テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
おまけです。前半りょちゃん、後半もっきー視点。
IQ3くらいで読んでください。
二宮さんがくれたものをベッドの上に並べ、改めて見下ろす。
一般的な、よく知られている感じのものではない。マジシャンのアシスタントとしてノコギリでバラバラにされたり水槽の中から瞬間移動して爆発する場所から逃げ出す女性たちが着ているものとは似ても似つかないが、恐らくこれはバニーガールのコスチュームだ。
まず、全体の色が光沢のある白一色。袖のないオフショルダーのふわふわがついたトップスだけ……? いや、丈の短いワンピースなのかな、ふわふわのチュールスカートがついている。なんというか、バレエの衣装っぽい感じ。同封されていた説明書によると、バニーガールではなくバニードレスというらしい。うん、違いが分からない。
ふわふわのうさぎの耳はカチューシャではなくティアラにつけられていて、そのティアラには本物の宝石ではないだろうけれどキラキラと光る石が装飾されている。照明の下で光るそれを見つめ、なるほど、コンセプトは花嫁さんのドレスなのかと納得す……いや、なんで?
せめてもの救い(?)は水着みたいなレオタードではなくてミニスカートになっているところだ。あはは、下着まで入ってる……まじかぁ……白いレースだけど明らかに男性用だ。……何この輪っか。どこに着けんの? 脚? 腕?
「……着方の説明まである……」
そもそもサイズが合うのか? という疑問と僅かな希望を抱くけれど、そこは流石の二宮さんというべきか、スタイリストさんにサイズでも訊いたのか、サイズ表の数字を見ると、僕でも入るというより僕のために作られたと言わんばかりの大きさだった。
生地もなめらかでパーティグッズとして売られているものなんかよりずっと素材が良くて、まさかこれオーダーメイドなのではとスマホで制作会社を調べたら、フルオーダーでバニーコスチュームを作っている会社が出てきた。
意図せずお値段まで分かってしまって、こんなんにいくら出してんの!? と一人しかいない部屋で叫んでしまった。こんなんとか言ってごめんなさい。
「……なんでこれが元貴への結婚祝いになるの……あ、もしかして元貴が着るとか?」
僕より小さいし似合うかもしれない、と思い至った僕のスマホに、藤澤氏が着るんだからねと若井のアカウントで二宮さんからと思われるメッセージが入った。なんでバレた。
「……猫っていったら猫耳だったのか……」
もう一つの紙袋の中身を見たわけではないけれど、あの時猫派って言ったらこれが猫になっていたことは容易に想像がつく。なにを考えているんだろうかあのトップアイドルは。
確かにうさ耳のついた帽子をかぶっていたことはあるしスカートだって着るけれど、こういったコスプレじみたものはそういう企画がない限り着たことはない。授賞式でのパリコレモデル顔負けみたいなやつとかMVの衣装ならまだしも、ハロウィンでも着ないよ、だって僕もう三十超えてるよ?
着ないままでいいのでは、と考えて、数日前嬉しそうに帰宅した元貴を思い出す。
ニノさんに証人になってもらった、と言って完成した婚姻届をしあわせそうに額に入れて、リビング棚の上に飾っていた。会いに行くまでは緊張していたのに、お酒が入っていたことを除いても上機嫌だった。提出はできない婚姻届を見ながら、ずっと一緒にいようねって泣きそうに笑った元貴を僕は抱き締めたんだ。
さっきだって二宮さんの笑顔の圧は強かったけれど、心から僕たちを祝福してくれていた。偏見があったって仕方がないのに、それを欠片も感じさせない懐の広さで包み込んでくれた。
悪い人じゃないって分かってる。元貴のことを大切にして、僕や若井のことも気に掛けて、僕たちごと護ろうとしてくれている優しさを感じている。昨日まで親しくしていた人が急にてのひらを返すような芸能界で、数少ない信頼がおける理解者だ。
「……よし」
何も言わずに婚姻届の証人になってくれた人の厚意を無碍にはできない。どうせ、似合わなさすぎて元貴に爆笑されるだけだろう、やってやろうじゃない!
そう意気込んだのも束の間、着方の説明を読んで早くも心が折れそうだった。まず服を全部脱ぎます、っておかしいよ。着替えるわけだから脱ぐんだけど、それをわざわざ書いてあるのがおかしい。でもそうだよね、これが服なんだもんね。
シャワーくらい浴びた方がいいのかな。でも元貴が帰ってくる前に準備しろって言ってたしな……。妥協案として汗拭きシートで全身を拭って、意を決して服を脱ぎ、柔らかな素材のそれに脚を通した。上から被ると破れるかもしれないから下から履くらしい。
慎重に胸元まで引き上げ、脇腹の部分のリボンを結ぶ。細かいディテールは可愛らしくて、これを着るのが自分じゃなくて女性アイドルとかだったら可愛いねってなったかもしれない。170オーバーの男が着てもさぁ……そりゃなで肩ですけど。
一応ワンピースだから、ふわふわのチュールスカートが腰下で揺れた。ほぼ隠れませんけど。
小さく溜息を吐いて、これまた初めて実物を見たレースの下着に履き替える。うわ、むっちゃスースーする。それにしても、なんでこれもサイズが合うのよ……恐るべし二宮和也。
で、謎の輪っか……ガーターリングというらしい、を太ももにつける、と。小さなリボンが付いていて、全体はお花の刺繍がされていて可愛い。靴を履く場合はストッキングを履いてその上から着けるみたいだけど、家の中だし靴もストッキングもないからこれだけをつければいいらしい。初めて知ることばかりだ。
今気づいたけどお尻の部分にはふわふわのしっぽがついている。座っても邪魔にならないような絶妙な位置だった。
で、最後に頭にこれをつける、と言ったところでドタドタという足音と「涼ちゃん!」っていう元貴の声。うわやば、元貴が帰ってきちゃった。
冷静になると恥ずかしすぎて、取り敢えず部屋の電気をリモコンで消してベッドに潜り込んだ。
ニノさんからの電話が一方的に切られた後、若井に掛け直すけれど一向に出る気配がない。あの野郎……と舌を打つと、異変を察したマネージャーがどうかしたかと訊く。俺もよく分からないから何も言えない。
ただ、涼ちゃんは寝室にいるからという謎の予言を残して、二人は外に出るということしかわからない。
体調が急に悪くなった? まさかとは思うけど俺がいない間にニノさんが酷いことでも言った?
……それはない。ニノさんからの贈り物は紅白のワインだった。結婚祝いにワインのプレゼントは良い意味しかない。末長く幸福が続きますように、とか、新たな門出をお祝いしますとか。
こんなふうに祝ってくれる人が、何も言わずに婚姻届の証人欄にサインをしてくれた人が、涼ちゃんを傷つけるようなことをするとは思えなかったし思いたくなかった。
それに、そんなことをしようものならおそらく若井が黙っていない。相手がニノさんであったとしても喰って掛かるだろう。そのくらいには涼ちゃんを護ろうとしてくれる。
分からないことばかりだ。分からないのは不安を煽る。早く確かめたい。俺の中に巣食う恐怖をはやく拭い去りたい。また居なくなってしまうのなんて、もう堪えられない。そうならないために一緒に住んでいるのに。
マンションの前で降ろしてもらい、早足で部屋へと向かう。オートロックを開錠して玄関を見ると、涼ちゃんの靴しかなかった。
「涼ちゃん!?」
名前を呼びながらリビングに駆け込むが、その姿はない。ギリ、と奥歯を噛み締めてワインを机の上に置いて荷物をソファに投げ捨てて寝室へと直行する。
「涼ちゃん!」
勢いよくドアを開けると寝室は真っ暗だったが、リビングからの光でベッドの上がこんもりとしているのを認め、そこにいることが分かって少しだけ安堵する。
「涼ちゃん? なんで電気つけ」
「ああああ待って待って! つけないで!」
「は?」
焦った涼ちゃんの叫びに動きを止める。
暗い部屋に目を凝らすと、床に涼ちゃんの服が落ちていた。まさか裸ってこと? なんで?
そこでニノさんの言葉を思い出す。ちゃんとした高いやつ……え、そういうこと?
さっきまでの、涼ちゃんに何かあったのだろうかという不安が霧散する。俺の予想が正しければ、ニノさんが何かしら涼ちゃんに渡して、涼ちゃんがそれを身に纏っている。
「うん、無理」
明るい部屋で鑑賞しない理由があるだろうか、いや、ない。むしろ撮影会をしても良いくらいだ。
ぱちっと壁にある電気のスイッチを押す。
部屋が明るくなり、涼ちゃんがうう、と呻いて布団を被り直した。隠されると暴きたくなるよね。
ドアを閉めてゆっくりとベッドに近づく。もぞもぞと布団の中に逃げ込む涼ちゃんと思しき塊の横に腰掛けた。
「……りょうちゃーん?」
「待って、おねがい、心の準備がっ」
ばさっとめくりたくなるがそれはそれでつまらない。不安の種が消えた今、じっくりと焦らした方が楽しい。心の準備がいるようなもの、ってことは少なくとも全裸ではないとアタリをつける。
涼ちゃんが素直に着替えたというのには驚くが、多分ニノさんがお祝いだと言って笑顔で文句を黙殺したんだろうな。それでなくても人の好い涼ちゃんのことだから、せっかくのお祝いを無碍にはできないとか考えて着替えたものの、直前になって恥ずかしくなったというところだろうか。
「……ニノさん」
「うっ」
「赤ワインと白ワインくれた。あとでちゃんとお礼言わないとだね」
「そう……だね」
ぎゅっと布団ごと抱き締める。ワクワクが止まらない。
「涼ちゃん、心の準備できた?」
「できない」
「……じゃぁ、少しだけ暗くする?」
「真っ暗にして」
「それはやだ」
暗くしたらちゃんと見えないじゃん。
枕元のリモコンで照明を落とし、薄暗いけどはっきり見えるな、くらいの明るさにする。これ以上は絶対に譲らない。
しばらくじっと待っていると、暑くなってきたのかくぐもった声が布団の中から聞こえてきた。
「……笑うなら」
「うん?」
「大爆笑してよ?」
鮫の頭とか馬の頭でも被ってる? もしかしてそういう系?
でも、それならこんなに粘ることはないだろうし、かと言って頷かなければ話が進まない。
「分かった」
真面目な声を作って答えると、うぅ、とか、あぁ、とかうめいた後、涼ちゃんがそろそろと顔を出した。
ぴょこ、布団から飛び出てきたのは白い耳。きらきらと光るティアラが美しい。
涼ちゃんは泣きそうになっているせいで涙目で、顔はびっくりするくらいに赤くなっている。剥き出しの首から肩にかけては何にも覆われておらず、胸元は光沢のあるやわらかな生地にふわふわな装飾がされている。うさぎの毛を見立てているのだろう。
「……もとき?」
目を見開いて固まった俺を、心配そうに涼ちゃんが呼ぶ。
それには答えず、涼ちゃんを見つめたまま布団を掴んで一息に取り去った。
「ちょっ!」
慌てた涼ちゃんが腕を伸ばすがもう遅い。
むしろ前傾になったせいでお尻が上になってふわふわのしっぽが見えて、チュール素材の布が太腿の付け根を申し訳程度に隠し、その下にあるガーターリングがむっちりとした太腿に食い込んでいる。胸元は少し大きかったのか隙間ができてふわふわの綿毛から乳首が覗き、リボンで留められているスリットから脇腹がチラ見えしている。
「…………」
ニノさん……あなたって人は。
無言でポケットからスマホを取り出して、文句を言われる前に写真を撮る。びっくりした顔もまた可愛い。
「撮らないでよ!」
「無理。撮るだろこんなん!」
撮るなという方が無理な話だ。今までコスプレとかに興味がある方だとは思っていなかったけれど、何この破壊力。好きな人がやるとこんなにも興奮するんだ……新しい扉を開いてくれてありがとう、ニノさん。あんたサイコーだよ。
「もぉ! そんなおかしい!?」
ムスッとして涼ちゃんがベッドに座り直して膝を抱えた。ちょ、中が見え……何その下着……。
「なんつーもん履いてんの……」
「え? あっ」
俺の惚けた声に慌てて脚を崩して隠すけれど、もうばっちりしっかり見えました。そんな下着を涼ちゃんが買うとは思えないからそれも用意されていたということだ。馬鹿正直にちゃんと着るところが、なんというか可愛んだけど心配にもなる。
とりあえずニノさんに、最高です、ありがとうございます、とメッセージを送り、用済みになったスマホをナイトテーブルに乗せた。
俺もベッドに乗り上げ、赤い顔のまま拗ねた表情をする涼ちゃんの前に座って真正面から見つめる。唇を尖らせて、涙目で俺を睨む。可愛いだけだよ、そんなの。
「……笑うなら大爆笑してって言った」
「笑わないよ」
「笑ってるじゃん」
「これは……可愛くてたまんないって顔」
「え?」
ぱたりと瞬きをする涼ちゃんの頬に手を伸ばす。
「かわいい。すっごく似合う。お嫁さんみたい」
「う……」
甘く見つめながら熱の籠った声で囁くと、顔を赤くして凝視する俺から目を逸らす。親指で唇に触れると、くすぐったいのかこっちを見た。
「あと、すごいえっち」
「は!?」
何言ってんの、と目を見開いた涼ちゃんのさらされた太腿に手を滑らせ、身体を近づけて首筋に顔を寄せる。上目遣いで涼ちゃんの表情を窺うと、顔を真っ赤にして口をぱくぱくと動かしていた。
すぐ脱がしてしまうのは勿体無いから、どうにかこれを堪能できる体位を頭の中で思い浮かべながら、やわらかな唇に噛みついた。
いただきます。
終。
ちなみに猫はメイド服の予定でした。
コメント
6件
最後の、いただきます、♥️くんらしくて🤭笑 そして、ちょっと🐱バージョンも気になります💛🐱
まずどの💛ちゃんを降臨するか脳内会議が始まって、白なんだぁ💕そういうことかぁ✨ってなって、より脳内で明確化するためにバニードレスを調べて(笑)、脳内降臨した💛ちゃんと脳内コラが始まって、喜んだ最近の❤️さんが脳内降臨しました😇 あ、無事💛ちゃんも脳内降臨しました🤭 作者様ありがとうございます✨ニノさんありがとう✨
バニードレスを検索する日がくるとは…🤣楽しませてもらいました😂