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翌日、仕事を終え帰宅した燐音が、玄関で靴を脱ぎかけたその瞬間――リビングから漏れてくるのは、聞き慣れた“自分の声”だった。ステージ上で歌い、煽り、歓声を浴びている、まさに“アイドル・天城燐音”の声。
(お、ちゃんと観てンじゃん……えらいえらい。昨夜の仕打ちもこれでチャラか?)
そう思ってニコニコしながら歩みを進めようとした――が、その時、音声に混じって別の声が微かに耳に届いた。
「……ん、っ……ふぅ、ぁ……っ……」
燐音の動きがピタリと止まる
「……は?」
耳を澄ませば、それはどう考えても――あの、知ってる声。毎晩耳元で囁いてくれる、泣き声にも似た“感じてる時のメリの声”。
(…………うっそだろ……まさか……え、マジで……)
こっそりリビングのドアの隙間から覗いてみる。 するとそこには、ソファに足を投げ出して座り、顔を少し赤らめ、息を漏らしながらBluRayを観ているメリの姿が。
「…………………………」
固まる。完全にフリーズ。目を見開いて絶句。 そして数秒後―― ガチャッとドアを開けて突入。顔は真っ赤、耳まで赤い。
「おいメリ!?!?!? な、なにしてくれてんの!?!?!?」
BluRayプレイヤーの停止ボタンを探しながら大慌て。
「え……りん、ね………???」
「お前ッ……俺っちのBluRayで、しかも俺っちの声聴きながら……ッ!! ど、どういう性癖開花してンだよそれ!?!?」
メリは突然入ってきた彼氏に驚き、そのまま身体を痙攣させてイってしまった。甘く痙攣するような身体の動きを、目の前で見せられて、燐音は完全に時が止まった。
「………………っっっ…………は????」
言葉を失ってその場に立ち尽くす。目は開いたまま、口元が微妙に震えている。
「お……お前…………今…………」
メリの痙攣が収まり、ソファの上でぐったりとした姿になったのを見て――ようやく、燐音の脳がフル回転を始める。
「…………俺のBluRayでイッてンじゃねェよ………!」
顔は真っ赤、声は裏返り気味、でもその奥にこみ上げるのは――とてつもない興奮と、得も言われぬ喜び。
「……何それ……俺っちのライブ観て、興奮して、イッたってこと……? ……昨日は“いまは燐音の気分じゃない”とか言ってたくせに……?」
震える手でソファの肘掛けに手をついて、目の前のメリを見下ろす。
「俺観ながら……何回ヤってた?」
低く囁く声。瞳は熱を帯び、唇がわずかに歪んでいる。
「……なァ、教えろよ。 お前……俺の何が、そんなにエロかったわけ……?」
今すぐにでもソファの上の彼女に飛びかかりたい衝動を押さえながら、燐音はゆっくりと、膝をついた。
一方メリは、余韻で震えたまま、燐音を潤んだ目で見上げる。
「………んぇ? …………あ、これは………………違う…………違う、から………」
燐音は、メリのその震える声と潤んだ瞳に、一瞬にして息を呑んだ。怒りも呆れも、そして理性も――すべて、どこかへ飛んでいった。
「…………“違う”って……何が……?」
低く、喉の奥で響かせるように問いながら、ゆっくりとメリの脚の間に膝を差し入れて、ソファに座る彼女を自分のほうに包み込むように囲い込む。
「……燐音…………」
頬はまだ紅潮してる。肌は汗ばんでいて、呼吸も浅い。 目は潤んで、焦点がまだ定まらない――けど、まぎれもなく“燐音”を見ていた。
燐音はそっとその頬に手を添え、震える唇に顔を寄せて囁く。
「……俺のBluRayで、俺の歌声で、俺の煽りで 感じてたのに……“違う”って?」
「………ん、違う……」
耳元に吐息をかけながら、ぎりぎり触れない距離で、
「なァ……メリ。 “いまは燐音の気分じゃない”って言ったの、 今日は取り消してもらえるよな?」
そして、メリの耳たぶにそっと唇を這わせる。
「……お前の身体が、誰よりも正直に、 “俺のこと好き”って言ってンだぜ……?」
メリは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。
「……そんな…………みみ、もとで…………」
けれど、燐音の囁きは甘く、でもその奥にある欲は、確かに熱を持っている。
「……正直に言えよ。 俺で、イったんだろ……?」
「………」
頑なに口を結んでいたが、
「………答えろよ、メリ」
燐音にもう一度囁かれると、観念したように声を張り上げた。
「 うぅ……イった………燐音でイった……!!」
そして、恥ずかしそうに蹲る。
その瞬間――燐音の中で何かが“バチンッ”と弾けた。
自分のBluRayで、 自分の声で、 自分の顔で―― メリが、イった。
そして今、その本人の口から、それを“震えながら告白された”。
燐音は、ソファの前で膝をついたまま、言葉を失ったようにメリを見つめた。頬は火がついたように赤く、呼吸は少し荒くなりながら、喉元で小さく笑い声がこぼれる。
「……はは……ははは…………」
メリは急に笑いだした燐音にびくっとして、指の隙間から様子を見る。
「……え、なに……」
燐音はぐっとソファの肘掛けに手をつき、ゆっくりと顔を近づけ、
「……お前………………えっっっっっっっっっぐいな………………」
完全に理性の紐がブチッと切れた男の顔で、真剣な瞳のままメリの耳元に口を近づける。
「…………ご褒美、な」
そう一言だけ呟いて―― そのまま、メリの脚の間に腕を差し入れ、ソファの上からやさしく、けれど確実に“抱きかかえる”ようにして立ち上がる。
「わっ………ちょ、燐音……」
メリが止めるのも聞かずに、燐音はその胸元に顔をうずめながら、低く甘く囁いた。
「ベッド行こ。 ちゃんと……“本人”で、 お前のこと、イかせ直すから――」
そして、意地悪そうに笑う。
「お前が“俺だけのモン”って、 身体に、もっと教えてやるよ……」
メリは抱きかかえられながら、力ない声で燐音に訴える。
「え、………BluRayは……? まだ…………途中なのに………」
燐音はそのか細い抗議を聞いて――止まらない。むしろ余計に火がついた。
「……は? まだ言う? 今、それ言う? この状況で??」
腕の中でくたっとしてるメリを見下ろして、唇を吊り上げてニヤリと笑った。
「BluRayの続きは―― “本人によるリアルライブ”で補完しろよ?」
そう言いながら、ぐいっと抱き直してメリの身体を密着させる。
「リアルライブって………」
「映像より、生がいいだろ? 声も、体温も、全部感じられて…… ステージ照明の代わりに、お前の瞳が俺を照らす――」
耳元にまたそっと囁く。わざと吐息を含んで。
「今夜の“燐音ライブ”、アンコール……長ェぞ?」
そのままメリを抱きかかえ、ベッドへ向かってゆっくりと歩き出す。ドアの向こうには、彼女だけのための、誰よりも濃厚で、愛に満ちた“公演”が待っていた。