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それから1週間後。俺は完全に体の調子を整えて、久しぶりに『シュガーライフ』の撮影現場へ足を運んだ。体調はもう問題ない。けれど、現場に入ってすぐ、俺は妙な違和感に気づいた。いつもなら撮影の準備で慌ただしいはずなのに、どこか空気が違う。
そして、スケジュール表を確認して、俺は思わず声を漏らした。
「監督が他の監督と交代…?」
ここ数日、スケジュールに『シュガーライフ』の撮影が入っていなかったから、もしかしてとは思っていた。でも、本当に監督が交代するとは思っていなかった。
「なっちゃん、マネージャーさんに聞かされてなかったん?」
みことがそう言うと、俺は少し気まずくなって視線を逸らした。
「看病しに来てくれたマネージャーに移しちゃって、しばらく代理のマネージャーと」
「なっちゃんはもう大丈夫なん?」
「あぁ…それより、監督が変わったつーことは」
「?、どうしたん?」
「台本もかなり内容が変わると思う…監督の名前は?」
「〇〇さん !」
その名前を聞いた瞬間、俺は少し考える。
「あの監督は、原作通りで実写化とかは毎回成功してる…なら、一から十まで変わるな…撮影も最初っからだ、笑」
「うぇっ、た、大変そう…」
「はいこれなっちゃん!」
「「うわぁ”ぁ!?」」
突然、後ろから声をかけられて、俺とみことは揃って声を上げた。振り返ると、そこには台本を片手に持ったらんが立っていた。
「風邪、もう大丈夫?ごめんねお見舞い行けなくて」
「だ、大丈夫…つーか声デケェよ 」
そう答えながら、らんが俺たちに差し出してきたものを受け取る。新しくなった『シュガーライフ』の台本だった。
俺はさっそく表紙を開き、ペラ、ペラ…とページをめくっていく。数ページ目を読んだところで、思わず眉を上げた。
「かなり内容変わってるな」
「でも、ちゃんとすちくんの子達って感じ…流李くんとかめっちゃそうやん!⸝⸝」
みことが嬉しそうに台本を覗き込みながら言う。
「みこと、随分と嬉しそうだな?笑」
そう言うと、みことは途端に顔を赤くした。
「だ、だって…これですちくんの作品がもっと世間に広まると思うと…すっっごい嬉しくて⸝⸝」
「ぁ、ちなみにあの監督…この前の撮影依頼、家から出てこないんだって」
らんがニヤニヤしながら言う。
昔からこうだ。なにか悪さをしたり、態度が悪かったりする奴が炎上したり、なにか取り返しのつかないことになったりすると、決まって楽しそうに話す。
「お前…ほんとそーいうの好きだよなぁ、性格悪いやつ」
「不幸は蜜の味だからね~ ⸝⸝
あっ、ここ!いるまが演じる美来 流李がなっちゃんが演じる織姫 威音璃をお姫様抱っこして走るシーンじゃん!原作だとかなり盛り上がった部分だよね!1ページ目だけど!」
らんが台本のページを指差す。俺もみことも、そこに書かれた場面へ視線を落とした。
「冒頭のシーンだ!へー、これやるや……✨️」
みことが目を輝かせる。その隣では、らんまで楽しそうに台本を覗き込んでいる。
「お前ら目を輝かせるな!」
思わず二人にツッコむ。 けれど、改めて台本を見ると、その場面がしっかりと書かれている。
「っ… ⸝⸝これやらなきゃダメかぁ?いや、だめだろうけど、、わざわざお姫だっこなんて⸝⸝」
そして、また別の撮影日。
今回の撮影現場は屋外だった。漫画の1ページにもなっている、流李が威音璃をお姫様抱っこして走るシーン。確か、敵に追われている場面だったはずだ。どうしてこうなってしまったのか、その理由もこの前撮影していた場面へ繋がっていく。
標高の高い場所での撮影ということもあって、外はかなり冷える。撮影の準備が整うまで、俺たちは寒さを避けるために用意されたテントの中で待機していた。コートを羽織り、スタッフさんからもらった温かいココアを飲みながら、俺は隣にいるいるまへ視線を向ける。
「…はぁ、ちょっと寒いな…」
「まぁ、高い山だもんな…ここ」
俺はココアの入ったカップを両手で包みながら、ふと気になっていたことを口にした。
「…いるま、力あんの?」
「ん?ぁー、お姫様抱っこの?まぁ、 そりゃあ鍛えてるからな。それなりに力はある」
さらっと答えるいるまを見て、 俺は少しだけ目を伏せた。
「俺さ、そこまで身体能力高くなくて…寧ろ平均より下なんだよ。トレーニングだって、マネージャーも一緒にしてくれてるのに、全然成果無くてさ」
そう言いながら、俺はカップの中へ視線を落とした。 俺は昔から、運動が得意な方じゃない。だから今回みたいに身体能力が必要な撮影では、どうしてもスタントマンに頼ることになる。もちろん、安全のためには必要なことだって分かっている。
でも、そのスタントマンの中には、撮影中に怪我をしてしまった人もいた。
俺は顔を下げた。 こんな自分が、嫌だった。 もっと運動ができればいいのに。 もっと自分自身で、できることが増えればいいのに。
そう思うほど、代わりに誰かが危険を負ってくれていることが申し訳なく感じる。
だから…こんな自分が、情けなかった。
「暇さん、叢雲さん、撮影始めますので準備お願いしまーす」
「ぁ、はい」
スタッフさんに呼ばれ、俺らはテントの中で羽織っていたコートを脱いだ。今回のシーンは敵に追われている場面だから、衣装の制服もところどころボロボロに加工されている。
つまり、かなり寒い。
寒さに耐えながら撮影場所へ向かうと、監督からさっそく指示が飛んできた。
「じゃあ、叢雲くん。暇くんのことお姫様抱っこして、リハーサルね。そこの木の間から走れる?」
「はい」
いるまが返事をした、その瞬間だった。
ふわっと体が浮く。
「ぉうわ!?」
突然のことに驚いて、反射的にいるまへしがみついてしまった。
「っ、… ⸝⸝」
「…いるま?」
なぜか、いるまが固まっている。
「どうした?」
「いや、なんでも…ぁ、じゃあ走ります…はい」
そう言うと、いるまは俺を抱えたまま、監督に指定された場所まで歩き始めた。
「そこまでは歩けるつーの!一旦おろせ!」
俺が文句を言うと、いるまは少しだけ笑う。
「いやいや、急に走ったらバランス崩れるかもじゃん」
「リハーサルなんだから、そこまで気にしなくていいだろ!」
「安全第一だって」
「お前、過保護かよ…!」
「よし!ここまで一旦走って!」
監督が指示を出す。
「はい!」
いるまは遠くにいる監督にも聞こえるように、腹からしっかりと声を出して返事をした。
「おぃ、声もーちょい小さくても聞こえ_」
俺がそう言いかけた、その瞬間だった。
ダッ!
「っ、!」
いきなりいるまが走り出した。
タッタッタッタッ
「うぅ、わぁ”ぁぁあぁぁ!!!!は、はやいはやい!はやいぃ!!!泣」
反射的にいるまへガシッとしがみつき、服を両手でグイグイと引っ張る。 いるまはそのまま指定された場所へ向かって走っていく。
その視界の端に、監督の隣に座っているすちの姿が入った ……そして
すちが、ものすごくニコニコしている。
(あ、あいつ!あくま!!あくまだ!)
絶対楽しんでる!! 俺が必死になっているのを見て、めちゃくちゃ楽しんでる!!!
「はぁ、はぁ……」
ようやく指定された場所までたどり着き、俺は地面に足をつけると、息を整えながら肩で呼吸をした。いるまは全然平気そうにしている。…なんでだよ。
「うーん、もしかして暇くん絶叫系苦手?」
監督が少し不思議そうに尋ねてくる。
「い、いや好きですけど…ジェットコースターはシートベルトありますけど、コレはないんで…安全なわけないじゃないですか。免許持ったばかりの人が運転する車ぐらい怖いです」
「そんなに…?w」
監督が笑いながら言う。
「おい、コレ言うなよ、コレ」
すると、監督が台本を確認しながら口を開く。
「威音璃くんはねー、常に余裕があって、計算高い子だからねぇ…原作でもココはかなり楽しそうだったよね?ねっ!すっさん!」
監督が隣に座っているすちへ話を振る。
「そうですねー、暇さんに悪いけどもっかいしてくれる?」
「え”」
数十分後。
俺が少しでも慣れるために、叫ばないために、そして威音璃のような余裕のある雰囲気を出すために、何度も何度も練習した。
けれど、結果はというと…
「ぅ、うぅ…」
俺はすっかり力尽きて、いるまの腕の中でダウンしていた。
「うーん、この調子だと、無理そうだね…しょうがない。代わりの人に衣装着せて走らせよっか。あとは編集でどうにかして」
「えっ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は顔を上げた。
代わりの人… それは、嫌だ。
なんでだろう。
その方が俺にとっても楽なはずだ。怖い思いをしなくて済むし、いるまに何度も負担をかけることもない。
いや、よくない! よくない、よくない!
俺は役者だ。こんなので代わりの人を用意してもらったら、編集だって大変になる。それに
(いるまが、他の人をお姫様抱っこして走るのは…嫌だ!)
そう思った途端、俺はいるまの腕の中から顔を上げた。
「監督!もう1回チャンスください!」
また、俺たちはあの場所まで戻ってきた。
「なつ、別に無理しなくても…」
いるまが心配そうに声をかけてくる。
「ふぅぅぅぅ……」
俺はゆっくり息を吐いて、気持ちを落ち着かせる。まだ怖い。でも、今度こそちゃんとやる。
(威音璃は、可愛い…でも、かっこよくて、優しくて、計算高くて、余裕感があって、いつでも流李のそばに居る。そんなやつだ…愉快なあいつは、こんなことで叫ばないし泣かない…もっと楽しまなきゃ!)
俺は顔を上げる。
怖いからって、威音璃を別の誰かに任せるわけにはいかない… 役者として、俺自身が威音璃にならないと。 胸の奥で、強く言い聞かせる。
威音璃、安心して… 俺がお前の楽しい感情を_
視聴者にぶつけてやる!!!!
ダッ!
いるまが走り出した。
風を切る感覚と、体が揺れる感覚に、やっぱり怖いと思う… けど!
(威音璃は、こんなところで怖がらない!)
「りゅーくんりゅーくん!後ろ後ろ!いっぱい来てるから!ファイトファイト〜!」
俺が楽しそうに声をかけると、いるまが目を見開いた。
「っ、!」
けれど次の瞬間、いるまは楽しそうに笑った。
「ファイトファイトじゃねーよ!お前のその目!それが頼りなんだから、しっかり見ろよな!」
「任して!」
俺は笑いながら、後ろを確認する。怖さはまだある。それでも、今はそれ以上に楽しかった。
やがて指定された場所までたどり着き、俺たちは監督のところへ戻った。
すると、そこにいたすちさんも監督も、驚いたような顔をして俺たちを見ている。
「おぉ、さっきまでの暇くんが嘘みたいだ!いいね!活発で!今のところまんま使おう!ところどころの疲労感も相まって完璧!」
「す、すごい…」
すちも驚いたように、俺たちを見つめていた。 俺は少し息を切らしながらも、ようやくほっとする。
(できた… ちゃんと、威音璃として走れた、)
「やっっった!⸝⸝」
「…ふっ、笑」
🦈視点
どうも!今絶賛人気アイドルグループ『プルシュ』のセンター兼リーダーやってます!あめてゃ(あめの こさめ)です!
そして今回、なんとあめてゃは初めての映画出演!分からないこともいっぱいだったんだけど、同じく映画出演が初めてのみことくんとお互いにサポートし合ったり、憧れの先輩たちに教えてもらったりしながら、毎日頑張ってます!原作者さんや監督さん、スタッフさんたちともいっぱいコミュニケーションを取って、少しずつ撮影にも慣れてきたところ!
そんなあめてゃが今回演じるのは、白光 秤はドール人形だった男の子で、見た目も性格も結構可愛い感じのキャラ
ふわふわのフリフリで、普通だったらちょっとドキドキしちゃいそうな格好なんだけど…実は、あめてゃが所属してる『プルシュ』も人形をモチーフにしてるから、そこまで違和感はない! むしろ、こさめ的にはこういう衣装、結構好きかも!✨️
そんなあめてゃ……いや、こさめには、ひとつ悩みがあります。
アイドル活動は、やっぱり難しいものなんです。いつだって笑顔でいなきゃいけないし、応援してくれるファンのみんなのことも大切にしなきゃいけない。もちろん、ファンのみんなが悪いわけじゃない。でも、これまでにはストーカー被害に遭ったり、盗聴器や盗撮の被害があったり…怖い思いをしたことだって、何度もありました。
それでも、こさめはプルシュのリーダー。
ステージに立ったら笑顔でいたい。メンバーのみんなを引っ張っていきたい。 メンバーもきっと、こさめの背中を見ながら「一緒に東京ドームに行く!」って思ってくれてる。
そう思ってたんです… でもね?
「ぁ……」
とあるアイドル番組の収録日。
着替えるために、衣装が入っている自分のロッカーを開けた。
その瞬間、言葉が出なくなった。
そこに入っていたはずの衣装が、ボロボロになっていました。
前々から、気づいてました。
そう…こさめは、あめてゃは、メンバーから嫌われています。
「っ、……」
理由は、自惚れているから…ってわけじゃないんです。いや! アイドルはちょっとくらい自惚れてもいいですよね! それくらい、自分に自信を持ってなきゃいけないお仕事ですし!
…まぁ、とにかく。
あめてゃは、とっても人気なんです。
ライブでは、客席があめてゃのイメージカラーである水色のペンライトでいっぱいになる。ステージに立てば、たくさんのファンが「あめてゃー!」って名前を呼んでくれる。
握手会だってそう。 メンバー全員にそれぞれ列ができるけど、その中でもあめてゃの列はダントツで長い… 嬉しいです。 もちろん、すっごく嬉しい。 応援してくれる人がいることも、名前を呼んでもらえることも、センターとして選んでもらえたことも…全部、こさめにとって大切なものです。
でも。
その圧倒的な人気の差が、少しずつメンバーとの間に溝を作っていきました。
嫉妬。
きっと、それが一番近いんだと思います。
そしていつからか、こさに対する嫌がらせが始まりました。
最初は、本当に小さなことでした。
でも、それは少しずつ増えていって…こさめが気づかないふりをしていれば、いつかなくなると思っていたんです。
「……はぁ、」
小さく息を吐いて、目の前のボロボロになった衣装を見つめた。
…分かってた。
こうなることも、たぶんずっと前から。
メンバーのみんなが、こさめを心から好きでいてくれているわけじゃないことも。笑顔で一緒にステージに立っていても、その裏側では複雑な気持ちを抱えていることも。
コメント
1件
イチコメもらいます‼️‼️ まじでこさめちゃんのアイドルのところ結構複雑だし、なんかもう芸能界の明るい部分と闇が深い部分を一気に喰らった感じです、…。 なつくんといるまくんのシーンをニコニコで見てるすちくんの様子がまじで浮かびました笑