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リアルニノさんが脳内降臨しました😇 ニノさん粋なプレゼント🤭 次回はアレを着用した💛ちゃんが脳内降臨するということでいいですか?🤣
作者様が真面目な顔で調べてるの想像して、クスっとなりました🤭笑 鬼ごっこも胸痛だったので、続編的なこのシリーズが楽しくて好きです🥹💕
うさぎってそういう事ですかね.....?二宮さん...? 自分の考えがダメなだけですかね...???ちょっと頭冷やしてきます😇
この人も一度は出したい人ですよね。
もはや短編ではない長さである。
数時間ぶっ通しでやっていたゲームをスリープモードにし、ふわぁとあくびをしたところに、間違いなく日本で一番忙しいアーティストの一人であり音楽界を席巻する男からの着信をスマホが伝えた。
タイミングのいいやつだなと笑ってもしもーしと出ると、その男は軽い挨拶の後、お願いがあるんですとやたら真剣な声で続けた。
電話で済む内容かと問うと、できれば会ってお話ししたい、と詳しい内容は伏せたままに続けた。
自他共に認める引きこもりだから面倒だなと思わなくもないが、他でもなくもとぅーきーからのお願いだし、なんか無駄に真剣だから話くらいは聞いてやろうと、明日の夜空いているかを問うと、そう言ってくれると思って店押さえてあります、と笑いながらのたまいやがった。
なんだこいつ、と思いながら、ちゃっかりしているところもトントン拍子に話が進むことも嫌いではない。じゃぁ明日、と電話を切ると、すぐにLINEで店の詳細が送られてきた。
翌日、指定された時間に指定された店に行くと、すぐに奥の個室に通された。既に元貴は来ていて、俺を見て姿勢を正して頭を下げた。
「お疲れ様です、すみません急に。今日はありがとうございます」
「いいよいいよ、忙しい男からのお願いとあっちゃね」
音楽活動にソロ活動に冠番組と多忙を極める男が時間を縫ってでも会って話がしたいと言うのだから。交友関係の狭い男に信頼されていると思えば面映くも嬉しいものだし。
席に座って取り敢えずお酒を頼み、ささやかに乾杯をする。
「で? お願いってなに?」
適当に頼んでおいてくれた食事をつまみながら軽い調子で問いかけると、元貴が鞄の中から一枚の半分に折った紙を取り出した。机の上の食器を少しずらし、その紙が汚れないように机をおしぼりで軽く拭いた後、慎重にそれを開く。
「ニノさんに証人になって欲しくて」
穏やかに微笑んだ元貴の言葉に促され紙に視線を落とす。それは、役所でもらえる一般的な婚姻届だった。
夫になる人の欄には元貴の名前。妻になる人の欄には藤澤氏の名前。証人欄のひとつには若井氏の名前。今の日本では提出することは叶わないけれど、彼らの意思の表明を形にしたもの。
「……俺でいいの?」
「はい。ニノさんがいいんです」
交友関係が狭いといっても、豪華なメンバーと連絡を取り合う仲であることを知っている。
そんな中で俺がいいと言ってくれることにくすぐったい喜びを感じ、むず、と口元が動いた。穏やかに笑ったまま、お願いしますと丁寧に両手でボールペンを差し出す元貴の左手薬指に光る指輪。
「……一緒に住んでるんだ?」
ペンを受け取り、証人欄に必要事項を記載していく。ちらりと左側を見ると元貴と藤澤氏の住所は同じ場所になっていた。
「はい。この前事務所の人間だけで結婚式したんですけど、そのときにお祝いに社長がくれて」
「っはー、この場所を? すげぇな」
「ですよね。まぁそのくらいしてくれてもいいと思いますけど」
稼ぎ頭だし、ってか?
それにしても都心の一等地だ。家賃だけでもバカにならないだろう。まぁそれでもあまりあるくらい事務所に利益をもたらしているだろうから、当然と言えば当然なのかもしれない。
ただ、少しだけ苦虫を噛み潰したようような表情をしたから、俺の知らない、それだけのものをもらうのが当然だと言いたくなるような事情があるのかもしれない。詳しく聞くつもりはないけれど、なんにせよ事務所公認、メンバー公認の仲なわけだ。
そして証人に俺を選んだのは、元貴からの信を得ているが故のものだとは思うけれど、俺にも公認させたいということだ。意識してやっているかは置いておいて、自分たちにふりかかるくだらない火の粉を払ってくれというお願いなのだろう。藤澤氏に言い寄る輩への牽制も含まれているかもしれない。
抜かりのない男だ。自分の世界を守るためならなんだって使う、その生き様は悪い気がしない。
彼らより長くこの世界に住み歳を食っている分、多少なりコネも力もある。護るために一肌脱いでやってもいいくらいに、彼らのことも気に入っている。
「おめでとう」
「……はい、ありがとうございます」
必要事項を書き終えて、ペンと一緒に元貴に渡す。
元貴は俺の書いた文字を見て、ほ、と安堵したように息を吐いて受け取り、宝物をしまうように鞄にしまった。
ふぅん、と目を細めて元貴を見つめる。連絡を取り合う人にメンバー二人の名前しか挙がらないような男だ。あんなにも人の心に刺さる詩を紡ぐくせにさして人に興味がないことは明白で、逆に言えば三人だけで世界が完結するタイプだ。狭い世界のようでいて、狭いからこそ生まれる果てしない可能性を持っている。
あの二人無くしてMrs.と言うグループは存在できないと改めて思い知る。なにせフロントマンたる彼が心から必要としているのだから。
かく言う自分もメンバーだけは信頼できる、それ以外は信頼も信用もそこまでしていない人種だから、もともと似通った匂いを感じてはいた。だけど元貴の藤澤氏に対するそれは、俺が思うよりずっと重くて深いものだったらしい。
一目惚れだと公言し、大好きだとことあるごとに吹聴し、あの二人は自分のものだと誇示するトップアーティスト。うまく収まるようにできているものだ。
「今度家行っていい?」
「もちろん。涼ちゃんも喜びます」
「お祝い持ってくわ」
「えーなにくれるの? 土地?」
「藤澤氏かよ。要らないだろ」
のほほんとしながら変に現実的で理性的な藤澤氏の発言をなぞる元貴にツッコミを入れ、改めてグラスを掲げる。おめでとう、とグラスを打ちつけ、中身を干した。
数日後、同じスタジオで収録していた三人と合流し、四人で彼らの家に向かった。車に乗り込む前に元貴に一枚の紙を渡す。
「ここにお祝いあるから、取ってきて」
「うそでしょ!?」
「ほんとほんと。二人は俺が連れてくから」
「マジかよ……」
送迎をしてくれるMrs.側のマネージャーには既に伝えてある。心得ていると言わんばかりの笑みを浮かべる自身のマネージャーを見て、もう! と叫んで車に乗り込んだ。ぽかんとする若井藤澤両氏に、行こうかと微笑み掛けると、あの元貴が素直に従った、とすごい人を見る目で見つめられた。素直でかわいいねぇ。
住所は既に聞き及んでいたけれど、若井氏が完璧にナビゲーションしてくれて迷うことなくたどり着いた。道中、三人で住むように部屋をくれたのになぜか若井は住んでくれないとムスッとしながら藤澤氏が文句を言っていた。
まぁ嫌だよね。俺でもやだよ。元貴の藤澤氏への執着を知っている人間は多分みんな嫌なんじゃないかな。風磨くらいなら面白がるかもしれないけど。
既に一度何かがあったようで、若井氏は今くらいがちょうどいいってとむくれる藤澤氏を宥めていた。後で詳しく聞こう。
「お邪魔します」
「どうぞー」
セキュリティの行き届いた高級マンションの上層階に辿り着き、藤澤氏の開錠のもと家にお邪魔する。
リビングに案内してもらい、荷物を置いてソファに座って一息をつく。元貴が来る前に退散しないといけないからとっとと渡してしまおう。
「改めて結婚おめでとう」
「ありがとうございます」
にっこりと笑う藤澤氏の左手薬指に光る元貴と揃いの指輪。しあわせですというオーラが滲む穏やかな表情の彼に、持ってきた二つの紙袋を掲げてみせる。
「藤澤氏、うさぎ派? 猫派?」
「へ? どっちかというとうさぎ……? え、でもここペットは飼えなくて」
「うさぎね。大丈夫、生き物じゃないから。これ、結婚祝いね」
はい、と渡すと、さっき元貴に取りに行かせたのは? と若井氏が口を挟む。
「あれは二人への結婚祝い。これは元貴への結婚祝い」
「え、じゃぁ元貴に渡されたほうが……」
「いや、藤澤氏でいいの」
クエスチョンマークをたくさん浮かべる藤澤氏と、何かに勘付いたらしい若井氏。俺は勘のいい奴は嫌いじゃないよ。
「じゃ、元貴が帰ってくる前にそれ開けて準備してあげて。俺と岩井くんは飲みに行くから」
「若井です。でもはい、それがいいと思います。さすがの二宮さんでも元貴は怒ると思うし。車どうします?」
「え、ちょ、どういうこと?」
訳がわからないと戸惑う藤澤氏の腕を掴み、ぐいぐいと奥の部屋へと連れていく若井氏。あそこが寝室なのかな。ドアを閉める前に、ちょっとなんなのと文句を言う藤澤氏に、開けたらわかるよ、言っておくけど俺は関係してないからね、と伝えている。
一人でリビングに戻ってきた若井氏が、呆れたようにこっちを見る。さっきのキラキラの目にしてよどうせならさ。
「……二宮さん、いい趣味してますね」
「ちょっとした遊び心じゃない」
元貴にとりに行かせた方は限定もののワインだ。ちゃんとしたお祝いだって用意しているんだし、お茶目な先輩からのプレゼントですよ。
「に、二宮さん!? なんなんですかこれぇ!」
「だからお祝い。元貴への、ね?」
顔を真っ赤にしてリビングに駆け込んできた藤澤氏ににっこりと微笑んでやる。お祝いなんだから、拒否しないよね? と圧力を滲ませると、う、と詰まった藤澤氏が助けを求めるように若井氏を見た。若井氏は目を合わせないようにスマホを操作して、この店でいいですか、と俺に画面を見せた。
「いいよ。車はあっちで代行頼むわ」
「お願いします。涼ちゃん、俺、今日はあっち家帰るから」
がんばれ、と親指を立てる若井氏を恨めしげに見て、もう一度泣きそうな顔で俺を見る藤澤氏。
「俺からのお祝い、受け取ってくれるよね?」
「…………はい」
有無を言わせぬように笑って確認すると、小さく蚊の鳴くような声で返事をして、すごすごと寝室に戻る悲しそうな背中に、藤澤氏、と呼び掛ける。
「おしあわせに」
アイドル然とした笑みで心からの祝福を述べる。すると、あれだけ困った顔をしていたのに藤澤氏は花が咲いたように微笑んで、もうじゅうぶんにしあわせです、と答えた。
ああいうところがたまらないのかもしれない。俺や元貴のように根幹がネガティヴで人間不信気味なタイプには。全てを包み込んでくれる、受け入れてくれるやさしさに焦がれてしまうのかもしれない。
「元貴、今どこらへん?」
「受け取ってこっちに向かってるって」
「電話して」
藤澤氏を寝室に見送り、若井氏に問う。返ってきた答えに短い指示を出すとすぐに従い、若井氏が電話をかけて俺に渡した。程なくして出た元貴に、
「俺と若井くんちょっと出るわ」
『は? ニノさん? どういうこと?』
「帰ってきたら分かるよ。多分藤澤氏寝室にいるから」
『は!?』
「あ、ちゃんとした高いやつだから丁寧に扱えよー」
『なにが? ねぇちょっと!』
「じゃ、また」
ぎゃぁぎゃぁとまだ何かを言っている元貴を無視して電話を切る。即座に折り返しが掛かってくるが、若井氏は出ないという選択を取ったようだ。
先ほど置いたばかりの手荷物をもう一度持ち、若井氏と部屋を出る。
「猫の方、いる?」
「いりません」
「じゃぁこれは元貴の誕生日にあげるか」
せっかく買ったのにもったいないし。
色々諦めたように何も言わない若井氏と近くの居酒屋に車で向かう。
飲みながらこの前起きたという事件の詳細を聞いて笑い転げていると、元貴からメッセージが入った。
――最高です、ありがとうございます。
にこにこと笑っているだろう元貴の表情を思い浮かべ、せいぜいしあわせになりな、と酒を口に含んで微笑んだ。
終。
先と同じく、これもおまけの二人があります。
ちゃんとしたやつって、お高いんですね……そして種類が莫大。真面目な顔して何調べてんだ自分と思いながらも無茶苦茶たのしかった。