最終回
くっそ短いマジ。ビビんなよ((何様
行ってらー
学校が嫌いだった。
誰に話しかけても無視されるし、みんなわたしのことを笑う。
お母さんからもらった大切な定規は折られたし、ランドセルもカッターでズタズタにされて。
トイレの個室も覗かれた。
好きだった男の子に、わたしが好きってことをバラされた。
上履きも何回かゴミ箱に入ってた。
コンパスの針で腕を刺された時はさすがに「やめて」って言ったけど、みんな薄気味悪い顔で笑って、面白そうにもう一回刺された。
一年生からの六年間、ずっと。
もう辛くて、逃げ出したくて。
気づけば、人間が嫌いになっていた。
そんな時、わたしは──”キビアイ”の存在を知った。
キッカケは、小学校卒業後の休みの日。
メンバーを集めていたボスに、街で声をかけられたからだった。
ボスに手を引かれて連れてこられたキビアイは、なんだかみんな、特別な事情を持ってそうな雰囲気。
お互いを名前で呼びあって、過去にそれぞれ何があったのかはみんな知らないけど、”同じ組織にいる他人”というそれ以上でもそれ以下でもない様な関係、って感じで……すごく、居心地が良かった。
実際は少し上下関係の厳しい組織だったけど、下っぱのわたしに、ボスはすごい優しくしてくれた。
他にも、いつも後輩を虐めてるハルカさんに頭を撫でてもらった事があったり。
毎日煙草を咥えてるルナさんはつのを触らせてくれたし、かっこよくて強いセイサさんにおんぶもしてもらった。
いつも喋ってくれるヒトネくんに「わたし、キビアイに受け入れられてるのかな、必要とされてるのかな」って訊いたときには、「そうだね」って言ってもらえて。
みんなすごい優しくて、わたし、すごい感動して。
──この組織のためなら、何をしても良いと思えた。
「……っと、あぶなっ」
自分の首元に振りかざされた刃を避け、ユカリは鎌の持ち手を掴んだ。そのまま反対の手でセツナを殴ろうとするが、止められる。
「……もう戻れないの。アタシはもういいの」
体勢を維持したまま、セツナが小さな声で呟いた。
「セツナちゃん、小さいでしょう。まだ戻れるよ、僕と戻ろう」
ユカリも体勢を悪くすることなく、優しく話しかける。
「ね、戻ろうよ」
ユカリの笑顔を見て、セツナは目線を鋭くしてユカリから離れた。
次の瞬間、叫ぶ。
「もう良いんだってば、黙ってよ……っ!ギャーギャーうるさいんだよ!!」
その迫力に、ユカリは思わず黙る。
「アタシ……わたしの事、なんも知らないのに、勝手にわたしが辛いって決めつけて、言わないでよ……戻るってなに?あの頃の……何もなくて弱かったわたしに、戻れっていうの……?」
そう言うセツナの目は、まっすぐユカリの方向を向いていた。
「……決めつけじゃないよ。僕がお節介でやってるだけ。セツナちゃんが良くても、僕は良くないんだ」
「なに……?わたしはわたしのやりたい通りにやってるだけなの。ほっといてよ」
「……そっか」
ユカリも、しっかりセツナの方を向く。二人の後ろで、海は太陽光に照らされてキラキラと輝いていた。
先に切り出したのは、セツナだった。
ユカリに近づき、鎌をふる。
「……ったっ」
鎌は音をたてて、ユカリの足元を斬った。裂かれた皮膚から血がにじみ、ユカリは後ろに下がる。
「……僕を殺すんだっけ。セツナちゃんは、こんなこと、本当にやりたい?このままいくと、セツナちゃん、殺人犯になっちゃうよ」
足首をおさえながら問いかけた。セツナは静かに答える。
「……承知のうえでやってるの」
「セツナちゃんがどんな気持ちで任務をしてるのか、詳しくは知らないけど……捕まったら、メンバーには会えなくなるかもね」
その言葉に、セツナは目を見開いた。自分の手を見て、しばらく黙り込む。
「………………ボスの役に立てるなら、捕まったって構わない。会えなくたって死にはしない」
言葉にしてみるが、声が震えていた。
わたし、ボスがやってほしいって言うから、頑張った。
いっぱい人を傷つけたし、いっぱい人を騙した。いっぱい脅して、いっぱい盗んだ。
わたしにとって正しいのはボスだから、間違ってるのは世界だから。
だからボスの命令は正しくて、ボスの命令なら、何をやっても怒られない。
……なのに、なんで、この人は怒ったの?
なんで、わたしの声は震えてるの?
なんで、なんで、こんなに虚しいの?
「それは……本当はセツナちゃんが、心のどこかで、間違ってる事がわかってたからじゃないかな」
その言葉にはっとして、セツナは顔をあげた。
「わたし…………どうすればいいの?」
「簡単だよ。間違ってるって気付いたなら、一緒に、キビアイを止めよう。セツナちゃんが大好きな仲間の人たちも、間違ってるって、気付けるように」
そっか……そうだ。
わたし、わたし……
その時。気が遠くなるような頭痛が、セツナを襲った。
「……うっ……あ、あああッ」
「……セツナちゃん?」
いきなりうめきだしたセツナに、ユカリは驚く。
鎌を握り直したセツナは、涙を流していた。
「ボス、やめて!嫌だ、やめてよっ!!いたいよ、やめてよ……ひゃっ」
体に抵抗するように、セツナは叫ぶ。
(……操られてる?)
唖然としながら見守るユカリ。その方向に、セツナが走ってきた。
「!?」
「嫌だ、やめて、ごめんなさっ……」
ユカリはギリギリで鎌を避けたが、急な出来事に反応できず、セツナの手首を思いっきり噛む。
「ッ……」
セツナは痛そうな声をあげて、ユカリにたおれこんだ。
「……なんだったんだろ?」
ユカリは安堵のため息をつく。そのまま、気絶したセツナの寝顔を見つめた。
気持ちよくふく海風、暗い空に光る月。
自分の髪の毛がくすぐったくて、セツナは目をさました。
「あ、起きた。おはよう」
わたし、寝てた……起き上がると、見たことがある女の子が、笑ってこちらを見ていた。
「おはよう……えっと、ユカリちゃん」
膝を貸してくれてたみたいだな……。セツナが眠そうに言うと、ユカリは嬉しそうに頬をほころばせる。
「おはよう、セツナちゃん!」
ユカリが嬉しそうで、セツナも笑う。そして、目を伏せて、静かに呟いた。
「……ありがとう。ごめんなさい」
「ううん、いいよ。セツナちゃん、苗字はなんて言うの?」
セツナはその質問に、少し黙る。
「……黒月。わたしは、[黒月セツナ]」
「そうなんだ。僕は[水乃瀬ユカリ]っていうんだ」
そう言って、ユカリは月を見上げる。
「……月に、水……この景色にぴったりだね」
「ほんとだ!」
セツナが楽しそうにしてるのを見て、ユカリはほっとする。
そんなユカリを見て、セツナは、目を細めて言った。
「……綺麗な月だね」
ユカリは驚いて、セツナをふりかえる。暗い中に、大通りからの車の音が、やけに大きく聞こえた。
月明かりにうっすら見えるセツナの頬は、ちょっと赤い。
「……ずっと前から、綺麗だったよ」
ユカリはセツナの手を繋いだ。
「帰ろっか。タヨキミにおいでよ、みんな優しいよ」
「……うん!」
「……あーあ、セツナ、『解けちゃった』」
キビアイ本部。いつも通り暗い部屋。
集まったのは、ハルカ、イヌイ、ルカ、トオン、ヒトネ……いつも通りの顔だった。
「ねーどーしよ、セツナ解けるの早くない?もうちょっと使えると思ってたのに~」
「知らないよボス、勝手に戻れば?」
ハルカが軽く受け流し、人物は出ていく。言葉とは裏腹に楽しそうにスキップをしながら帰る人物を見送ったら、空間に沈黙が訪れた。
ハルカが、苦笑気味に聞く。
「ねーみんな、セツナって、誰だっけ?」
「……知らね」
ふーっ、と煙を吐くルカに、イヌイが言う。
「あれっすよ、アイツ……今回任務に行った、オレンジ色の餓鬼っす」
「あー、アイツね。ヒトネと仲良かったでしょ」
ハルカがヒトネのほうを向くと、ヒトネは眉をひそめた。
「……いたっけ、そんなの。興味ないや」
「ヒトネちゃんはお兄ちゃんにしか興味ないもんな~」
ルカが軽く煽る。
「……目ぇ開けて言えよ、ふっ……」
イヌイが半分笑いながら言うと、ルナは「開いてるわ」と火がついた煙草をイヌイの頬に押し付けた。
「あつっ!てンめぇ、オレは上司だぞ!」
「知らね~な」
「くだらない事で喧嘩しないでよ~、ハルカ眠い。寝ていい?」
ハルカは、あくびしながら机に伏せる。
「ハルカさんが困ってる……おい、真面目にやるぞ。えっと、次に行く奴を決めねえと」
「次、もうハルカでいいじゃん」
「悪いよ、ハルカ動きたくない」
皆、しばらく黙る。
「……ムニカあたりでいいだろ。上3人は無能の集まりか」
「トオン、テメェはいつも一言余計なンだよ。あとオレたちが無能なら、テメェの弟も無能だよ。なんも言ってねえンだからな」
「いちいちつっかかってくるあたり、本当に能がないね。ステゴザウルス?」
「誰が脳ミソ胡桃一個分だよ、人間なめンなよサルども」
「どーどーイヌイ。いいじゃん、ムニカで。誰だか知らないけどねー」
ハルカがにっこり笑うと同時に、目元に仮面をつけた少女が、音もなく部屋に入ってきた。
「誰だ、こんなところにクソ弱そうなアマ呼んだのは……あぁ、お前がムニカか。そういやそうだったなあ、お前、ライター持ってない時に便利だから死ぬなよ」
「ひどい上司だなあ。ムニカは僕が呼んだよ、どうせトオンが言うと思って」
「双子って怖え、ブラコンって怖え……」
上層部の無駄な話に、ムニカは表情一つ変えずに、ただ一回頷いた。
「……イヌイも行ってら~!楽しんできてね~」
ハルカが笑った。イヌイは渋々ムニカの腕を掴んだと思うと、一瞬で消える。
「……そーだな、ルナとヒトネは戻っといて。トオン、ハルカの部屋ね」
ハルカが言うと、あたりは静まった。
「……あ?」
ヒトネが低い声で言い、ハルカを睨む。
「……今、ハルカ眠いんだよね。怒ったネコちゃんのお世話はめんどくさい。ルナ」
「あいよ~。行くぞ」
ルナはヒトネを持ち上げて、片方の肩に担いだ。
「あ……トオンっ!」
ヒトネは手を伸ばすが、トオンはいつも通りの落ち着いた様子で、短く言う。
「……すぐ戻る。先に寝てろ」
「ルナ待って、嫌だ……!」
廊下。担がれたヒトネは、ルナの髪の毛を引っ張って抵抗した。
「おい、髪の毛引っ張ったくらいで降りられると思うなよ……悪いとは思うけどなあ、こればっかりは仕方ねえから、じっとしとけ」
「…………」
「おいおいここで泣くなよ、服濡れるだろうが……!」
「泣いてないし……!黙れ爺っ!」
「俺が爺たあ、少し無理があんなあ……ほれ、お前の部屋だ」
ルナは乱暴に、ヒトネをベッドに投げる。そのままドアを閉めて、ポッケから煙草を出した。
それに火を付けて、ルナは煙と共にため息をつく。
「……会えてるだけ、俺はお前らが羨ましいわ」
ルナの長い睫毛からは、血に染まったように真っ赤な眼が覗いていた。
続く
終わったああああああああ!やっと終わったよ、、、
短くてごめんね、ごめんなさい
実は結構前に書き終わってて、投稿するのサボってたんですよ、このあとがき(?)も書いてなくて。
こっから長文注意です。主が今回の話に対する考察を語ります。
セツナちゃんは、光オチだって決めてました。
あの子はキビアイのみんなから優しくされてるんですけど、それは偽善だったんです。
つまり、ボスは、簡単に言うことを聞いてくれる手駒としてセツナを使うために、セツナの弱っているところ、つまり自分を拒否しない仲間いるという状況を作って、セツナを自分に依存させたんですよ。
本当は顔も名前も覚えていないのに、適当に優しくしてた的な、、!
上層部の方々も、コイツだりーとか思いながらやっててほしい。
まあ最後のシーンで、かなり上層部の方々がボロクソいってますもんね。
なので、キビアイにいる時のセツナちゃんは、本当は救われていない状態なんですよ。
ただ、小さな頃から寄り添ってくれる人がいないがあまり、キビアイメンバーの偽善に幻を見てしまっただけで、、それに本人もうすうす気づいていて、でも自分にとって都合の良いように受けとることで、本物ではない、幻の幸せに溺れている~的な。
で、本当の幸せってなんなんだいってところで、ユカリちゃんに教えてもらえる。
ユカリちゃんも、過去の自分とセツナちゃんを重ねてる。
正しい救われ方をしたユカリちゃんが、セツナちゃんを正しく救ってあげてほしいって思ってこの話を書きました。
そして最後の「綺麗な月だね」、「ずっと前から、綺麗だったよ」!!皆様お気づきになられたでしょうか、、!?
ずっと前から綺麗だったっていうのは、前から好きだった……つまり両片想いだったときに使うスラングです。じゃあ、ユカリちゃんがセツナちゃんを助けた理由って……!?
次の話まで時間がかかります。
気長に待っててください!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!