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私の家は急な坂を超えた所にある、壁紙が剥がれコンクリート剥き出しになっている古びたマンションだった。
隣には川が流れ、山々に囲まれていた。
梅雨の時期になると、家の壁からキノコや葉っぱが芽生えてくるので、その度に、母がいらなくなったカレンダーの厚紙を壁に貼り付けていた。
【これで大丈夫】
と母が満足そうに私たちを見ている
その数分後に父が帰宅。 帰宅したが否や、
【飯は?】
と母に問い詰める
母は、顔色を伺いながら早々と準備を進め始めた。
そんな中、月日は流れ小学生になり、ピカピカの赤いランドセルを両親に買ってもらい
期待と希望を胸に、教室のドアを引く。
新しい友達もでき、何ら不自由の生活を送っていた。
私が小学3年になる直前の出来事だった。
出掛けたはずの母が、家に帰ってこなかった。
流石に父も心配しだし、弟達は泣き叫んでいる。
私は何が起きているのか分からず、ただずっと母の帰りを待つだけだった。
何日が立っただろうか、ある日母が突然帰ってきた。
父は仕事に行っており、私と弟は母を見るや否や、
猛スピードで駆け寄った。
母は、今にも泣きそうな顔で、でもどこか覚悟を決めたようなそんな立ち姿だった。
【僕たちのこと嫌いになったの?】
弟がボソッと呟いた。
母は弟を強く抱しめ、【ごめんね】と
ただずっとごめんねと繰り返すばかりだった。
落ち着いたのか、母が口を開き出す。
【ちょっとだけ、おじいちゃんの家に泊まってくるね】
そう言って荷物をまとめて、再び出ていってしまった
それから2、3日が過ぎた頃、母が帰ってきた。
さしぶりに家族全員揃っているのがとても嬉しかった。
母のすぐ後ろに、何故かおじいちゃんが立っていた。(母方のお父さん)
おじいちゃんがこちら側の家に来るのは初めてで、いつも温容な顔が、今日は少しばかり表情が強ばってみえた。
家に入ると、母が
【今から、大事なお話するから、別室でアニメでもみといてね】
空気感が少しピリつき出したのが、肌で感じ取れた。
私たち姉弟は、別室でアニメを見始めた。
数分も見ていると飽きてき始め、
【ねぇ、ちょっとお母さん達何話してるか気にならない?】
そう私が口にすると、弟達は息を潜めて頷いた。
さしあし忍び足で、部屋を移動する
ドアの隙間から、母が声を殺して泣いている姿
おじいちゃんの怒鳴り声
父が謝り続けている光景が目に飛び込んできた
何が起きているのか分からず、そっとドアを閉め
別室へと戻る。
私達は、状況が掴めずただ静かに息を潜める事しかできなかった。
そんな状態が何分、何時間立っただろうか
父が私達を呼びに来てくれたのだ。
【お父さん、お母さん離れてくらすことになるかもしれない】そう告げられた。
私達姉弟は、沈黙のままお互いの顔を見交わした。
なぜ急にこんな結末を迎えてしまうのか、私には理解し難いものだった。
だが、そんな事も聞けず
【そうなんだ……】 素っ気なく返事をしてしまった。
次の日からは、父が私達のご飯を作ってくれるよう
になり、休みの日には外に遊びに連れて行ってくれ
母が居ない寂しさは言い出せず月日は流れ
母が家を出て1週間程たった頃、最寄り駅にあるファミレスに夕食を食べに来た時だった。
他愛のない話をしていると 父がふと私達に言い聞かせるように投げかけた
【今日会うのが最後かもしれないからね】
10分程待つと母が現れ、少し気まずい時間が流れたあと
【お母さんと、お父さんは別々に暮らすことになりました。 みんなは、お母さんと暮らすかお父さんと暮らすかどっちがいい? 】
急な母の質問に戸惑いながらも、一番下の弟は迷わず
【お母さんについていく!!】純粋無垢な顔でそう告げる。
真ん中の弟は、母の方に行きたがっていたが、少し悲しそうな父の顔を見た後
下を向いて考え始めた。
私も母と暮らしたかったが、3人とも母の所に付いてしまうと父が悲しむと思い
【私はお父さんと暮らしたい】
そう言った後の父は、ホッとしたかのように肩を撫で下ろした。
それに続くように真ん中の弟も
【僕はお母さんと一緒がいい。】少し迷いつつも
言い切る弟。
私達の意見を聞いた母と父は、話し始め
最後の食事を思い出話をしながら食べ進めた。
お会計に向かう父と御手洗に向かう母を、席で待っている私は
本当にこの決断で良かったのだろうかと、
考える暇もなく
母と父が戻り、店を出ようとした時
母方に着いていくと告げた、真ん中の弟が
【僕やっぱり、お父さんと暮らしたい】
そう言い出したのだ。
その場は少し凍りつき、父は驚き
母は少し泣きそうになるのを堪えながら
【そっか、分かった。】震えた声ながらも笑顔で答えた。
店を後にした私たちは、
【ありがとう、ごめんね元気でね】と母は告げ
今までにないくらい、強く抱き締められながら
私は【お母さんもげんきでね】と笑顔で返す。
家路に向かう私と真ん中の弟と父を見送る母
泣いている母を心配させないように大きく手を広げ
母の姿が見えなくなるまで何度も振り返り
手を振り続けた。
泣いているのを気付かれないように