テラーノベル
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今日は私の親友のアリサの初出撃だ。戦況が刻々と厳しくなっているらしく、アリサもとうとう徴兵された。私の人体改造技術に軍部が目をつけ、アリサに自由に改造を施すことが許可された。しかし、資金援助はしないらしい。国の懐事情があるとはいえ、なかなか酷い扱いだ。
「じゃあ、行ってくるよ、エル。」
なんとか無事に初出撃を終えてほしい。
一回目
アリサが帰ってきた。頭を負傷している。
「軽傷だから大丈夫、まだ改造は要らないよ。」
私だって彼女に改造を施すなんて嫌だから、その言葉はとても嬉しい。
次の出撃は軍から報奨が出るらしい。今のうちに資金を貯めないと、後になってアリサの治療も改造も出来なくなる。アリサには悪いが、今のうちに出来るだけ稼いでほしい。
でも、アリサが無事に帰ってくるのが最重要だ。
二回目
アリサが帰ってきた、新たな傷を作らずに!
軍からも報奨が出た。
「これで、いつ私の改造をすることになっても大丈夫だね。」
いや、改造なんかしなくていい。アリサが無傷で帰ってくれば、そんなもの必要ないんだ。
これからもアリサは無傷で帰ってきてくれるはずだ。
三回目
アリサが帰ってきた。彼女の右腕はボロボロになっている。もう一度攻撃されれば、吹き飛んでもおかしくない。これからもっと戦争は厳しくなる。このままではアリサは戦死してしまう。
「私の右腕に改造を施して。その方が生き残れるし、国や、弟、妹たちのためにもなる。」
ついにこの時が来てしまった。いや、あっという間に来てしまった。でも、こうするしかないんだ。
「痛っ…」
彼女の右腕は、機械に包まれた。
「これで大丈夫。…泣かないでくれ、これからも君にやってもらうんだから。ここからさらに戦況は厳しくなる、覚悟しておいてくれ。」
治療という大義名分があったからやれただけで、この先できるかどうかなんて分からない。とにかく、無事に帰ってきてくれ。
四回目
アリサが帰ってきた。腹を負傷している。しかし軽傷だ。彼女もまだまだ平気だと言っている。次の出撃は軍から特別報奨が出る。今のうちに稼いでくれ。
五回目
アリサが帰ってきた。右足を負傷し、頭に巻かれた包帯は真っ赤に染まっている。次攻撃されたら一撃で脳幹を破壊されて死んでしまう。嫌だ、彼女の顔にメスを入れるなんて嫌だ。
「頼むよ、エル。金と私の顔だけで、私が生き残れるなら万々歳じゃないか。」
やるしかない。これはもとより決まっていたことだ。私も覚悟を決めよう。
「あ゙っ…ぐぅっ…」
彼女の右目は機械に変わった。
「これならどんな攻撃にも反応できるよ。」
アリサが耐えてくれた。私も耐えなきゃ。これからの改造のためにも、アリサは軍から報奨が出る戦場に赴かなければならない。
「大丈夫、今回は危険度が低いから。」
無事に帰ってきてくれ。
六回目
アリサが帰ってきた。左右の腕を負傷している。彼女の右脚には大きな穴が開き、改造が必要だ。
ためらう暇は無い。アリサの戦場での危険度が少しでも下がればそれでいい。
「うっ…」
彼女の右脚は緑色になり、高い機動力を手に入れた。
私たちなら大丈夫だ。資金も十分に貯まっている。あとはアリサが耐えるだけなんだ。
七回目
アリサが帰ってきた。久々に無傷だ。しかし、彼女の古い傷が癒えることも、私の心が晴れることも無い。こんな戦争、早く終わってくれ。
次の出撃は、軍から特別報奨が出る。危険度は今までで一番高いが、アリサは行くと言っている。まだ、資金に余裕はあるのに…
八回目
アリサが帰ってきた。元々負傷していた右腕はボロボロになり、腹に巻かれた包帯も、アリサの臓物が漏れ出るのをなんとか抑えている状況だ。そして、彼女の左足は…
完全に破壊されていた。戦車砲で一撃だったという。
「クソッ…心が折れそうだ…」
もういっそ折れてくれ。そしたら、私も軍も諦めがつく。そうだ、それがいい。
「…いや、こんな弱音を吐いたらだめだな。すまない、かなりかかると思うが、右腕と腹の改造、そして左足の移植を頼む。」
…そうだね、貴女はそう言うと思った。もう、後戻りはできない。
「うあ゙っ…あああ!ぐっ…」
彼女の右腕はさらに禍々しくなり、腹はやや紫がかっている。移植された左足は異形のものだった。
彼女の体で、純粋な人間のままなのは、今や左腕だけだ。
「この左腕だけは、守りたいなぁ…」
彼女の心のためにも、もう傷を負わないでくれ。…いや、私の心のためだろうか。
改造によってアリサの身体能力は飛躍的に上がり、ちょっとやそっとの敵には不覚をとることなど無さそうだ。これで、少しは安心して送り出せる。
九回目
アリサが帰ってきた。やはり無傷だ。やった!
「ね?大丈夫だったでしょ?」
彼女は誇らしげだ。これから数日、戦闘は佳境に入るそうだ。彼女にはより一層、がんばってもらいたい。
十回目
アリサが帰ってきた。腹に一発食らったらしいが、彼女はピンピンしている。
「まだまだ、戦闘は終わらない。すぐに戻る。…大丈夫、私は何度でも帰ってくるよ。」
そう言って、アリサは出撃した。
十一回目
アリサが帰ってきた。両脚を負傷し、腹は銃弾が貫通している。
「さあ、早く。改造してくれ」
彼女の瞳に光が無い。さすがにそろそろ堪えてきたようだ。
「…もう、改造されるのにも慣れてしまった。」
彼女の腹の紫色は濃くなり、禍々しさを帯びている。
早く、戦争が終わってくれ。彼女の心も体も限界なんだ。
十二回目
アリサが帰ってきた。左脚は今にもちぎれそうだ。まだ、直せる。今回は移植は要らない。
「あとちょっとだから…もう少しだけ…」
彼女の左足はさらに強靭に、禍々しくなった。
明日、この佳境が落ち着く見込みらしい。戦争はまだ終わらないが、希望は見えてきた。
十三回目
アリサが帰ってきた。右腕を故障しているが、少し戦況が落ち着いたことに喜んでいる。
「よかった…本当によかった…これで少し楽になる…」
彼女が少し元気になったようで私も嬉しい。
軍によると、まだ山場はあるそうだが、あと数日の猶予があり、程度も今回よりもマシになる見通しのようだ。
十四回目
アリサが帰ってきた。無傷だ。これで私も少し安心できる。
「次の山場に備えてお金貯めなきゃね。」
そうだ、無駄遣いは許されない。まだ猶予はあるから、備えていこう。
十五回目
アリサが帰ってきた。腹を負傷している。右腕はかなり深刻な故障だ
「しっかり直してね」
今回の改造で彼女の腕はすっかり機械になってしまったが、ほかの箇所よりは多少マシだ。
軍によると、次の山場まであと二日ほどあるとのことだ。
「ありがとう。もう一回、気合い入れないとね。」
そう言って、アリサは出撃した。
十六回目
アリサは帰ってこなかった。代わりに、アリサの同僚だった男が来た。
彼によると、敵は想定より早く、何の前触れもなく総攻撃を仕掛けてきたらしい。休息を取っていたところ、アリサは腹を撃ち抜かれた。部隊が恐慌状態に陥る中、アリサは落ち着いて敵を撃破していったという。しかし敵が多かった。防御力の低い左腕に集中砲火を受け、左腕が吹き飛ばされた。そして…
そこまで聞いたところで、軍からアリサの遺体が届けられた。
彼女の頭は、スナイパーライフルによって一撃で破壊されていた。即死だ。
彼女がいた部隊は、数を半数以下に減らしながらも、なんとか帰還したらしい。
軍がもっと情報収集を徹底していれば、軍からの資金援助があれば、そもそも、戦争が無ければ…いや、私がケチって改造を怠ったせいだ。資金には十分な余裕があって、残すは最後の山場だけだった。資金が余分にあれば、最後の戦闘で重傷を負っても治せると考えていた…
数日して、この国は戦争に勝ったと聞いた。勝ったから何だ、勝ったところで生活は良くならず、アリサも戻ってこない。得たものは何も無く、失ったものはあまりにも多い。もう何もやる気が起きない。戦争なんかクソ食らえ。
コメント
1件
うわ、これ…読み終わってしばらく呆けてしまいました。1話完結で一気にここまで持っていく構成力がすごい。エルの「改造なんかさせたくない」という気持ちと、アリサが少しずつ機械になっていく描写の対比が痛いほど伝わってきます。特に「左腕だけは守りたい」の伏線を、左腕が撃ち抜かれてから頭を撃たれるという順番で回収するの、読んでて息が止まりました。戦争が日常を少しずつ侵食していく感覚、最後の「クソ食らえ」に全てが詰まってますね。素晴らしかったです。
#青赤