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年の頃はフレアたちより少し上か、同じくらい。 14,5歳の青年は、ニヤニヤ二人を眺めながら、偉そうに「おい」と声を掛けた。
素知らぬ顔で無視したフレアは、一旦話を戻そうと提案したが、二人の正面に回り込んだ青年がそれを許さない。
「おいって言ってんだろ、無視すんな!」
ペトラに顔を寄せた青年は、ペトラと同じダンジョン残留孤児のようで、身なりは整わない反面、二人からはとても威張っているように見えた。 氷のように冷たい顔で再び青年を無視したフレアは、立ち上がり、ペトラの手を取って歩き出した。
「待てってんだろ。生意気してくれんじゃん、ガキの分際で」
また正面に回り込んだ青年は、笑いながらフレアに手を差し出した。
「見たぜ。さっき魔法商に良さげなモノ見せてただろ。奴らが買いたいって言うんだ、金目の物なんだろ、よこせよ」
指先を前後させる青年に自分から一歩近付いたフレアは、ヤクザの親分のように据わった目をして眉を潜めると、心底面倒くさそうに「うるさいよ僕ちゃん」と嫌らしく言った。
「んだと?! ちっ、大人しくしてりゃあ痛い目に遭わなくて済んだのによ。おいお前ら、出てこい」
青年が一声掛けると、周囲の物陰からぞろぞろと同じような格好をした男女が姿を現した。 「あらら」とおどけてみせた青年は、もう逃げ場はないよと余裕をみせつけながら戯けた。
「大人しく渡すか、それともボッコボコにやられるか。10秒やるから選べよ」
取り囲んで嫌らしく振る舞う青年たちに対し、輪をかけてふてぶてしく弓のようにふんぞり返ったフレアは、貴族令嬢のように口元に指先を添えてから、周囲の声全てを掻き消さんばかりに高笑いした。
「このガキ、何が可笑しい?!」
「これが可笑しくなくて何。女の子二人を囲んで金品の要求なんて、紳士の風上にも置けない振る舞いだこと。可笑しくて笑っちゃう」
「調子にのりやがって。お前らやっちまうぞ。手ぇ貸せ!」
ジリっと距離を詰めた青年たちに、不敵に笑いかけたフレアは、バッと両手足を大きく開きながら大袈裟に宣言した。
「それ以上近付いてみなさい。10秒後、後悔するのは貴方たちよ。わかってるのかしら?」
往年のカンフースタイルでクイクイと手招きしたフレアは、グゥッと膝を落として身構えた。 しかしそのままさらに少し身体を捩ると、静かにペトラの背後に顔を隠した。
「さぁ何処からでもかかってらっしゃい。ペトラちゃん、奴らをやっちゃいなさい!」
ピンと張り詰めていた空気が、またさらにピンと張り詰めた。 フレアの隣で事の成り行きを眺めていたペトラは、口を開けたまま「はい?」と首を捻った。
その場にいた全員の頭上にも、巨大なはてなマークが浮いていた。
「あ、……ええとフレア。なんだって?」
「だから、ペトラちゃんがコイツらをバッタバッタとやっつけるのよ」
「なんで俺が……。いやいや、喧嘩売ったのフレアだろ。自分でやれよ」
「無理に決まってるじゃない。私はどこにでもいる幼気な少女なんだから。それにペトラちゃん、前にモンスターくらい俺が倒してやるーって豪語してたじゃない。この子たちくらい余裕でしょ?」
何を自信満々に宣言してんだと呆れ返るペトラのことなどつゆ知らず、骨を鳴らし近付いた青年たちは、「どうやらタダのバカだ」と背中に隠していた武器を握った。
頭を掻いたペトラは、一つも動じないフレアにため息をつき、「なんで俺が」と項垂れながら腕をまくった。
「覚悟できてんだろうな、やっちまえ!」
青年たちが一斉襲いかかった。
「ヒャッ!」と身を潜めたフレアを背に隠し、大きく舌打ちをしたペトラは、仕方ないかと目を瞑り地面に手をつき、ボソボソと何か呟いた。
「―― この地に集いし水の神よ。我に力を貸せ、冷気!」
ペトラの指先から地面を伝った冷気が立ち昇り、目前に迫った青年たちの足元が氷漬けにされていく。つんのめるように立ち止まった面々は、動くことができず「なんだこれ?!」と困惑の声を上げた。
しかしその光景に最も困惑していたのは、青年たちではなく、ほかでもないフレア自身だった。
『ええええ?! ぺ、ペトラちゃん、魔法使えたのー!』
「ふふん。最近ちょっと覚えたんだ、すげぇだろ」
「ず、ず、ズルいよぉ。私だって、魔法使ってみたかったのにぃ!」
「フッフッフ、修業の道は果てしなく長いぞよ、フレアくん」
今のうちにとフレアの手を取ったペトラは、敵の合間を縫うようにひょいひょいと身軽に躱し、「じゃーね!」と手を振った。身動きが取れず為す術のない青年たちは、二人に容易く逃亡を許してしまった。
「ペトラちゃん、どうして魔法のこと黙ってたのよ。ズルいッ!」
「言ったら驚かせらんねぇじゃん。奥の手は最後までとっとくものよ」
ケラケラ笑いあう二人に対し、何処からか声が聞こえてきた。 どうやら青年たちの別グループが声を掛けて集まっていたようで、「あっちだ!」という男女の声が建物の壁に反響し聞こえてきた。
「随分と騒がしいこと。ま、俺らもそんなに変わらねぇか」
フレアの手を握って走り出したペトラは、長年の勘を働かせ、追手の少ない方向を選び逃亡した。
初めての経験に目を輝かせて走るフレアは、なぜか凛々とした笑顔を浮かべながら、「なんか楽しいね」と笑った。
「何が楽しいもんか。捕まったら身ぐるみ剥がされて袋叩きなんだぞ。楽しくねぇよ!」
「ふふふ、大丈夫大丈夫。だって、私にはペトラちゃんがついてるもん♪」
「だから大丈夫じゃねぇんだって……」
ペトラが言葉の続きを言いかけたところで、正面方向から「あっちだ」という声が聞こえた。 回り込まれたことを悟ったペトラが、急ブレーキをかけて止まった。
左右に抜け道はなく、挟まれれば逃げ道がなくなってしまう。
慌てたペトラがどうすると思慮した直後、また別のところから声が聞こえてきた。
『 おい、こっちだ! 』