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森の中の古びた井戸
田舎と言うには家同士の間隔はそんなに広くもなくて。でもだからってお店があるかといえばないし、最寄りのコンビニは車で2時間だ。そんな町。家が集まってるところより少し離れたところ。近くには森があって、ほとんど人は入ってこない。私専用の遊び場。友達を連れてくることもあるけど、みんなはそんなに近い訳でもないし、1日遊べば飽きるというもの。そもそもそんなに友達いないし。いつも私は1人、森の中へ遊びに行く。結構広くて、迷わないようにあまり遠くへは行かないけど。動物探したり、魚みたり、散歩したり。子供にしてはあまり活動的な遊びではないかもしれないが。
朝、目が覚める。月みたいな金色の黄身が乗った目玉焼き。その目玉焼きが乗ったパンに手を伸ばす。いつもと変わらない一日が始まる。支度をする。森へ行…おっと、忘れ物。
気を取り直して、森へ行く。見慣れた景色も見回して。それでも子供の私には全てが違って見える。魚も、虫も、揺れる木の葉も。全てが私を歓迎していた。なんともない日。いつも通り気ままに歩いたりして、日が沈む前に帰る。違うようで変わらない、なんともない日。
…そのはずだった。しまった。私としたことが、迷ってしまった。今日はどうやら気が抜けているようで、目の前のものを見ているうちに、奥の方まで来てしまった。日は傾いてきていて、燃えるようなオレンジが森ごと私の体を包んでいく。まずい、夜になる。夜になれば寒くなるし獣が出ないとも言いきれない。…それはさすがに心配しすぎだろうか。第一、お母さんに怒られる。森に行くのを禁止されるかもしれない。それは困る。友達と森を天秤にかけて森を選ぶ私だ。そんなことされたら生きる希望がない。
迷った時は歩き回らない方がいい。その場でじっとして、助けだったり、朝だったりを待ったほうが懸命だ。ただ、今の私にそれは出来ない。行こう、気の向くままに。神はいつだって私に試練を与えるけれど、自然はいつだって自然を楽しむ私を見捨てはしなかった。
どれだけ歩いただろう。気の向くままにと言っても限界がある。精神は焦りでもう限界だ。映るものに夢中でどれだけたったか分からないが、きっとものすごく歩いた。体も精神ももうだめだ。休憩しよう。
そう思っていた。なにか、影が見える。
………井戸だ。
井戸に腰かけて少し休もう。ふう、疲れた。私は家に帰れるだろうか。月明かりが、私の髪を撫でている。もう夜か。諦めるしかないだろうか。
少し、井戸に目をやってみた。水というのは、安らぎを与え、疲れた精神によく効く。水面に写っているのは私だろうか。鏡なんて高級品は家には無いし、しばらく水面など気にしていなかった。そういえばこんな顔だったかな…。
体力が回復したので少し立って深呼吸をしてみる。水面には金色に輝く円が写っている。
お腹がすいた…。もうとっくに夕食の時間は過ぎている。逆に過ぎていないことがあろうか。
もうなんでもよくなって、とりあえず水を飲むことにした。光り輝く金色を手元に運ぶ。すがるように手を伸ばした。
朝、目が覚める。…ここはもうやったな。月みたいな金色の黄身が乗った目玉焼き。その目玉焼きが乗ったパン…に、もう手を伸ばしきっていた。
金色の黄身は新月となって、それでも朝日より眩しい気がした。
今日は、森に行くのはやめておこう。