
つられて止まった鳴海が見上げれば、彼は何か考えを巡らせているようだった。
「(逃げ込んだ子供がいるかもしれねぇ…学校も行っとくか)」
「紫苑?」
「…先輩、ちょっとだけ寄り道したいんだけどいい?」
「紫苑のことだから見て回りたいんでしょ。いいよ別に。邪魔なら捌けるし」
「それはダメ。俺がまだ一緒にいたい」
「うわ、俺以外なら堕ちる言葉だ」
「え〜、堕ちてくれないの〜?」
「そんなわけないじゃん。俺は無人くん一筋なの。」
「壁が高いなぁ〜」
くすくす笑う2人はそのまま 学校に足をふみいれたのであった。
ここへ来た理由を説明しながら校内を捜索するも、人の気配はまるで感じられなかった。
「静かだな」
「だね。全員避難出来たみたいだけど…」
「だな。…じゃああと屋上チラッと見て終わりにすっか」
「はいよ」
そんな言葉を交わしながら屋上へと出てきた鳴海と朽森。
やはりここも静かで、誰かがいるような気配はなかった。
そうとなれば長居は無用。早々に見回りを終え、屋上を出ようとしたのだが…
突如空中に現れたネジが2人に襲いかかってきた。
爆風が落ち着くと、そこにはさっきまではいなかった人物の姿があった。
攻撃を回避するため俵抱きにしていた朽森を雑に降ろした鳴海。悪態をつきつつ朽森は見覚えのある白スーツに視線を向ける。
「(ネジ…てことは…)」
「言ったろ?必ず殺しにくるって」
「男の約束なんか、酒飲みの断酒宣言くらい意味ないもんなのにな」
「なに、知り合い?それともセフレ?いつの間に男引っ掛けるようになったのよ」
「まだ、野郎に手を出す気は無いかな〜…桃の本部から抜けた時あったじゃん?あん時にちょっと絡まれちゃってさ」
「へー」
「(こいつがいるってことは…)」
「能力は封じたよ」
「もう1人か」
ネジを操る桃太郎・桃鐘銀に加え、その仲間である桃坂国領までもが姿を現す。
体外の血を操る彼の能力で、朽森の血蝕解放は封じられてしまった。
国領はそのまま視線を鳴海の方へと向ける。
彼は、自分たちが尊敬してやまない桃際右京が欲している人物だ。
「銀、あのデカブツは死なない程度にだぞ?生きたまま連れて帰る」
「分かってる」
「この歳になって狙われちゃうとかウケる笑」
「何、お前らも先輩のこと狙ってんの?」
「そうだ。だからお前ごときに時間は使えない。早急に死ね」
「三下の台詞だな。多分殺せないぜ?」
「遺言にしてはしょうもないな」
銀が造り出す複数の銃口を持つ大型の武器が、ゆっくりと標的へ照準を合わせる。
“食らったらひとたまりもないだろ〜なー” と呑気に考えてる鳴海に笑みを向けた朽森は、まるでデート中かのように恋人繋ぎで彼の手を握った。
「紫苑?」
「せーんぱいっ、これ終わったらデートして欲しいな〜?」
「はぁ?」
「お願い、ね?俺のこと信じて?」
「! …デートしてあげるかどうかは後で考えてあげる」
朽森の真っ直ぐな目と言葉に、鳴海は一転して表情を変える。
と、次の瞬間…無数の銃弾が襲いかかってくる。
思わず目を閉じた鳴海だったが、風と煙があたるのを感じただけで事態が収まったのを受け、不思議そうに首を傾げる。
「!」
「ほらな。先輩、目開けていいよ」
「え、大丈夫?」
「うん、この通り」
「(何故…!?)」
「テメェらどこで騒いでんだ!子供の学び舎だぞボケがぁ!退学モンだな、おぉい!」
「なるほど大我ちゃんか」
聞き覚えのある声の方を見上げれば、貯水タンクが建っている一段高い場所に頼れる副隊長が立っていた。
軽やかに降り立った百鬼は開口一番、尊敬している先輩のことを気にかける。
「先輩無事ッスか?ケガしてねぇっすよね!?」
「全然してないよ」
「何故来るとわかった?」
「雰囲気」
「何だそれ」
「付き合いがなげぇだけだ」
自分の両脇に立つ2人の後輩たちの絆に、鳴海は誇らしげに微笑むのだった。
2対2という構図で始まった屋上での戦い。
鳴海は邪魔にならぬよう今のうちに避難場所へ向かおうとするが、朽森はなかなか手を離してくれない。
そうこうしているうちに、また国領が血を封じ銀が攻撃するという態勢が整ってしまう。
「馬鹿さは伝わったよ。グラサン見殺しにすれば隙をつけたかもしれないのに。銀!2人とも能力を封じた!殺せ!」
「仲間を見殺しにする選択肢は俺にはねぇなぁ!」
「大我ちゃんあの子何か血を操れるみたい」
「任せてください!先輩には傷一つ負わせないっす!」
「頼もしい〜!どっかのヤリチンも見習って欲しいわ」
「先輩そりゃ酷いですよ〜それより記録のために、大我の能力しっかり見といてくださいよ?さっき目瞑ってたから見えなかったでしょ」
「あ、確かに。でも、あの子がいたら血を使えなくなるんじゃ…」
「俺みたいに血をたくさん使う奴はね」
「?」
「ごちゃごちゃ喋ってるうちに…仲良く逝けよ!」
そう言って、さっき造った大型の武器を再び3人へ向ける銀。
手を繋がれたまま百鬼の方を向いた鳴海は、彼が傷つけた指をパチンと鳴らすのを目にした。
直後、3人の前に亀甲文様のような盾が現れる。
銃撃をすべて防ぐこの血のバリアこそ、百鬼の血蝕解放・守護ノ神代であった。
この能力の特徴は、少量の血液でも力を発動させられること。
故に国領の能力に影響されないというわけだ。
「すごいねこれ、優しい君ににピッタリな力」
「そんなん言われたの初めてだから照れくせぇな…!」
「照れてる暇ねぇぞ。大我」
「おぅ。テメェの相手は俺だぁ!」
「国領!そいつを頼む!」
「んじゃバラけるか」
「追うけど問題は?」
「ねぇ」
屋上の柵を超えて飛び降りて行く国領を追おうとする百鬼。
そんな彼を見送るように親指で行き先を示した朽森は、続けて鳴海を振り返る。
「先輩、ごめんな。ちょっとだけ待ってて?」
「いーよ別に。俺にも客来てるみたいだし」
「…すぐ終わらせて迎えに行く」
ようやく離した手で優しく鳴海の頭を撫でると、朽森は銀と向かい合った。
学校から一番近い緊急避難場所で待機してから30分ほどが経った頃…
戦いを終えた百鬼から連絡が入る。
『先輩!こっちは終わりました。1人逃げ遅れた奴がいたから、念のため診てくれますか?』
「OKすぐ行くわ…縫依そこの2人は筐に送っといて」
「はぁい」
指示された体育館に向かえば、入口に百鬼と共に1人の女性の姿があった。
百鬼の見た目のインパクトに圧倒されていたのか、鳴海が声をかけると彼女は一気に安心したような表情になる。
ザッと全身を診て問題ないことを確認してから鬼の隊員に引き渡せば、無事に任務完了だ。
「お疲れ。大我ちゃんはケガしてない?」
「してますけど、大したことないです!指がちょっと吹っ飛んだぐらいなんで!」
「全然大したことあるからね???」
その場に百鬼を座らせ、早速治療を始める鳴海。
申告通り左手の第4指と5指が失われており、2指3指は残ってはいるものの変な方向に曲がっていて明らかに骨折していた。
自分の状態を過小評価する後輩に、鳴海は少し怒り気味に言葉をかける。
「左手ほとんど使えないじゃん。絶対痛いでしょ」
「まぁそうですけど、命がある方が大事っすよね?」
「それは鬼機関に所属してる全員に言える大前提の話だからね?俺からしたら怪我した時点で大したことなんだよ」
「先輩…?」
「例えば仲間の誰かが桃との戦いから帰って来た時…生きてて良かったって、安心すると思う。 でもその人の体のどこかが欠損してたり、ぐちゃぐちゃになってたら… 感じてた安心は一瞬でなくなって、代わりにツラさや悲しさ、それに怒りも…生まれてくると思うんだよね。俺がそうだし。さっきも言ったけど 生きて帰ってくるのは大前提。その上で、少しでも傷やケガがない状態で帰って来て欲しい。 待ってる側は常にそう願ってる。だから…自分のことももっと大事にしてよね」
治療が終わり元に戻った左手をギュっと握り締めながら、鳴海はそう言って真っ直ぐに百鬼を見つめる。
その目が少し潤んでいるのは、それだけ想いが強いという証。
百鬼は後輩の手を握り返すと、静かに話し始めた。
「…先輩の言う通りっすね」
「えっ」
「さっきの例え話、もし先輩だったらって想像したらよ……ブチ切れそうになった」
「!」
「前線で俺らのことを護ってくれるお前が傷だらけになって帰って来た時、”生きてて良かった”なんて思えねぇ。 相手を同じ目にあわせるまで気が済まねぇし、それ以上のことをやるまで止まらねぇと思う。 まぁここまで過激じゃねぇとしても、今さっき先輩に似たような想いさせてたんだと思うと…申し訳ねぇなって思った」
「大我ちゃん…」
「すいません。これからは、先輩に笑顔で迎えてもらえるような状態で帰って来ます。約束します!」
「分かればよろしい!」
治った左手をグーにして差し出せば、鳴海も元気な返事と共に拳をぶつけた。
笑顔を向け合う2人は、不意に聞こえた銃撃音で表情を変える。
音の発生源は、朽森がいる屋上であった。
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Nana.77
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コメント
1件
いやあもう…まさか屋上であの2人が現れるとは思わなかったし、百鬼さんの血のバリアの解説もかっこよかったですけど、何よりぐっときたのは鳴海さんが百鬼さんに「待つ側の想い」を伝えるシーンですね。生きて帰ってくるのは大前提、その上で無事でいてほしいって…そんなの言われたら泣いちゃいますよ。最後の拳ぶつけるところでじんときました。朽森くんも無事でいてほしい…!次の展開が気になります🤍