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おいしょー
関西弁が相変わらずわからんが許せ
変な方言混ざってます
以上ですいってら
アジトに帰って最初に目にしたのは、赤く滴る血液だった。
「……任務帰りに、運悪ィ……」
思わずもらした言葉に、血液の主──トオンが、イヌイを見る。
トオンはひどい状態だった。服はズタボロ、頭からは流血、おぼつかない足取り。普通の人間にとっては、余程の事がない限り負うことのない重症だ。
「今度は何したンだ?」
「…………」
何も言わないトオンに向かって、イヌイはため息をつく。
「テメェ、弟としかまともに会話しようとしない癖、早いこと直せ……何とか言えよ」
「……ハルカの右腕に用はない」
「てンめぇ口を開けば生意気だな、やっぱ喋ンな。それにハルカじゃねえ、ハルカさん、だろ」
イヌイは心底呆れながら、消毒液をぶん投げた。消毒液は浅い弧を描き、トオンの頭に当たる。
「それで治しとけ。次、ハルカさんに迷惑かけたら承知しねえぞ」
気分を悪くしたのか、ずかずかとした足取りで帰っていく。その背中を見つめていると、反対の方向から、聞き覚えのある足音が聞こえてきた。
「トオン、大丈夫!?」
ヒトネだ。トオンはヒトネが駆け寄ってくる方向に、ゆっくり歩く。
「俺は大丈夫だ。……ヒトネは?怪我してないか?」
「僕はしてない!それよりも、トオン、傷ヤバいよ!またハルカ!?またやられたの!?」
そう訊く……と言うよりかは、叫ぶヒトネの目には、うっすら涙がうかんでいた。
「……泣くな。俺は大丈夫だから」
「……泣いてない……!」
ヒトネは鼻をすすって、トオンの手を引っ張る。とても足早で。
トオンは黙って引っ張られた。道中、シノやルカに話しかけられたが、ヒトネが珍しくシカトしていたので、自分も下を向いて無視をした。
ヒトネが止まった。前を向くと、自分たちの部屋がある。
その部屋に無言で入ったら、ベッドに押し倒された。
「ベッド、血で汚れるぞ」
「トオンの血なら別にいいし」
いつもニコニコ機嫌が良いヒトネじゃない。多分……すごく怒ってる。
それに今更気づいたトオンに向かって、ヒトネが勢いよく抱きついた。そのままベッドに倒れこみ、ヒトネはトオンの胸に頭をうずめる。
「……本っ当に信じられない。もう二人でやめようよ、こんな組織。全員クソ食らえ、死んじまえ」
トオンはどうすることも出来ず、ただ、血まみれの右手で、ヒトネの背中をさすった。
「…………」
二人の部屋の扉の前。イヌイが、神妙な顔をして立っている。
(盗み聞きするつもりじゃあなかったけど、少し気の毒だな)
聞いていたかったが、トオンを突き放した自分がこれ以上この場にいるのもバツが悪い。
立ち去ろうとすると、微かに煙の匂いがした。
「……お、イヌイじゃん。双子ちゃんの部屋の前でなァにコソコソやってんの?」
「げっ……ルナ」
「げっ、ってなんだよ。後輩に対しての気配り、ねぇの?」
「あのなあ、ンな事……」
おまえの方が先輩だろ──言いかけたが、ルナがこちらを見ずに完全に素通りしたのでやめた。
「ハルカさん」
自分の部屋に戻った途端、イヌイは異臭に顔をしかめた。
「あっ、イヌイ。お帰り、タヨキミのアジトどうだった?」
「ああ、まあ、ここよりなんぼか環境が良かったっす。ンな事より、なんすかこの臭い……血……?」
床を見ると、まだ乾いていない血液が広がっていた。黒い布のはしきれのようなものや、細い髪の毛のようなものもある。
「これ、髪の毛っすか……青髪…………」
机には、血がついたナイフが数本置いてあった。トオンがズタボロだったのを思いだし、イヌイはため息をつく。
そんなイヌイに、ハルカは満面の笑みで言った。
「ハルカが楽しくてやってるんだよ、別にいーじゃん?」
立ち上がるハルカを見て、イヌイは眉をひきつらせる。
(そういう問題じゃねえっす……)
心の中で呟く。このままでは、ハルカの近くにいる自分も巻き込まれるかもしれない。
(オレも自分の身くらい自分で守るぞ。双子の二の舞にはならねえ……絶対だ!)
「……何があったんだ?」
目の前に広がる光景に、アジトに帰ってきたメンバーは唖然とした。
無理もない。
「テーブルはボロボロ、窓は全部割れてるし、ユカリは傷だらけだし……」
驚くカナタに向かって、ユカリが苦笑する。
「ちょっと苦戦しちゃって……!」
説明しようとしないユカリの代わりに、ユズキが口を開いた。
「実は、敵が侵入してきたんです。No.4のイヌイと、セツナさん、という幼女のような方が……結局、ユカリさんとは能力の相性が悪く、能力で姿をくらまして、そのまま帰ってしまったらしいですが」
相変わらず表情ひとつ変えずに説明するユズキに、リオが驚きの声をあげる。
「No.4って……ユカリ、よく無事だったね」
「ううん、No.4は、セツナを連れて来ただけで、すぐ帰っちゃったんだ」
それを聞き、リオはほっとしたような表情を見せた。
「あ、えっと……ここのアジトに、どうやって入ったのかな……?」
疑問を口にしたチェリーに、ソーユが「うーん」と少し考える。
「話を聞く限りでは突然現れたっぽいから、瞬間移動か空間を歪ませるか、あるいは透過の能力者である可能性が高いね……」
そのソーユの言葉に、数人が疑問を口にした。
「そもそも、なんでアジトの位置がバレたんだろ?」
「対能力製の壁をどうやって?遮断できるはずじゃあないのっ?」
その質問に頭を悩ませたソーユだが、数秒もしないうちに、
「そ、それは……もぉ~、ぼくにはわかんないよっ!」
と、自分の部屋に帰っていってしまった。
「あーあ、みんなが質問ぜめにするから、ソーユ、すねちゃった」
「あとで謝っときなね。想像できると思うけど、根に持つタイプだから……ユカリ、そこ座んな」
散らかる家具の中でかろうじて立っている椅子に腰かけさせ、カエデはユカリの傷を消毒し始める。
「このやられ方……鎌?」
「カエデ、正解!よくわかったね!」
「……裂けたみたいになってるからね」
楽しそうに言うんじゃないよ……と、カエデはユカリの頬に絆創膏をはった。
「……どーすんの?やっぱ強いじゃん、ユカリとタイマン張って、いい勝負だったんでしょ?」
「タイマン張るって、言い方が古い……平成のヤンキーかよ」
「……平成って大体800年前、能力なかった時代だよね?」
わいわい話す皆に向かって、ユズキが訊く。
「そう言いますがそもそもみなさん、なぜこの世に能力がうまれたのか、ご存知なんですか?」
その質問に、周囲は静まりかえった。誰かが静かに「知りません」と言うと、皆頭を縦にぶんぶん振って、声の主に同意を示す。
「……梨木さんや雷電さんなど、中学一年生組は中学に行ったことないと思うのでご存知ないのも納得です。赤座さんも中学には行っていないという事だったので、知らなくても差し支えないでしょう。カナタくんにも同じことが言えます。宮内さんも、勉強が苦手なので気になりません。……問題は、カエデとアキトです。あなたたち、わたしと共に中学までは卒業しましたよね?能力の起源、中学一年生の歴史で一番最初にやりましたよ」
意地悪く言うユズキに、二人は視線を外した。
「あっれぇ、そんなん習ったっけ……?」
「覚えてないな~……ユズキ、中学生組に説明してあげなよ~」
「全く……」
二人に促され、ユズキは渋々説明した。
能力の発祥は、2100年、ある科学者の実験でした。
科学者の名は[東郷カズ]。
彼は幼い頃からの夢だった『空中浮遊』を実現するために、なんと、自分の体を改造しました。
方法は、ウイルス。
彼の手によって産み出されたウイルスは、人体に、何らかの影響を与えるウイルスでした。
それに感染すると、皮膚や臓器、脳などの仕組みを変え、超人的な事ができるようになる。
誰もが無理だと思った実験でしたが、なんと見事に成功。
それはある程度の確率で、子供にも遺伝する……科学者の子は分身することができる体に生まれ、その子供も、何らかの特殊な”能力”を発動させました。
「そこから全世界に広がっていき、今や世界総人口の約20分の1が、なんらかの能力者であると言われています。日本人は元々、大体の人が黒髪や茶髪で産まれてきていましたが、ウイルスの影響により現代では本当の意味で十人十色。能力者専用の学校ができ、法律も大きく改正されました」
「……法律……えっと、『能力取締法』、だよね」
チェリーが思い出したように呟く。ユズキはにっこり頷いて、
「その通りです。一定の基準を満たす、他人に害を与えるような能力を私的な理由で行使することが、法律によって禁止されています。わたしたちは政府にお許しを貰っているので普通に使っていますが……。それにしても、赤座さんがわかってるのに……お二人はみっともないですね。最年長が務まりません」
「「うるさいなっ」」
ため息をついたユズキに、二人は声を揃えて言った。あまりにもシンクロしていて、周囲に笑いが起こる。
しばらくして笑いがおさまり、カナタが口を開けた。
「治療したてだけどさ、やっぱセツナの能力に対抗するには、ユカリの能力が不可欠だよな」
その言葉に、皆はうなずく。
「……おれたちの本来の目的は、キビアイの解散及び、メンバーの救出だ。殺しちゃいけない」
アキトが言うと、ルアがなにかを言いたげに手を挙げた。
「でも、救出って、具体的にどうするの……?キビアイをやめてもらう、って事だよね…………」
皆は黙り込む。
「……地道に説得、やな」
そう言うツキミのほうにカナタが振り向き、残念そうに眉を下げた。
「え、なんかショボくね?」
「しゃーないやん、若いのにキビアイに入ってるいう事は、ある程度事情があるんやろ。精神科でも呼んでくるんか?そっちのほうがショボいやん」
ツキミがまともな発言をしているのに、皆は驚く。だが、すぐに目の前の議論に集中した。
「そうだな、心を開いてもらわないといけないよな……」
「自分が信仰してる組織を潰そうとしてる人間に、そう簡単に心開けるのか?」
「無理だね」
難航する話し合い。見かねたユカリが、明るい声で笑った。
「この先の子たちは無理だと思うけど……僕、セツナちゃんとだったら、お友だちになれるよ!」
「えっ」
想定外の言葉に、思わず皆声をもらした。そのまま、ユカリは言葉を続ける。
「だから……セツナちゃんは、僕に任せて!」
満面の笑みで言うユカリ。それに押され、皆はバラバラに頷く。
「……ありがとっ」
得意気に笑ったその顔は、どこか狂気じみていた。
「ボス~」
高くて可愛らしい声。長いオレンジ髪の少女──セツナは、扉を開けて、部屋に入った。
相変わらず、”キビアイ”本部の質素な部屋。大きな窓からは、昼の太陽が明るく、また温かく、ベッドに腰かけた一人の人物を照らしていた。
「セツナ、おかえり。あ、ボロボロになっちゃった。大丈夫だった?」
「そうなの。やっつけられそうになったんだけど、イヌイが助けにきてくれなくてっ」
セツナが人物の隣にちょこんと座ると、ちょうど顔の高さが並んだ。
「……ボス、わたしと同じくらい小さい……!」
「うっ……俺、それ気にしてるんだから言わないでよ……」
「あははっ、ボスかわいい~」
組織のトップとしての貫禄が一切ない人物に、セツナが笑う。両者共に声が高く、まるで小動物のお遊戯会のようだ。
「……セツナ」
「どうしたの、ボス」
「しんどかったら、任務、やらなくても良いんだよ?セツナの安全が一番だからね」
その言葉に、セツナは笑ってみせた。
「大丈夫だよ、ボス。わたし、ボスのために頑張る!」
「そっか。ありがとう」
人物も、つられて笑顔になった。
「……ねえボス、わたし、次は何をすればいい?」
「そうだね……解かれると厄介だし、『水乃瀬ユカリを、殺してほしい』なあ」
高く響くその声。セツナは、ボスの顔を見つめたまま表情を固める。
だが数秒もしないうちにもとに戻り、セツナは人物に質問した。
「どこに行けばいいの?イヌイはついてくるの?」
「イヌイか……イヌイは今、多分忙しいと思うんだよね。一人で、五丁目まで行ける?」
五丁目──道路から海が見える、綺麗な街だった気がする。
セツナはにっこり笑顔で、
「わかった、ボス!わたし頑張るね!」
と部屋を出ていった。
それを見送ってから、人物は窓を向く。
微かに反射した人物の顔。その口は、いかにも怪しく笑っていた。
「僕に任せて、とは言ったものの──これからどーしよ……」
海の氾濫を防ぐための、コンクリート塀。その上に寝そべり、ユカリは考えた。
(取り敢えず、寝るか……)
その時、ふと、下に誰かがいるような気がする。
浅い海を覗いてみると、短い髪の毛の少女が、岩の上で泣いていた。
「……キミ、どうしたの?」
上から声をかけてみると、少女はこちらを向く。そして細い声で、囁くように言った。
「 ク ラ ス の 男 の 子 に 虐 め ら れ て 、 こ こ か ら 飛 び 降 り た の 」
「そっか」
よくいる感じの霊だな──ユカリは彼女を見て、セツナを思い出す。
(近く感じるって事は……セツナちゃんも、そんな感じなのかなぁ)
ユカリは、静かに目を伏せた。
ちょっと周りと違ったって、
僕が楽しければいいじゃない。
迷惑をかけてるわけじゃないし、
誰も傷つけてない。
性格も、感性も、笑い方も、能力も、
気味悪いって、お前はとにかく気味悪いって、
そんなに言われなくても、
僕だってわかってる。
僕を貶した父さんも、
僕を捨てた母さんも、
バカにした小学校の友達も、
距離を置いた施設の人も、
みんなみんな、ただ僕が怖かっただけって、
みんなみんな、同じ言い訳。
僕は別に、怖がらせてないよ。
僕はただ、
僕がありたい僕でいるだけで、
それは、ちょっと理想とは違うけど、
受け入れ難いものではなかった。
僕が笑いたい時に笑って、
僕が泣きたい時に泣いて、
僕が一緒にいたい人と、ずっと一緒に。
……でも、本当は、ちょっと怖かった。
ありのままの僕を受け入れてくれる人なんて、
僕と、ずっと一緒にいてくれる人なんて、
本当にいるのかな、って。
もし、この世界のどこにも、
僕に好きって言ってくれる人がいなくて、
僕が一生ひとりぼっちだったら、
僕は、僕は、
どうなっちゃうんだろうか。
周りと違ったらいけないの?
幽霊と話せたら気味悪いの?
気に食わなかったら、何されてもいいの?
辛くない、って、心から言える生活を、
送ることができないのは、
僕に問題があるからなの?
わからなくて、考えても全然わからなくて、
ずっと、ずっと、ずっと、
迷ってたっけ。
でも、それは違った。
アキトが、ユズキが、カエデが、みんなが、教えてくれた。
居心地がよくて、
みんな仲良くしてくれて、
大切な僕の『居場所』。
ここだったんだね、って、
ようやくわかったんだ。
自分の状況をどれだけ嘆いて、
何度涙を流しても、
神様は味方してくれない。
でも、今の僕には、
味方してくれるお友だちがいる。
それを見つけてこそ、
僕が僕であるための、
理由ができるような気がした。
僕は僕、みんなはみんな。
別に違ってもいいんだって思えて、
その時、僕は初めて、心から笑えたんだって──
「……だから、セツナちゃんも、一緒なんでしょ?」
手に伝わる振動。寝そべったユカリの首スレスレに、尖った鎌が寸止めされている。
鎌の主・セツナは、ユカリを蹴って、塀から距離を置いた。
「セツナちゃん、お話しようよ」
ユカリが、また不気味に笑う。
するとセツナが、大きな声でユカリに言い放った。
「あんたに……アタシの何がわかるの」
震えるセツナに対して、ユカリはゆっくり起き上がる。
「わかるよ。セツナちゃんは、僕と同じ。だって、同じ目をしてるから……何が正解なのか、迷ってるんでしょう」
「迷ってなんていない。アタシは、”キビアイ”にいることが正解なの」
「犯罪かぁ……それは唯一の『間違った』選択肢だよ」
ユカリは構えた。この辺りは霊も多く、戦いやすそうだ。
「……間違っているかどうかは、アタシが決めるの」
セツナも、武器を構える。
アタシのことを理解してくれるのは、ボスだけだ。
キビアイにいること、ボスの役にたつこと。
それが──アタシの生きる理由なんだ。
続く
ちょっち長くなってしましました、、お疲れ様です!
1話5000字までを目指してるんですが、どうも切りが悪くて、、
謝りたいことが。
前半のシーン、わけわかんないですよね、、大変申し訳ございません、、、
ちょうど、イヌイくんが戻ってきたところらへんです。
謎多き感じだなーと思っています。考察待ってます。((イミフすぎて来るわけないだろ
あと、シリアスな感じ(?)にしました。
大体の構成は決めてますが、細かいシーンなどは行き当たりばったりで書いているので、細かい事はあんま気にしないでください。
では、続きをお待ちください。次回でユカリちゃん、セツナちゃんのメイン回は最後です。
一つの回で3~4話にしようと思っています。
すぐ出します!気長に待っててください!(←秒で矛盾