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好き、嫌い、好き…
両手が赤い花弁で満ちる。
それでも未だ決まりはしない。
この果てにあるものが好きだと気付いてしまえば… 好きだと認められる自分と、目が合うのだろうか。
…でも、幸い花はまだまだ沢山あるのだから。ゆっくり、じっくり決めていこう。
胸元の花を、大切に撫でた。
「『花切り花弁』。14区の裏路地で発生。ある一つの会社を中心に原型が残らない程のバラバラ死体を多数発見され、その犯行を見ていた裏路地住人によって存在を確認。被害規模も小さく、事件現場が規制の緩い裏路地であることから元は都市伝説レベルであった。しかし近頃巣の中で同様の事件が発生し、その原因も解決の目処も立っていないことから一気に都市疾病へ…なぁ…。」
「次の依頼ですか?巣を跨いだ依頼は流石に移動費が馬鹿になりませんよ。」
「そう思うだろ?ただこの依頼、N社理事サマ直々に提出された依頼らしくてな。移動費からパスポート、何なら依頼進行中の費用さえ予算見積もり書を申請すりゃあ請け負ってくれるらしい。」
「え〜?そんな美味しい話あるの?」
「あった。て訳で今から行くぞ。準備しろ。」
「…ん、待って。まだこのハムハムパンパン【明太チーズトッピング3倍】が…」
「お前はお留守番だ金食い虫。」
「は?」
「しょうがないよ〜ミシェルちゃん。それだから今日は私のお手伝いでも…」
「テメェは来んだよ疫病神。早く準備しろ。」
「え?」
「…はい?」
今回割が良いと取ってきたこの依頼。普段なら目も呉れない内容であるが、勿論こんなバカ遠い所まで行く理由はいくつかある。その一つに…ヴェルドとミハイルの不仲解消。というよりはヴェルドが一方的に嫌っている状況の打破であった。
普段ならば即二人で依頼現場へ向かい、さっさと解決する流れ作業。互いに気負うこともなく、それであって互いに命を預け合う関係。ヴェルドはこの関係が一番気楽で一番楽しい、と呟いていた。
だが、その関係をぶち壊しつつ億の借金を持ってきたカスの到来。
今の常に不機嫌なヴェルドを見りゃあ誰だって気付く。明らかにストレスが溜まってる。ミシェルに対しては普通に接している辺り本当にアイツだけが嫌いなのだろう。一応代表として、そして幼馴染として。さっさと解決してやる必要がある。
それに、あんなのだって一応事務所の仲間だ。どうせなら仲良くやって欲しい。
だから…今回の依頼は、言わば一芝居。K社アンプルの多数用意に未来生命保険にも加入させておいたので、どれだけ雑魚のミハイルでも死ぬ、なんて事は起こり得ないだろう。その状況下で、俺と同様に命の預け合いをしてもらう。そうすりゃあ…多分二人の関係も良くなるだろうと信じて。
そうして。俺等三人は喚き散らかすガキを置いて、N社へ向かうのだった。
「遠路はるばるお集まり頂き感謝致します、◯◯事務所代表ジェローム様。事務員様。それでは今回の依頼について──
味気ない灰色のビル群、それらが一望できる広いラウンジの備え付けられた一際大きいビルの中で、俺らはねじれ依頼についての説明を受けていた。
やはりN社直々の依頼となると段取りが丁寧かつ素早く、その為だけに雇われる人間が居る程だった。書面だけのやり取りを繰り返していた他の依頼が馬鹿らしく見えてくる。
…今回、〇〇事務所として正式に受けた依頼は『花切り花弁』の追跡、捕獲であった。その姿は第一発見者によってリークされており、N社職員がその姿を巣の中で発見した場合、即座に位置情報が発信されるように…と、堅苦しい言葉で説明していた。
真っ赤で巨大な花。それらがいくつも巻き付いて、人の形を成している。その両手には錆びついた刃物を携えていて…目の前の元上司を引っ捕らえ、時間を掛けて細切れにしたらしい。
# . 天 使
3,301
「──これで、今回の依頼に関する説明は以上となります。何かご質問などはございますか?」
「無い。」
「ないよー」
「…ありません。」
…が、ねじれの詳細などどうでも良かった。
「…じゃあ俺はコッチ側探すからな。ソッチは二人で探してくれ。 」
「…代表。また何考えて──」
「おっけー!また後でね!」
その言葉を聞いた瞬間、ジェロームは背を向け走り去ってしまった。
元々突拍子の無い事をする性格ではあったが、腐っても一級事務所の代表。考えも無しに単独行動をしている訳でも無いだろう。
…が、余りにも状況が悪かった。
戦力にもならず、何処にねじれが潜んでいるか解らない以上適当に逃がす事も叶わない。そんな状況で足手まといを一人で抱え続けると云うのは、正直荷が重かった。
そして…
「よし!じゃあヴェルド、早速ソッチを探しに行こ!」
「…ええ。」
互いの歩幅を確認しながら歩く。背中なぞ見せる訳にもいかず、常に気負い続けるひたすらに疲れる時間。苦痛でしかなかった。
隣でふんふんと鼻歌を歌うカスを見ながら、自分常に同じ思考に囚われていた。
…何故こうも仲間ヅラ出来るのだろうか。 三十億。三十億だ。 自分と代表とで掻き集めた資金さえ帳消しにする大失態。代表も怒りこそすれど、殺しはおろか借金を残し去ることさえしない。
…何故?昔の恩だ情だなんぞ、都市において何の意味もない事を知っているだろうに。そうやって甘やかすから付け上がるのだ。
もういっそ、事務所から離れたこのN社で処理してしまおうか…
「……ヴェルド…あれ…」
「はい?歩き疲れたならそこらで…」
2つ3つ先の路地で血煙が漂っている。巣の中だと言うのに人の姿は一切無く、灰色の路地良く栄える赤だけがこびり付いていた。
それらを踏み潰し、歩みを止めない一つの人影。 その赤を握り固めた様に真っ赤なシルエットがじっとコチラを見つめている。
「…目撃情報によれば、該当ねじれは真っ赤な花で形成された人型実体。その両手に凶器を持っているとのことです。」
「…アレじゃん。」
そのシルエットが路地を抜け、陽の光に当たる。すると見えて来たのは…
…ぐるぐると巻き付かれた直腸に大腸、そして何百もの血管。その姿は 人型でこそあれどバルーンアートの様にねじられ、曲がり…辛うじて花弁に見える不定形な臓器の化け物であった。肩から先は錆び付いた花切り鋏となっており、こびりついた赤からは数多の犠牲者を彷彿とさせる。
「好き、嫌い、好き…」
本来頭部がある部分に貼り付き、剥き出された巨大な歯茎が心電図の様に上がっては下がってを繰り返す。それと同時に鋏が軽く揺れ動き、 ジャキジャキと肉を裂く音と共に足元の赤色が更に深くなっていく。
…武器を取り出す。
俺はそそくさとヴェルドらから離れた後、人通りの少ない建物間を通って移動していた。
N社に支給されたパスポートによって即裏路地へ駆け込んだ俺は、近くの西部ツヴァイ協会へ駆け込み片っ端から依頼を受けていた。
『暗闇の案内人』。
『マネキン人間』。
『特発性殺人症候群鶏』。
そのどれもは都市伝説かそれにすら満たない程度の低い依頼だった。しかし、陥没し無法地帯となった14区の裏路地ではその程度の依頼すら少なくなっていた。指に傘下組織に翼に…そんな状況でたかがねじれの一匹二匹を気にする者は居なかった為だろう。
ハナ協会による割の良い依頼は、そのどれもが都市悪夢相当に匹敵する命の危険がある依頼ばかり。その上で報酬が良い故に割の良い依頼なのだろうが…事務所の仲間の命と金を天秤に掛けるならば、不用意にそんな依頼受けるわけにもいかない。
だからこその今回の依頼。『花切り花弁』自体は正直どうでもいいが、他の巣へ命の危険なく、タダで出稼ぎへ行けるのはあまりにも大きかった。
軽く数時間で駆除したそのねじれ達を今回の依頼の為用意した、空間歪曲技術なるモンで作られたディメンションバッグへねじ込み持ち運ぶ。これら一匹一匹に数万数十万の価値があると思えば、自然と口角も上がるモンだ。
そうして…ウッキウキで裏路地を闊歩していたその時。遠くから水面を叩く様な、一般的なカメラのシャッター音が響いて来る。それがN社構成員の持ち物であるカメラなのは誰に言われるでもなく知っていた為、邪魔をしない様に回り道でもしようかと思ったその時…
「〜〜………!!、、、」
「〜!!!………、、、」
「……〜!!〜…、、、」
一斉にシャッター音が止んだ。
ふとそちらへ目を向けると…そこには、一つの人影と多数転がるN社構成員の死体。コツコツとコチラへ向かってくると、ビル間の淡い影から抜け、その姿があらわになる。
有るはずの頭部には、ノイズの走るブラウン管テレビ。丁寧に喪服を着こなしているが、その節々や両手は余りにも皺塗れで、老けた姿というよりは骨と皮によるヒトガタであった。
『未来投射機』。その存在がそう呼ばれるねじれである事を、ヴェロームは知らない。
…しかし、N社直々の差し金に被害が出ているこの状況を良しと見たのだろう。再び口角を上げ、ディメンションバッグからムク工房の刀を取り出す。
「…やっぱ、来てよかったな。」
「…………。」
その頭部のブラウン管テレビは砂嵐を数秒映した後、彩度の低い映像が流す。
そこには…互いの武器を交わす、二人の姿が流れていた。
コメント
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こんにちは、リオンです。第4話読みました。 「好き、嫌い、好き…」という冒頭のフレーズが、花弁のビジュアルと切れ味鋭い世界観にぴったり合っていましたね。臓器で形成されたねじれの描写、グロテスクだけどどこか哀愁があって惹かれました。ヴェルドとミハイルの確執、それを解消しようとするジェロームの一芝居…でも最後に現れた『未来投射機』で一気に空気が変わったのが怖くもあり、続きが気になりました。N社構成員全滅って…これはただの依頼じゃすまなさそうですね。次回が待ち遠しいです!