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5 - 第5話 恋のつぼみはふくらんで(3)

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2023年09月26日

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責められているわけではないのだが、言い訳をするように蓮の喉トントンの仕草。


「き、君も俺くらいの歳になったら分かるよ。いろんなことがポロポロ抜け落ちていって、恐ろしいくらいに忘れてしまうんだ」


言い訳しながら歩を進めるものだから、例によって足元が留守になる。

よろりとよろけた蓮は、ネモフィラを踏まないように身体をずらした結果、派手に転んでしまった。


「痛た……。ほら、三十路になると、こんな何でもない所で転んでしまうんだよ」


呻きながら起きあがる蓮に、梗一郎が手を差し伸べる。

すまないねぇと手を取りながらも、蓮はすこしホッとしていた。

強張って見えた梗一郎の表情が、今はすっかり和らいでいたからだ。


手を取られ、教員棟の通用口へと入っていく。

「花咲」とネームプレートのついた扉を開けるなり、上からファイルが落ちてきた。


今度は別の意味で梗一郎が顔をしかめる。

かすかに漏れるうめき声。


「もう、小野くん。ドアはそっと開けなきゃいけないよ。部屋が崩壊するじゃないか」


口を尖らせながら蓮がファイルを拾って、さらなる崩壊を招いている。

床に用紙が散乱した。


「なんでこの部屋、こんな汚……グチャ……散らかっ……その、整頓されてないんですか」


「うわぁ、ものすごく言葉を選んだ言い方だねぇ」


そこそこスペースのある教員準備室だが、左右の壁に設置された書棚には天井まで本が詰め込まれている。

奥の窓辺で本と書類に埋もれているのはデスクであろう。

部屋の中央に並べられた会議用の長机の上もまた然り。


「この春に着任されたっていうのに、もうこの散らかりよう……」


「的確に状況説明しないでくれよ。違うよ? 俺だけじゃないよ? よその部屋もみんなこんな感じだよ?」


「いやぁ、どうでしょう……」


さすがに恥ずかしくなったか、蓮が長机の上に散乱していた書類を一か所にまとめ始めた。


「来月、学会の発表があるから準備で大変なんだよ。なのに、お世話になってる先生がアンケートの集計とか雑用を押しつけてくるから」


あまりに聞き苦しい言い訳を、梗一郎はサラリと流してくれた。


「集計でしたら僕が手伝いますよ」


「エッ、ホントに」と叫んで優等生を見上げる新米講師。


「ダメだ、君……君はダメだ。なんでこんなに良い子なんだ。なんかホントにキラキラしてるじゃないか!」


「……ちょっと先生が何を言ってるか分からないですね」


さりげなくひどい言葉を吐きながら、梗一郎は足元に転がっているペンを拾った。

指先でクルクル回しながら、ふと不思議そうに小首をかしげる。


「おや、気付いたかい? さすが小野君、お目が高い」


「お目が高いって何ですか」


梗一郎の手元にあるのはシャープペンシルである。

隣県の有名な博物館のマークが刻まれていることから、ミュージアムショップで購入したものだと思われた。


ペンの持ち手には絵柄がプリントされており、梗一郎が目を細めたのはそれがユーモラスな動物のイラストだったからだ。

デフォルメされたウサギとカエルが並んでいる。

まるで日常会話を楽しんでいるかのように、表情に愛嬌がある。


「鳥獣戯画ですね。可愛らしいですよね」


擬人化された鳥や獣が生き生きと描かれた、国内最古の漫画とも呼ばれる絵巻物の名をあげ、梗一郎は蓮にペンを返そうとした。


しかし、連は受け取ろうとしない。

よくみると、口元に不敵な笑みが浮かんでいた。


「よく見てごらん。それ、鳥獣戯画とは微妙に違うから」


「そうですか?」


クルクルと回転させたペンのイラスト。

その一点で、梗一郎の目元が歪められる。


可愛らしい表情のウサギが、カエルの足をクイと左右に広げて伸しかかっている図だ。


「これはまさか……いや、どうみても。いや、そんなはずは……」

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