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「そんな必要ありません」
「何故だ? Roseが近くにあるせいで客を取られて経営が傾いているんだろ? ならいっそのこと、お前の店が移転すればいい」
「それじゃあ何の解決にもならないですし、そもそもそういう問題ではありません」
「それじゃあRoseの方を移転させればいいのか?」
何だろう、巴さんは巴さんなりに考えての発言なのかもしれないけれど、彼はお金で全てを解決すれば良いと思っている。
確かに、Roseが近くに来てから客足が減ったのだから、一番良いのはうちのお店が別の場所でやり直すことなのかもしれないけれど、私たちは何も悪いことはしていないし、高間さんが言っていたことが事実だとすれば、移転してもいつかまたRoseが、その弟子たちが近くに店を構えるかもしれない。
そのたびにお客さんを取られてしまうようじゃ、どうしよう無い訳で、
「お店の場所とか、近くに人気店があるからとか、そういうことじゃないんです。どんなに人気店があろうとも、うちのお店に何か魅力があれば、お客さんは減らないんです。今のままじゃどこへ行っても同じことの繰り返し。それならば、人気店が近くにあってもなお、うちのお店にお客さんを惹きつける何かを作る方が良いに決まってるんです。ですから移転をする気は無いので、巴様のご提案をお受けすることは出来ません」
私は自分の思っていることを伝えて巴さんの申し出を丁重にお断りした。
それで分かってもらえると思ったのだけど、
「……気分が悪い。これをさっさと片付けろ」
すっかり気分を害してしまったらしい巴さんはケーキを半分も食べずにフォークを置くと、片付けるよう指示されてしまったので、私は何も言えないまま片付けて部屋を後にした。
「巴様、そのケーキは口に合わなかったのかな? ごめんね、来栖さん。何か言われたりしなかった?」
厨房に戻ると、残ったケーキを目にした高間さんは、巴さんの口に合わなかったのかを聞いてくると、私に謝ってきた。
「そんな! 高間さんのせいじゃありません! 私が……いけなかったんです……」
「何かあったの?」
「実は――」
高間さんには一つも非が無いことを告げ、寧ろ私が悪かったと話すと、彼は心配そうに「何かあったのか」と聞いてくれたので、私はさっきあったことを一から説明した。
「そっか、そんなことが」
「……私の断り方がいけなかったんでしょうか?」
「いや、来栖さんのせいじゃないよ。何ていうかさ、巴様は上澤家の跡取りだから、そういう考えになるのも仕方ないと思うんだ」
私の話を聞いた高間さんは、私が悪い訳では無くて、巴さんと私たち一般人の考え方が違うから分かってもらえなかったことは仕方が無いという話をしてくれた。
「巴様は巴様なりに来栖さんの力になろうとした結果、そういう提案に辿り着いたんだと思うけど、まあ、それは違うよね」
「そうなんですよ。心配してくださるのは嬉しいんですけど……お金に物を言わせるようなやり方は……嫌です」
「その考えを巴様が理解することは難しいかもしれないね……俺たちとは住む世界が違うから」
「ですよね……。すみません、お話聞いてもらっちゃって」
「良いって。俺さ、来栖さんは妹みたいな存在に思ってるから、何か困ったこととかあれば遠慮なく相談して欲しいと思ってるんだ」
「高間さん……ありがとうございます! 私も、お兄ちゃんがいたらこんな風に頼れるのかなって思ってたので、嬉しいです!」
「そっか。そんな風に思ってもらえてたのなら俺も嬉しいよ。さてと、仕事に戻ろっか」
「はい!」
「そうだ、折角の機会だから、二人の時だけでも、敬語使うの止めない?」
「え?」
「俺としてはもっと気楽に話して欲しいから、気を使わないでもらいたいんだ」
「でも……」
「その代わり俺は来栖さんのこと、名前で呼ばせてもらいたいんだけど、駄目かな?」
「いえ、全然! 好きに呼んでもらって構わないので! それじゃあ私も、敬語は無しにする!」
「うん。それじゃあそういうことで、侑那ちゃん。また後でね」
「うん」
巴さんのことで色々とモヤモヤしていたけれど、その分高間さんとの距離が縮み、相談出来る相手が増えたことは純粋に嬉しかった。
ただ、まさかこれが原因で事態が悪化することになるなんて思いもしなかった。
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