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その夜、勤務が終わって自室へ戻ろうとしているところに、如月さんがやって来た。


「来栖さん、少し宜しいでしょうか?」

「はい……?」


相変わらず彼の表情からは何も読み取れず、一体何の用なのか疑問に思いながら執務室まで付いていく。


「単刀直入に言いますが、パティシエの高間さんと勤務中、楽しげに話をしていたという報告を受けましたが、それは事実で間違いありませんか?」

「え?」

「私語をするなとは言いませんが、報告によると、随分親しげだったとか……」


その話を聞いた私の頭に真っ先に浮かんだのは巴さんの顔。


「その報告って、巴様からですか?」

「……守秘義務がございますので、私からは何とも」


巴さんが言っていたのかを尋ねてみても、『守秘義務』と言ってはぐらかされてしまったけれど、昼間の出来事を思えば誰が報告したかなんて分かりきっている。


「親しげだなんて、とんでもないです。あくまでも同じ職場の人と話しをしただけです」

「まあ、貴方にも言い分はあるでしょうが、立場を弁えてください。私たちは皆、上澤家の人間に雇われている身。家主に逆らうことは許されない。それは分かりますね?」

「…………っ」

「それと、貴方には明日から厨房へ入ることを禁じます」

「なっ! どうしてですか!? それだと巴様へ食事やお菓子の配膳が出来ません」

「お菓子は高間さんが、料理は手の空いている者に巴様の部屋の前まで運ばせますので、貴方は巴様の部屋の前でそれを受け取ってください」

「そんなっ! それでは他の方の負担が増えるだけです!」

「何を言おうと、これは決定事項です。いいですね?」

「…………」


あまりにも理不尽な決定事項に私は怒りを覚えて気がつくと、


「分かりました、私が直接、巴様にお話しをして取り消していただきます!」

「来栖さん! 待ちなさい!」


如月さんの制止も聞かず、私は執務室を飛び出して巴さんの部屋へ向かって行った。


「巴様、少しお時間宜しいでしょうか?」


巴さんの部屋の前までやって来た私はノックと共に声を掛けると、少し時間を置いてから巴さんはドアを開けてくれた。


「……何だ? 呼んだ覚えは無いが?」


けれど、呼ばれてもいないのに来たことと、昼間の出来事が尾を引いているようで機嫌が悪い。


「お話があります」

「俺はもう寝るところなんだ。いきなりやって来られても迷惑だ」

「それについては謝ります。すみません。ですけど、どうしても今話をしたいのです」

「……はあ。分かった、入れ」

「ありがとうございます、失礼します」


怪訝そうな表情で断られたものの、どうしても話をしたいことを告げると、わざとらしい大きなため息を吐いたのち、部屋へ入ることを許可してくれた。


「……何なんだ? わざわざ押し掛けて来るくらいなんだ、余程の内容なんだろうな?」


部屋へ入ると、荒々しくソファーに身を沈めた巴さんは私に話を振ってくる。


「……如月さんからお話を聞きました。明日以降、私が厨房へ入ることはいけないと」

「それが何なんだ? 俺には関係ねぇ話だろう」

「関係あります! 如月さんに高間さんとのことを報告したのは巴様ですよね?」

「当然だろう? 勤務中、男に色目を使ってるんだ。目障りだ」

「そんなことした覚えはありません! ただ、同じ職場の人と話をしていただけです!」

「そうとは思えねぇな」

「どうしてですか!?」

「同じ職場の人間というだけで、名前で呼ばれることを許可するのか?」

「え?」

「そもそもお前は俺専属のメイドだ。以前にも言ったが、俺が言ったこと以外する必要は無い。明日からは俺の側で俺が言ったことをやればいい」

「そんな……こんなの、横暴です……あまりにも、理不尽過ぎます……」

「理不尽で結構だ。この屋敷には主に俺が住んでいるんだ、俺のルールに従うのが普通だろ? 分かったら出て行け」


あまりにも身勝手な言い分に言い返したくても立場的に言い返せない私はぎゅっと唇を噛み、


「……分かりました。明日から厨房には近づきません。巴様の仰せのままに行動致します」


巴さんが提示した内容に納得せざるを得なかった。


「最初からそうすればいい」


ふんと鼻を鳴らした巴さんはこちらを見ることはなく、そんな彼の背を恨めしげに見つめた私は部屋を後にした。

愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心

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