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鍵を受け取った後、元の景色に戻ると
首切れスターのメンバーは帰ったのか
影國会のメンバーのみ近くに残っていた。
「なあ折西。お前、俺らの過去を見たって
ことは…組長の過去も見れたんだよな?」
開口一番は紅釈の声だった。
話せる範囲内でいいから、と他の職員も
全員折西に頭を下げる。
尊敬する人の過去を知りたいと願い助けたいと
思うのは人として有り得る感情だ。
そう思った折西は組長の事について話した。
幼い頃組長は弟と比べられ劣等感を人一倍
持っていること、大事な弟にも恋人にも
裏切られたこと…全てを話した。
話を聞き終わった職員達はしばらく沈黙が続く。
「…明日は組長をみんなで助けよう。」
俊がようやく口を開き、静かに皆んなが頷き
意を決したのだった。
・・・
その後、どうにも寝られなかった折西は
他の職員の部屋を訪れることにした。
どの部屋も明かりがついている。
折西は先に奥のコンピュータ室に入った。
「昴さんはハッキングのプログラムを
書いていたんですね。」
「まあな、昨日の昼頃にはハッキングシステムは
完成していたんだが…念には念を入れて
セキュリティも強くしておいた。
後はもしもの時のためのドローンとかも…」
昴が顎で指した方向を見ると10台の
ドローンが置いてあった。
「これが救助用ドローン、これが配信用ドローン、
これが光街ファージ検出用…」
「光街ファージって何です…?」
「光街には法がある。影街でファージと
契約を結ぶ程度なら現状法に触れない。
けれど光街でファージと契約してしまうと
法に触れる。」
「…つまりライさんが光街ファージと
契約しているとなれば法で裁くことができる…
ということですか?」
「そういう事だ。そっちの方が東尾も
有利に動けるだろうからな。」
「…ふふっ!」
折西は不意に吹き出す。
「な、なんだいきなり!!笑うな!!!」
「す、すみません…組長の事ちゃんと
尊敬してるんだなって…」
折西がそう言うと昴はそっぽを向いた。
「…当たり前だ。俺はあの人に
何度助けられたか…」
昴はしばらくして折西の方を向くと
茶化すなら帰れ、こっちは忙しいんだ。
と折西の頭を掴みドアの方を向かせた。
・・・
次は俊の部屋を訪れた。
「おっ!折西じゃねぇか!!!大丈夫か?
疲れてないか???」
「融くん!いらっしゃい!!!」
そこには俊と紅釈が居た。
「僕は大丈夫なのですが…
お2人が一緒の部屋なの珍しいですね…」
「いやぁ、折西からの話があった後やけに
俊と意気投合しちゃってよ!!!」
「二度とライを歌うことが出来ないように
するために2人で考えてたんだよ!」
あまりに殺意の高い俊のブイサインを
見て折西は苦笑いした。
「多分昴と東尾がオーバーキルするけどな!!!
だから俺らは基本組長守って余裕があれば
ライに仕掛けようかなって!」
「…なるほど。すごく心強い…!」
「でしょ!?…だから融くんは組長の
鍵開け任せたよ!」
俊がそう言うと目の前に拳を突き出した。
その拳に折西も紅釈も拳を突き出す。
「はい!皆んなで組長を助けましょう!」
組長を起こさないように拳を天井に向け、
小声でおーっ!と言うのだった…
・・・
最後に東尾の部屋に行く。
「…あの…」
ゆっくりとドアを開ける。
東尾は机に向かって集中しているのか
無表情と無言が続き、暫くして
呼びかけに反応した。
「わっ、ごめんね!!つい没頭しちゃって…」
折西がそっと机を見ると多くの本が置いてあり
ノートにびっしりと何かが書かれていた。
「凄い量ですね…!」
「えへへ…けどまだ足りないくらいだよ。
助けるならもっと組長にメリットが
欲しいし。」
少し緩んだ表情で東尾は頬をかく。
「メリット?」
「ええ、折西さんから聞いた情報やカリマさん
から頂いた証拠のおかげで恐らくこちらの
勝ちは確定なんですけど…せっかくなら
富豪のライさんから請求できないものかと。」
東尾の表情はまた張り付いた
ような笑顔になる。
「確かに、ライさんはお金持ちですもんね…」
暫く折西が東尾の作業を眺めていると
唐突に東尾の口が開いた。
「…ちょっと話が変わるけどいいかな?
大不況だった時の話がしたくて。」
「大不況だった時…?」
「うん、式ノ本自体が大不況になった時期が
あったでしょう?普通こういう時って
全体的に給料減るじゃない?」
「ですね…僕が会社員の時も大不況で
給料下がりました。」
「けれど影國会の給料、1度も下がったことが
無かったんだ。
…実は大不況の時、組長は影國会とは別の自分の
貯蓄口座を崩して職員に給料を
渡していたらしくて。
『従業員を雇うからにはどんな時でも
それ相応の給料を与えるのが俺の役目だ。』
ってね。」
「…そんな他人を大切にする方が
救われないのは俺が許せないんだと思う。
このノートも自分のエゴだよ。」
ノートを見て東尾はクスッと笑った。
「そのエゴ、どんどん出していきましょ!」
折西がそう言うと東尾はうん!と
柔らかい笑顔で頷いたのだった。
・・・
ライブ当日の夕方、東尾と昴を除く
影國会のメンバーと首切れスターメンバーは
会場へと向かっていた。
「アッ、アッ…」
「んと…んと…」
折西とマアクは組長の顔色を伺う。
トラウマを見てから組長の機嫌が悪いのだ。
「ね、ねぇ。鍵を取ってくるのって本当に
必要だったの…?」
マアクが折西の耳元で小声で話す。
「めちゃくちゃ必要なんですけど…
それはそれとして組長の機嫌が悪いですね…」
そんな二人の会話や組長の機嫌など
気に止めて居ないカリマとモルフォは
意気揚々と会場裏へとスキップして
足を進めている。
紅釈がライの影ったーを見ると
「今リハ中だよ〜!」と書いてある。
画像が添えられておりそこには
ライの他にマイクとウズメもキメ顔で
写っている。
返信欄を見るとライは可愛いだの
マイクもウズメも頑張ってだの賞賛の声
ばかりだった。
「そういえばこの3人のアンチコメが
ひとつもねぇな。」
「ああ、それはね。情報規制AIを自分の
SNSアカウントに仕組んでいるからだよ。」
ファンは本当にファンなんだろうけどね、と
カリマは鼻で笑った。
「あの人、金と美貌だけは持ち合わせてるから
スポンサーが多いんですよ〜♡
アンチ規制AIの会社もスポンサーです♡」
モルフォがいつものふわふわとした笑顔で
言ったかと思えばふと、悪い顔になり
「けど、このスポンサーもライと『心中』
することになるんでしょうね。」
と言う。
それを聞いた俊は小声で「怖…」とだけ呟いた。
数分後、メンバー一同は会場裏まで
ようやく辿り着いた。
「よし、首切れスターメンバーと
影國会メンバーでライの挙式ライブを
ぶっ壊しに行くわよ!!!!!!」
カリマの掛け声と共に一同は
「おーっ!!!」と片手拳を空に
突き上げるのだった。
・・・
カリマ達は舞台裏に潜入する。
ライブは既に始まっており
ライが壇上で歌っている声が聞こえた。
「昴さん、そちらの準備は整っていますか?」
小声でスマホ越しにカリマが聞く。
「こちらは問題ない。何時でも突撃可能だ。」
「ふふ、流石は天才…と言ったところだな。」
そんな話をしている後ろには折西がいた。
組長の様子をちらりと伺っている。
「なあ、組長ここに来てからずっと
動いてなくね?放心状態なんかな?」
折西の隣にいた紅釈は折西に耳打ちする。
「…放心状態というより過度にパニックに
なってる気がします。」
そう言って折西が指さしたのは組長の
手元だった。
ライトに照らされた手はじっとりと
汗をかいており、小刻みに震えている。
「マジかよ、今パニックになるの
不味いんじゃ…!?」
「僕に任せてください、何とかします。」
折西が組長の元へと歩み寄る。
紅釈はその背中を見て目を丸くした後、
ほんの少しだけ口角を上げた。
「本当に、折西は救いの神様だな。」
・・・
「組長さん。」
「あ、ああ…折西か。大丈夫か?
緊張してないか?」
「すごく緊張してます、僕もみんなも。
けれど皆さんは緊張以上に闘志に
燃えていますよ!」
「…どうしてそれが分かる?」
「昨日の夜、皆さんの少し覗いたんです。」
と伝える。
「組長さんを守るんだー!とかせっかく
なら今回頑張る組長にメリットが
あればな〜…とか!」
折西はゆっくりと鍵を刺そうとする。
しかし組長はそっと折西の腕を掴む。
「…俺はその鍵が怖い。」
「それでも鍵は開けなきゃいけないんです、
組長のためにも。組長を想うみんなの
ためにも…それに。」
「鍵開けをした後みんな前を向いて
生きている。それを近くで見ていても
鍵開けを恐れるのは…恐らく鍵開けが
怖いのではなくて…自分の流す涙が
怖いのでしょう?」
「…!」
組長は目を見開き、掴んでいた手の力が抜ける。
その隙を見て折西は鍵を1つさした。
すると辺りは白に包まれる。
「これは貴方を高く評価し、貴方が前に
進むことを願う人の分。」
次に2個目の鍵をさす。
「これは貴方を比較せず貴方個人の背中を
見て慕う人々の分。」
最後に3個目の鍵をさす。
「これは貴方に恋をして、貴方を想うからこそ
貴方と真摯に向き合い、貴方を傷つけた人を
許せない人の分!!!」
「…もう貴方は1人じゃない。
少なくとも皆んな裏切るような人じゃない。」
「それに、貴方の流す涙をここにいる人たちは
拭ってくれるはずから。」
折西の指は組長から流れる涙をそっと拭った。
「…ずっと泣くことが駄目だと思っていた。
大人だから、兄だから、上司だから…」
「…そうか。いつの間にか俺の周りには
俺を信用し、尊敬する人がこんなに…」
組長は涙を流し、優しい笑みを浮かべる。
「大人でも、兄でも、上司でも泣いていいんです。
涙を流して落ち着いたらみんなの元に
行きましょう!」
「…ああ。」
みんな待っているだろうから。と言うと
包んでいた白は取り払われ、元の場所に戻った。
「だ、大丈夫ですか!?さっき白い光が
2人を覆ってて…」
カリマの心配の声と共に皆んな
2人の元に駆けつける。
「俺たちは問題ない…むしろ覚悟が出来た。」
組長がそう言うと前に進み始める。
「行こう、絶対に成功させる。」
組長は後ろを振り返るが
ライトが後方から辺り逆光になっており
組長の表情は見えない。
しばらくして組長は壇上の方を向き、
歩き始める。
影國会のメンバーと首切れスターのメンバーは
顔を見合わせるとニッと笑い、組長の
大きな背中を見守る。
「さて、お宅の組長さん達が頑張ってくれる
事だし!首切れスターのメンバーも頑張るよ!」
組長の後を追うようにカリマも舞台へと向かう。
「…」
マアクはどこか真剣な表情でカリマを追った。
「私も頑張りますね〜♡
…みんなで暴れましょうね!」
そう言って首切れスターのメンバーも
舞台へと向かっていった。
「俺達も頑張ろうぜ!」
紅釈がニコッとして折西に言うと
折西は静かに頷いたのだった…
・・・
「次の演目は…」
アイクが進行を進めていると急にライトが
全て消え始めた。
「なっ…!?なんだ!?」
ウズメが辺りを見渡すも何も見えない。
急に肩に誰かの手が置かれる。
「ライと結婚するのは辞めて首切れスターの
所に戻った方がいい。これは忠告だ。」
耳元でぼそっと囁かれウズメは
ビクッと肩をふるわせた。
「は、はぁ!?」
ウズメの反応を無視するかのように足音は
少し離れたところで音を止ませる。
するとスポットライトが2つパッとついた。
「ライ、30年ぶりだな。」
「…は?何であんたがここに居んのよ!?」
「…『30年ぶり』は否定しないんだな。
このステージ上で仕事を頼まれてな。」
そう言うと観客席から
「どう見ても20代じゃねぇか!!!」
「何言ってんだこのオッサン!?
計算もできないのか!?」
という声が聞こえた。
「そうだな、貴方達は知らないだろうから
説明すると…」
すまない、ドローンを持ってきてくれ。
と組長が言うとライのスポットライトが消え
後ろにある大きなモニターに灯りがつく。
そして光街ファージ検知機能のある
ドローンが現れた。
そしてドローンはライを照らすとライの足元に
二枚貝のようなファージが現れた。
「不味い…!」
するとライの額にはじんわりと汗が滲み始めた。
「このドローンは光街で契約したファージを
映し出すことが出来る。
何を代償にしているかは知らんが…恐らく
能力は年齢操作と言ったところだな。」
「このクソッ…」
ライは眉間に皺を寄せ、お世辞にも清楚とは
言えない表情をしていた。
「ま、『不味い』…?も、もしかしてさっき
見えたのはオッサンのハッタリじゃなくて
本当に…光街で契約したファージ…?」
「それだけじゃないさ!!!」
組長の後方からノイズ混じりのマイクの音と
足音が聞こえる。
「カリマ!?」
「久しぶりね、『妹ちゃん』。」
カリマはだらしなく手を振るとウズメと
アイクがライを庇うように間に入った。
「…いい加減にしろよ。この会場を勝ち取った
のは俺達だ。それに、歳上だろうが俺は
ライを愛してる!!」
ウズメがそう言い放つとカリマは
「あんたもつくづく馬鹿ねぇ」と
ため息をつき、モニターの画面を切り替える
よう指示をした。
それはライの陰スタグロムの鍵垢だった。
そこにはウズメ以外の男性とデートしている
写真やウズメに対する愚痴がびっしりと
書かれていた。
…なんと浮気相手にはアイクも存在していた。
アイクの手汗はぽたぽたとステージに
落下していた。
そして表垢と裏垢を並べ、裏垢が本物である
証拠を説明し始めた。
「…!?ら、ライ…これは嘘だよな、」
「…なんであんたがこの垢を見れるのよ…!?」
「えっ…」
会場が静まり返る。
「このアカウントは影國会の組長さんの
部下がハッキングしてくれたんだよ。」
ライはギリッと歯を食いしばった。
「私たち首切れスターからはこちらを
プレゼントしますね〜♡」
隣からひょこっと出てきたモルフォは
地面に勢いよく書類を叩きつける。
配信用ドローンが近くに寄ると
大画面にはアイクの住民票が映し出される。
「なっ…!個人情報を勝手に!!」
「アイク君、光街出身だし住民票
あるかなーって!!」
そこには既婚者の名前や子供の名前が
のっていた。
「アイクくんの今の奥様とお子さんに
許可を貰ったんです〜♡
快くOKしてくれました!
元々アイクくん浮気癖が凄いらしくて
奥様が困っていたとの事で潰してきて
欲しい、とね。」
アイクは後ずさりし、その場で崩れ落ちた。
「テメェ!!!!!!!俺とライが
付き合っているって知っていながら!!!」
「…取られるのが悪い。」
「こいつ…!!」
アイクとウズメは殴り合い始める。
そんな2人を止める訳でもなく必死に
会場の人たちに浮気していない、信じてくれと
呼びかけていた。
しかし会場の人は誰一人信じる人はおらず
持っていた冊子や物をライやアイクに
投げつけていた。
ライは身を守るようにして
咄嗟にしゃがみこむ。
「…ライ、お前には何も残っていないんだな。」
組長はそんなライの姿を見下ろす。
「クソが…全部お前のせいで…!!」
組長に殴りかかろうとライは立ち上がり、
拳を振り上げる。
すると俊がすかさず組長の前に立ち、
ライの両腕をガシッと掴んだ。
「そんな汚い手で垓に触ろうとしないでくれる?」
ライの細い腕はミシミシと音を立てている。
「本当はもう1人の職員君と組長を守ろうねって
話したんだけど…やっぱり君のこと
許せなくてさ。結局もう一人の子には
別の仕事頼んじゃった。」
俊がいきなり手を離したかと思うと
すぐに体制を整え、ライを背負い投げた。
「本当は君をもっと殴りたいけど…
流石に “君の彼氏2人” みたいなカッコ悪い姿
垓には見せられないし、やめとくよ。」
俊は手を離し、手をパンッと払った。
「はい、これでおしまい。けど垓に
手を出そうとしたらまた反撃するからね。」
俊はそう言うと組長の隣に立った。
「クソッ…どいつもこいつも
恥をかかせやがって…」
周囲の地獄絵図を見渡し、
ライは舌打ちをした。
すると突然
「みんなもう辞めてあげて!!!」
という声が聞こえた。
その声とともにマアクはライの元へと駆け寄る。
アイクとウズメも手を止め、マアクを見つめた。
「…カリン!」
どうやらマアクの本名はカリンと言うらしい。
ライがマアクを抱き寄せる。
「もう嫌、2人で帰ろう。」
「…うん。」
「ま、マアク…!」
カリマが止めようと手を伸ばすが
モルフォがカリマの手をそっとおさえた。
カリマの表情もモルフォの表情もどこか
悲しくてみんな目を逸らした。
ライはその声を聞くと立ち上がり、
マアクの手を引こうとする。
しかしマアクはライの手を思いっきり払った。
「…えっ?」
「…もうその演技飽きた。どうせ国からの
補助金目当てで親権取りたいだけでしょ?」
「な、何を言っているの!?そんな事、」
「散々僕のこと虐待して腐った食べ物しか
食べさせられない人間が親になんか
なれると思うなよ!!!!!!!!!!」
そう言い放つと会場がしばらく沈黙が続き、
観客席から「いいぞ!もっと言うんだ!!」と
言う声が沢山聞こえた。
「この糞ガキ!!!!!!」
ライはマアクを殴ろうとする。
途端にマアクの身体はそっと抱き上げられ、
「マアクちゃん、目をつぶってて。」と
マアクの耳元から聞こえた。
フワッとした感覚が一瞬し、
後方へと着地した。
「紅釈さん!!!」
「怪我はないか?」
「えへへ…お陰様で!」
「そいつを離せ!!!」
「おっと、こんな可愛い子をそいつ呼ばわりか。
…女性には優しくする主義だけど
ライさんには優しく出来ねぇな。」
マアクが紅釈の顔をちらりと見ると
今まで女性に向けたことないような
怒りに満ちた表情をしている。
「どいつもこいつもみんな裏切りやがって…
真契約!!」
ライはそう言うと両手を胸の前で組む。
ライの周りを黒い羽根が覆う。
「なに…!?真契約!?下がってマアクちゃん!」
紅釈はマアクに後ろに下がるように言う。
黒い羽が周りから退くとマチェットを
片手に黒いドレスに身を包んだライの姿が
現れた。
「…私も心鍵師に頼んだのよ、鍵開けをね。」
「…は?お、折西!?
こいつの鍵開けしたのかよ!?」
慌てて紅釈が舞台裏にいる折西に聞くと
「そんなことしてないです!!!ライさんを
鍵あけしたら明らかにこっちが不利に
なるじゃないですか!!」
「…ふぅん。そこにいる子も心鍵師なのね。
違うわ。その子じゃなくて褐色肌の青年よ。
光街に呼んで鍵あけしてもらったの。」
「褐色肌で影街出身…まさか、肉屋の
捌切(はちぎり)か!?」
「あら、よく知ってるわね。」
「…捌切…お前どうして…」
紅釈が俯くとライは高笑いする。
「あら、お友達だったの?
私の関わった人達について細かく聞いてきて
ちょっとウザったい所はあったけど
快く鍵開けを承諾してくれたわよ。
…裏切られちゃたのね、可哀想。」
舞台裏にいた折西の隣にいたお姉さんは
「あっ…」と苦笑いしている。
「どうしたんですか?お姉さん?」
「あのね、心鍵師って2種類あるの。
1つは折西くんみたいにトラウマの心の鍵を
開ける《開け師》。もうひとつは…」
「明らかに加害側なのに罪悪感を持たない
人の心の鍵をする《閉じ師》。
心鍵師が介在すれば開けても閉じても
真契約出来るんだけど、閉じ師が
介在した場合は真契約した時点で
暴走してうつ状態になるの…」
「えっ」
「見てたらわかると思う。能力すら
使えないから…」
折西はライの方を再び見る。
俊に切りかかろうとするも
先程と同じように止められてしまった。
「…どうして!?」
ライは能力を使って振り払おうとするも
俊はビクともしない。
するとライはいきなり叫び始めた。
驚いて俊は手を離すとライは地面に
うずくまった。
「な、何!?ねぇ君大丈夫…!?」
異変を感じとった俊はライの近くに
行こうとする。
しかしライは空を切るようにして
あちこちを振り払った。
「いやあああああ!!!!!!!!
やめてやめてやめて!
もう浮気しないし虐待もしないから!!!
私から出ていって私から出て私から
出て出て出て!!!!!!!!!!!!」
しばらくするとライは気絶しその場に
横たわった。
「ヒェッ…アレは…?」
折西が恐る恐るお姉さんに聞くと
代わりに後ろから低い声が聞こえてきた。
「…やっぱり真契約したか。あれほど
俺は開け師じゃなくて閉じ師だと言ったのに、
真契約は辞めておけと言ったのに。」
まあライの知り合いに俺の知人も特に
いなさそうだったから大丈夫だろう。
…と腕を組んでステージを見ながら言ったのは
肉屋の店長「捌切」だった。
「捌切さん、閉じ師だったんですね…」
「ああ。閉じた奴を好いてる周囲の人間に
まで影響があるからあまり閉じたくは
ないんだが。」
捌切はため息をつく。
「…昔お前の所の組長に何度も影國会に
スカウトされたが…俺が内部で仕事してたら
全員アレになるだろうな。
折西が入社してくれて助かった。」
「…最初に紅釈さんに気絶させられた時、
無事息を取り戻して良かったかもしれないです…」
折西は苦笑いした。
・・・
数分後、偶然配信を見た光街のトップの
海源(かいげん)が意識を取り戻したライを
引き取りにきた。
ライに抵抗する気力はなく、ボーッとした
まま町奉行についていった。
「いやいや、助かりました!ライさんは
結婚詐欺や脱税もしてましたから…
賠償金も無事回収できそうです。」
海源は組長と握手をした。
「いえいえ…そういえば俺を捕まえようとは
ならないんですね。」
「まあ…ド派手な事はしてますけど
法に抵触するようなことはしてませんし。
影街と光街が共存できる式ノ本を
目指してますので。
組長さんとは是非仲良くしたいのですよ。」
顔布で見えない目元にニッコリとした
口元に組長は少し不気味さを覚える。
「そ、そうですか…そしたらまた
お時間ある時にお食事でも。」
「ええ、是非に。」
海源は頭を下げるとその場から立ち去った。
「次はお前らだな。」
カリマが突然アイクとウズメを
睨むようにして見た。
2人は並んで正座をしている。
「おい、アイク。これはウチらの勝ちだよな?
会場使っていいよな????????」
お願いと言うよりは圧をかけているカリマに
アイクは深々と土下座をしている。
「は、はい…」
「よし。元プロデューサーの権限も得たし。
テメェら2人とっとと帰れ!!!
…じゃなかった。
アイクは後で会場の所有権をうちに寄越せ!!!
テメェみたいな私情で会場権を動かすやつより
うちが持っておいた方がいいだろ。
そして町奉行に自分で出頭しろ!!!
ウズメは知らん!気色悪ぃから二度と面を
見せるなよ!!!!!」
「はい…」
2人はトボトボとステージから降りていった。
「皆さ〜ん!今のモヤモヤした気持ちのまま
帰りたく無くないですか〜?」
モルフォがそう言うと右手を天に上げる。
するとギターの形のホログラムが現れ、
モルフォはギターを構えると弦を弾いた。
するとホログラムのドラムやマイクスタンドが
ステージ上に現れる。
…何故かマイクが2つある。
「今回は特別ゲスト!影國会の組長にも
歌って頂きます!!!!!!」
『えっ…えええええ!?!?!?!?!?』
観客席や影國会のメンバーは驚いて
組長の方を見る。
「う、歌うとは言ってないんだが…」
「お声がダンディーで素敵なので
きっと大丈夫です♡」
「声質だけじゃどうにも…!!
首切れスターの曲すら何も分からないのに…」
「大丈夫です!!!もし下手だったら
ドラムの音でかき消します!!!」
マアクのドヤ顔に会場がどっと
笑いに包まれた。
「全く…」
組長はマイクの前に立ち、
モルフォとマアクの演奏とともに
カリマと歌い始めるのだった…