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リョーカがいなくなってから三年が経った。
世界は少し変わった
完全に平和になったわけじゃない
今でも辺境にはバグが出るし、
ヴェルトラウム残党の噂も消えていない。
けれど
人々はようやく
“明日”を考えられるようになっていた。
■■■■■■■■■■■■
「モトキー、コーヒー切れてる」
「買っといて」
「副代表をパシリに使うなよ」
「俺が代表だからな」
青リンゴ商会本部
以前より広くなった事務所で、
ヒロトがソファに寝転がっていた。
相変わらず軽い
だが
三年前より、
少し大人びて見える。
モトキは書類から目を離さず言った
「今日の依頼確認した?」
「したした。第三区画の残党処理だろ」
「変異種の可能性あり」
「はいはい、怖い怖い」
ヒロトは笑う
だが
その目は笑っていなかった。
“変異種”
その言葉を聞くたび、
二人とも思い出してしまう。
あの日を
リョーカを
沈黙が落ちかけた時だった。
ピコン
小さな電子音
二人が同時に顔を上げる
机の上
あの機械心臓が
淡く光っていた。
「……また?」
ヒロトが起き上がる
モトキも眉をひそめた。
最近、
頻度が増えていた。
以前は数ヶ月に一度だった反応が、
ここ最近は毎週のように起きている。
しかも
今回は違った。
ガガ……
ノイズ
そして
『……き、と』
二人の動きが止まる。
ヒロトが目を見開く
「は?」
ノイズ混じりの声
だが確かに、
聞こえた。
『……モト、キくん』
モトキの呼吸が止まる
「……リョーカ?」
沈黙
数秒
そして再び
『……たす、け……』
ブツン
通信が切れる
静寂
ヒロトが勢いよく立ち上がる。
「おい今の」
「あぁ……」
モトキの声が震えていた。
「聞こえた」
二人は心臓部を見る
微かに熱を持っている
まるで
まだ、
生きているみたいに。
■■■■■■■■■■■■
その夜
青リンゴ商会は、
旧中央研究区へ向かっていた。
ヴェルトラウム関連施設
三年前、
完全封鎖された区域だ。
「ほんっと嫌な予感する」
ヒロトが前を歩きながら呟く
崩壊した研究都市
真っ暗な通路
壁には黒い侵食痕
生き物みたいに脈打っている
モトキは銃を握り直した。
「でも、行くしかない」
「だな」
その時
後ろから、
足音がした。
コツ
コツ
コツ
二人が同時に振り向く。
誰もいない
「……気のせい?」
ヒロトが眉をひそめる。
だが
次の瞬間
『ひどいなぁ』
声
聞き慣れた声
二人が息を呑む
暗闇の奥
そこに、
人影が立っていた。
長い三つ編み
蛍光色の髪
中性的な顔立ち
「……リョーカ?」
その人物は、
困ったように笑った。
「ボクのこと忘れちゃった?」
モトキの手から、
銃が落ちそうになる。
ヒロトも言葉を失う
生きてる
いや
本当に?
リョーカは一歩前へ出た。
だが
二人はすぐに気付く
違和感
瞳
その奥に、
微かに黒い光が揺れていた。
ヴェルトラウムの色
「……リョーカ」
モトキの声が低くなる
「お前、本当にリョーカか?」
沈黙
数秒後
リョーカは少し寂しそうに笑った。
「半分正解」
空気が凍る
「ボクはリョーカ」
「でも」
その背後の闇が、
ゆっくり蠢いた。
「ヴェルトラウムも、まだボクの中にいる」
ヒロトが短剣を抜く
「……最悪だな」
「うん。ボクもそう思う」
リョーカは笑う
でも
その目は、
三年前と同じだった。
優しくて、
泣きそうな目。
「だからお願い」
リョーカが一歩下がる
「もし、またボクが暴走したら」
静かに
震える声で
「今度こそ、ボクを止めて」
沈黙
モトキは拳を握る
ようやく戻ってきた
失ったと思っていた仲間が。
なのに
また、
選ばなきゃいけない。
救うか
終わらせるか。
その時
研究区画の奥から、
巨大な咆哮が響いた。
空間が揺れる
黒い肉塊が
闇の中で目を開く
ヴェルトラウムは、
まだ終わっていなかった。
そして
青リンゴ商会の物語も、
まだ終わっていなかった。