今日は久しぶりに、二人で出かける日だった。
外の空気は少し湿っていて、
灰色の雲が、まるで行き先を迷っているみたいにゆっくり流れていた。
うりがポケットから手を出して、「雨、降るかもな」と笑う。
その笑顔が、なんだか懐かしくて、
私は思わず「そうだね」と笑い返した。
本当に、久しぶりに笑った気がした。
休日のショッピングモールは、家族連れやカップルで賑わっていた。
エスカレーターの手すり越しに、うりの横顔を見る。
少し伸びた髪。
眠そうに見える目。
変わらないようで、どこか違う。
それでも、今日くらいは何も考えずに、
ただ並んで歩いていたかった。
et「 これ可愛い、
そう呟きながら、
ショーウィンドウの向こうに並ぶ棚から白いサンダルを手に取った。
細いストラップに、小さな金の飾りがついていて、
涼しげなデザインが目に止まった。
et「 ねえ、これどう思う?
うりはスマホを触りながら、少し顔を上げた。
ur「 ……..いいんじゃない?
ur「 この前一緒に買った青いワンピースに似合いそうだし。
et「 ……..そうだね!
私の声が、ほんの少しだけ震えた。
うりは気づかないままスマホを見ていて、
私はサンダルをレジに持って行った。
レジの音と、紙袋を受け取る手の感触が、妙に遠く感じた。
白いサンダルが、私の足、急に重くなっていった。
外に出ると、思っていたよりも強い雨が降っていた。
冷たい雨粒が肩に当たって、
シャツの生地をゆっくりと濡らしていく。
ur「 やば、傘ないじゃん。
うりが笑って言う。
その笑い方が、あまりに自然で、
私は反射的に笑い返した。
et「 どうする?
ur「 走るしかないだろっ!
その瞬間、うりが私の手を取った。
指先が濡れて滑るのに、
その手の温もりだけははっきりと感じた。
二人で笑いながら走る。
びしょ濡れになって、息が切れて、
それでも、楽しかった。
ur「 明日絶対風邪引きそう笑
et「 だね、笑
笑いながら肩で息をして、
そのまま顔を上げたら、うりがまだ笑っていた。
バカだなぁ、うり。
私、青いワンピースなんか、持ってないよ。
笑ってるのに、泣きそうだった。
この雨に濡れたら、涙の一粒くらい、きっと誰にも気づかれないのに。
コンビニの中でタオルを買って、
二人で暖かい缶コーヒーを手にした。
レジ横の明かりがやけに眩しくて、
うりが髪を拭いてくれる仕草を、私はじっと見ていた。
ur「 風邪ひくなよ。
et「 うん…….
それだけの会話。
それだけなのに、胸の奥が痛かった。
どうしてだろう。
どうして、こんなに優しい言葉が苦しいんだろう。
たぶん、怖いんだ。
この優しさが、
“本物じゃないかもしれない”と、心のどこかで知っているから。
月明かりがカーテンの隙間から漏れていた。
部屋に戻ると、うりはすぐにシャワーを浴びに行った。
私はテーブルに白いサンダルの箱を置いて、
その前に座り込む。
静かな部屋の中で、
雨の音だけが窓を叩いている。
新しいサンダルを取り出して、指で触れてみた。
まだ誰にも踏まれていない真っ白な底。
きれいすぎて、履くのがもったいないと思った。
青いワンピースと甘い匂い。
…….浮気?
違う。違う。
疑いたくなんか、ない。
だって、私はまだ“信じていたい”。
彼を。
この生活を。
二人で過ごしてきた時間を。
翌朝。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいた。
テーブルの上には、昨夜買った白いサンダル。
まだ濡れたままのうりのスニーカー。
うりが忘れたスマホが、無音で光った。
手を伸ばしかけて、やめた。
触れたら、壊れてしまいそうで。
私はただ、
白いサンダルを指でなぞりながら、
小さく息を吐いた。
et「ねぇ、うり。
誰もいない部屋に、名前だけが落ちて消えた。






