Side Bear
どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる。
朝になったらしい。
俺は起き上がる。カーテンを開け放つと、ベランダにいたスズメが一斉に飛び立った。
「……あれ」
枕元に、何やらおかしなものを見つけた。それは、中身の入っていないガラスの小瓶。蓋はコルク栓だ。
「あっ!」
そこで、数日間の記憶が蘇ってくる。なぜか俺はクマになっていて、動物のメンバーもいて、森の中を冒険していたんだ。
その途中でこの瓶を見つけた。それが何でここにあるんだ?
辺りを見回してもいつもの家だし、外の景色だって変わってない。身体も人間だ。
俺はスマホを手に取る。そこで初めて、表示されている日付に気づいた。
森に行く前の夜、そこから1日進んでいた。つまり一晩しか経過していないんだ。森の中ではもっと経っていた感じがするのに。
でもとりあえず、メンバーに連絡をしよう。SixTONESのグループラインを開いた。
『みんなおはよう
今朝起きたら、こんな瓶が枕のとこに落ちてたんだけど、もしかしてみんなのとこにもある?』
すぐに既読がついた数は、4つだった。見ていない一人は、たぶん樹だろう。実際、4人から返信が来た。
『俺もあった! 何にも入ってないよ』
まずはジェシーが写真つきで送ってくる。
『ある。もう人間に戻れたのに、何でだろう』ときょも。
『あったよー
ってか仕事した日の次の日になってるね。とりあえず、仕事に穴は開いてなさそう』
そう北斗の安心した顔が浮かんでくる。
『ほんとだ。俺のとこにも』と高地。
最後に、しばらくして樹から『俺も』とだけ。
『ってことは、やっぱり夢とか幻じゃなさそうだね』
って送ったら、
『そりゃそうだろ、どうやったら6人一緒に同じ夢見るんだよ』
高地の突っ込みは最もだ。
それからは、今日もあるグループ仕事の準備に入ったのか会話が途切れる。俺も支度を済ませて、マネージャーさんの車に乗り込んだ。
「だーかーらぁ、ほんとなんですよ! 信じてくださいって。メンバーにも聞いたら同じこと言いますよ。メールで確認したんですもん」
マネージャーさんに不思議な体験のことを話しても、苦笑するだけだった。信じてもらえないのも想像の範囲内だけど、どこかもどかしい。
仕事現場でみんなと会った後も、森の話で持ち切りだった。もちろん、周りのスタッフさんはみんな引いている。
「やっぱはっきり覚えてるよな。飛んでたこととか、高地がいなくなった騒動とか」
北斗に続いて大我も、
「あと樹がジェシー食おうとしてたこともな」
樹がやや青ざめた。「…ごめんって! あれはガチでライオンだったからで、今そんなことしないし」
「そりゃそうだろ! AHAHA!」
「俺、食べた木の実の味とかも覚えてる」
言うと、高地も一緒にうなずいた。「そうそう。だから、ほんとに何だったんだろうね。不思議でしかない」
俺らは揃って首をかしげる。バラエティーでのトークのネタになるかもと思ったけど、きっと出演者たちに笑って一蹴されそうだ。
そのとき、スタッフさんから声が掛かった。
「SixTONESさん、スタンバイお願いしまーす」
俺らは顔を見合わせ、眩い明かりの下へ向かう。
今の俺らはSixTONESだ。魔法みたいな出来事も、きっとこの6人だからこそ巡り合ったんだろう。
気持ちをアイドルに切り替え、5人の背中を追った。
終わり