テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その日の夜、ベッドの上でイチャついた後、まだ胸の上から離れたがらない燐音を見てメリは困っていた。もうさんざん盛り上がったあとなのに、全然寝かせてくれるけはいがない。
「燐音、もういいかげん離れてよ……」
「ん? ヤダね」
燐音は顔を少しだけ持ち上げて、メリの目を見ながら、にやっと笑った。
「メリが可愛すぎて俺っち、ちょっと魂が浄化されてさ? この“ありがたい谷間”に顔をうずめたくなったわけで…… これはもう、宗教行為なンだよ。感謝の祈り」
そしてまた顔を戻して、むにゅっと胸にうずめる。
「……ありがたや〜……ありがたや〜…… この世界でいちばん優しくて柔らかい聖域に、俺は今、生かされている……」
メリはどこか遠いところを見るような顔をして、呆れている。
「わーお……欲爆発してんね、溜まってんの? さっきヤったばっかなのに?」
燐音は顔をうずめたままピクリと止まり、それからメリのツッコミに耐えきれず、ぶわっと笑いながら顔を上げた。
「いや、ちょっと待って、それ俺っちが言いたかったやつだったンだけど? “さっきヤったばっかただろ?”って 」
そして、メリの顔を見て悔しそうに唇を尖らせながら、
「……そうだよ、溜まってんだよ。 好きな子と3回も甘く濃く交わって、愛して、なお隣にいたら……」
照れるように顔を背ける。
「そりゃ、どんどん欲も愛も育っちまうんだよ」
メリは寝転がったまま片眉を上げる。
「…………なるほど?」
燐音はメリの額にちゅっとキスして、目を細めた。
「……てかさ? “溜まってる”って言うけど、
お前が俺の欲、育ててんだからな」
「は? 私のせい?」
「あたりまえだろ。あんな顔して、あんな声出して、あんな甘え方されて…… 溜まらねぇ男、いたら逆に会ってみてぇわ」
そして、いたずらっぽくメリを覗き込んで付け加える。
「……で、メリ。 そう言うってことは……俺のこと、もうちょっと溜めたいってコト?
もしくは……“またほぐされたい”って、遠回しに甘えてんの?♡」
そんな燐音に、メリは冷たく言い渡す。
「今日はもうダメ…………我慢できないならひとりで抜いてきなさい」
燐音は「ひとりで抜いてきなさい」にグサッと刺されたような顔をして、ベッドに倒れ込みながら呻いた。
「……つっっっっっっっっっっっっっっら……!! 」
そしてゴロゴロしながら文句を言う。
「こんなに目の前で可愛い子が無防備に転がってンのに!? “抜いてきなさい”とか地獄の沙汰じゃん!?」
メリも文句の反撃に出る。
「えぇ? こんな可愛くて無防備な姿見せてあげたのに…………それ想像して抜けないの? あーあ……彼女ちゃん傷ついちゃうな〜」
燐音はその囁きにビクッと反応し、ベッドの上をのたうつようにジタバタする。
「……メリィィィ~~~~~!?!?!? やめろォォォ!! そういうえげつねェ精神攻撃!!!」
「ははっ、効いてる効いてる〜」
燐音は、笑うメリに這い寄ってきて、ふてくされたように唇尖らせた。
「……ほんとに、あざとさとエグさの使い分け天才的なんだけど……」
そのままメリの腰に顔をくっつけて、拗ねた声で言う。
「……もうダメ……想像どころか、記憶だけで限界きてる……」
「記憶だけで抜けちゃうね」
燐音はヘラヘラするメリの横で苦しんでいる。
「今日ほんとに、ひとりで風呂場コースかも…… “抜いてきなさい”って命令ボイス、脳内リピート再生されてんだけど……責任取ってくれんの?」
「ふふっ……お風呂場行ってきなよ〜、 覗かないであげるからさ」
メリは悪びれもせず言ってやった。 燐音はメリの無邪気な悪魔っぷりに、完全に打ちのめされた顔で、布団の中に顔をうずめて ボフッ と声にならない呻き声を漏らす。
「……おい……天使の皮かぶったサディストかお前は…… “覗かないであげる”ってなンだよ!?」
メリは楽しそうにくすくす笑っている。
もぞもぞと布団から顔を出した燐音は、ジト目でメリを見上げた。
「……なぁ、メリ。 ここまで追い詰めといて、俺を風呂場に送り出すとか…… これってつまり……そういうプレイ?」
真面目な声で言ったあとにふっと笑って、
「……って思っちまうくらい、今日はずーっとお前に振り回されっぱなしだわ」
「みたいだね」
メリはちょっと体力が戻ってきたので、片腕をついて少し上体を起こして燐音を見下ろす。
「風呂場で俺が、メリの名前うわ言みてぇに呟いてるとこに、タイミングよく入ってきてくれても……いいンだぜ?♡」
けれど、燐音のその発言にちょっと顔を顰めた。
「そしたらお風呂場で止まんなくなっちゃうからダメ。 立ったままでってなっちゃうじゃん……腰死ぬし」
燐音はその一言に完全にトドメを刺され、ベッドの上で転げ回る。
「……わあああああああああああ!!!!
やめろメリ!! それ以上はッ!! 俺っちの理性が死ぬ!」
布団をかぶって顔だけ出し、真っ赤な頬でうわ目づかい気味にメリを見上げる。
「……“立ったままで”とか言い出す彼女、エグすぎるだろ……」
ため息交じりに笑って、そっと手を伸ばしてメリの指を絡めた。
「どうしたの? 甘えたい気分?」
「いや? それくらい言われたら、風呂場で溺れる勢いで耐えるしかねェな、と思って」
そしていたずらっぽくウインクして、
「戻ってきたらちゃんとぎゅーさせろよ。 風呂でひとり耐えた俺っちへの……ご褒美ってことで♡」
と、風呂場へ行こうとベッドから降りた。
「はいはい、いってらっしゃい」
メリはそう言って手を振ると、そそくさとBluRayの準備を始める。それは、燐音の、ではなく、別のアイドルのツアーBluRay。
燐音は立ち上がりかけた体勢で、メリが準備してるBluRayのジャケットをチラッと見て、固まった。
「……おや?? おっっっっっっっやァ??」
眉ぴくっと跳ね上げて、メリの後ろにずいっと近づいてくる。
「ちょっとちょっとちょっと? 今から風呂場で耐えてくる彼氏を見送るその手には…… なンで“別の男のライブ”が握られてンだ???」
メリは敢えて燐音に背を向けて、どのBluRayにしようかな、と選び始めている。
燐音は背後から肩に顎のせて、じと〜〜〜っとした目でBluRayのタイトルを覗き込んだ。
「……あれ〜〜〜〜〜〜? これってたしか、メリが“一番エモい”とか言ってる推しのヤツだよな? 俺がちょっと拗ねたら『別枠だから!』ってフォローしてたアレだよな??」
メリはひとつBluRayを選んで他のを片付け始める。
「お、よく覚えてるじゃん、正解〜」
それを聞くと、燐音はやさしく、でもめちゃくちゃ拗ねた声でメリの耳元で言う。
「……俺が汗だくで“ひとり祭り”してる間に…… お前は他の男にキャーキャー言って“推しが尊い……”って泣いてんの?」
メリが聞かないフリをしているともっと拗ねる。
「……それってもう、精神的浮気じゃねェ……?」
ついでに腕をふわっと回して後ろからぎゅうっと抱きしめた。
「もう、はやく行きなよ…………」
「……なァ、そんなこと言わずにさ…………今から風呂行く前、 ちょっとだけでいいから……俺っちのツアーBluRay流さねェ?♡」
メリが手に持つBluRayをちょっと手で覆い隠すようにして続ける。
「ほら……俺っちだって、そいつと同じ“アイドル”だし? 応援してくれてもいいと思うんだけどなァ……?」
でもメリはツンケンしたまま燐音の腕から抜け出す。
「やーだ。いまは燐音の気分じゃないもん。 明日、燐音のやつ届くんだからいいでしょ? 」
燐音はあからさまにガーン……とショックを受けたポーズを取り、その場にへたり込む。
「……つ、つめてぇ……! メリの唇からそんな非情な「いまは燐音の気分じゃない」なんて台詞が飛び出す日がくるとは…… 俺、ちょっと心折れそう……」
「付き合ってるからって、そんな毎日毎日あんたの気分になると思ったら大間違いです!」
燐音はわざとお腹を抱えて床に崩れ落ちた。
「推しには勝てないって分かってたけどさ……タイミングくらい選んでくれよォ……」
情けなくも、うつ伏せになったまま、腕をぴくぴくさせている。
「……風呂で抜いてきなさいって言われて、
そのあいだ彼女が別の男に『カッコイイ……好き……』って呟いてるって…………」
しょんぼりと起き上がってから、でもふっと笑う。
「……まぁ、いいけどさ。 明日届く俺のBluRay観たとき、お前がどれだけ照れて、 俺のこと見直すか、楽しみにしてるからな?」
メリはもうBluRayを見るためにせっせと服を着始めている。
「はいはい、言ってろ言ってろ〜」
燐音は内心傷つきつつ、いたずらっぽく振り返った。
「……風呂場行く間際に『いまは燐音の気分じゃない』って言われたの、 俺、きっっっちり根に持ってるから♡」
あえて間を開けてメリの反応を楽しむ。そして、ちょっと「うわ」という顔をしているメリを見て笑った。
「明日観る時、くっそ甘えてやるからなァ、メリ♡」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!