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「あっれ~?
冨樫さんと風花じゃないですか」
倫太郎は若手秘書の林弦太とともに蕎麦屋の前を歩いていたのだが。
倫太郎の視線を追ったらしい林は、壱花たちに気づき、そう声を上げてくる。
「あの二人、最近、仲いいですよね」
林は特に悪気もなく、笑ってそう言ってきた。
……いや、悪気があろうがなかろうが、別にいいのだが。
いや、本当に。
などと思いながら、倫太郎は、
「行くぞ」
と言って、素早く店の前を通り過ぎようとした。
だが、
「あら、倫太郎さん」
と声をかけられる。
切れ長の目の艶やかな美女が正面からやって来た。
彼女は落ち着いた藍色の着物の上に蘇芳色の大判ストールを一枚羽織っているだけだった。
洒落てはいるが、寒そうだ。
あやかしってのは寒さを感じないのだろうかな、と思いながら、倫太郎は、その美女、キヨ花を見た。
昨夜、壱花とともにストーブに当たっていた子狸たちを思い出したが。
まあ、あれは、壱花と寒いね~、きゃっきゃとやっているのが楽しいだけなのかもしれないな、と思う。
「倫太郎さん。
またお店に寄らせてもらいますね」
キヨ花はそう愛想良く言ったあと、林に流し目をくれ、行ってしまった。
林は振り返ってキヨ花を目で追いながら、
「いや、綺麗な人ですね~。
お店がどうとか言ってましたけど。
何処かのお店の人ですか?」
と訊いてくる。
呑み屋か小料理屋の女性だと思ったようだ。
いやいや。
キヨ花は、店に寄らせてもらう、と言っただろうが。
とは思ったのだが、あやかし駄菓子屋のことがバレても困るので、
「まあ、そんなところだ」
と倫太郎は軽く流した。
「何処のお店なんですか?
社長っ、今度連れてってくださいよ~」
と冨樫とは対照的に、人懐こくて、甘え上手な林が言ってくる。
ああ、今度な、と適当なことを言いながら、倫太郎はチラと壱花たちの方を窺ってみたのだが。
ふたりが、こちらに気づいている様子はまるでなかった。