「気持ちを宝石にして吐き出せる魔法…?」
「はい!最近世間で流行っているらしいですよ!!」
黄色い瞳をキラキラと輝かせながらそう語るレモンちゃんに対しかわいいなーとぽやぽやとした感覚になっている時に興味が湧く単語が出てきた。
「ポジティブな感情なら赤、ネガティブな感情なら青の宝石が出来上がるみたいです!」
「ほ
世の人々は日々のストレスを青い宝石に変え吐き出し、気持ちを切り替えているらしい。
そんなもの売ってて平気なのか?
「なにか悩み事があればドットくんも試してみてくださいね!!!あっ、次の授業が始まっちゃう…!!」
バタバタと慌ただしく席へ戻るレモンちゃんを見守り微笑ましい気持ちになる。決して変態などでは無い。
吐き出したい気持ち…か。
吐き出す…身体から追い出す、つまり“捨てる”というとか。
捨てたい気持ち。そんなもの挙げろと言われても中々難しいだろう。が、俺には一つだけ、消し飛ばして灰にしたいほどの気持ちがある。
“好き”だ。
レモンちゃんは可愛くて好き。マッシュは良い奴だから好き。フィンにはいつも世話になってるから好き。姉ちゃんは俺の事を真剣に考えてくれるから好き。
これらの“好き”とはまた違う、なにか別の感情
普通“異性”に抱くはずの感情
昔は“異性”に抱いていた感情
それを俺は“同性”に抱いてしまった。
顔を見る度に胸が高鳴り、目線が合う度に頬が熱くなる。口に出した言葉に後悔し、翌日も変わらない態度に安堵する。酸味が強めな甘酸っぱい気持ち。
俺、あいつに“恋”しちゃったのか…
ふと横を見ると姿勢よく板書している空色のイケメンが視界に広がる。
よく見るとまつ毛もうっすらと水色なのか。丁寧に整えられた爪に対しゴツゴツと節榑だった指は俺に似てるかもな。
「…に…る… 」
「え?」
「何見てるんだ」
「っ、別に、」
やべぇ、見てるのバレちった。
焦るべきはずなのに脳は囁き声かっこよかったな…など呆けたことを考え始める。俺、だいぶ重症だな。
その後はあちらが注意深くこちらを睨んでくるようになったので授業に集中した。
「あー、今日のお茶会、俺パスで」
「え!?どうしたのドットくん?体調悪いの?」
「いや、終わってねぇ課題があってよぉ、」
「そう?珍しいね。じゃあ課題頑張って!」
ごめんよ。フィン。純粋なのか気遣いなのかは分からないがお前は本当いいやつだよ。ほんとに。
部屋に戻り早速杖を持つ。同室のあいつはお茶会をしているから一人だ。
呪文を唱え、レモン汁を少し舐める。酸味の中に広がる少しの甘みとダイレクトな苦味。ファーストキスはレモンの味、などと言われているがこんな味なら夢も何も無い。
「うっ…」
胸の辺りが気持ち悪い。どんどんとその気持ち悪さが上がってきて吐き気となる。目から生理的な涙が溢れ出ると共に口から固形物が吐き出された。噂によるとこれが赤か青の宝石のはずだ。
目を開き焦点を合わせると確かにそこに落ちていた。
“紫色”の宝石が。
「っ…え、紫…?」
赤か青じゃねぇのかよ…?
ポジティブな感情なら赤、ネガティブな感情なら青。でも、俺のは…?
「紫だな。」
「はっ…!?なんでっ、おまっ、」
後ろから見下ろしてくるのはお茶会に参加しているはずのランスで。
「レモンから聞いたぞ。こんなふざけた魔法もどきが流行っているらしいな。まさか、お前が試しているとは思わなかったが。」
しゃがんで目線を合わせてくる優しさに無性に腹が立つと同時にやっぱり好きだ。と感じてしまう。やはりこいつの言った通り、ふざけた魔法もどき なのだろう。
部屋を一通り片付けた後、対面で座らされて質疑応答が始まった。
「お前は、なんの思いを吐き出したんだ?」
おっと。早速本題か。まぁこいつらしいが。こちらとしては非常に困る。まさか本人を目の前にして「お前に対する恋愛感情を吐き出してました。」なんて言える訳ない。
「…質問を変えよう。何故紫色なんだ?」
「それは俺もわかんねぇ、」
赤か青かはっきりしない紫。濁りなど全くない綺麗な紫色だった。
「…まぁポジティブな感情とネガティブな感情と半々なんだろうな。」
赤と青が混ざった色だからな。
混ざった。ポジティブとネガティブが…?
嬉しいことと苦しいことがハイスピードで移り変わっていく。みたいな感じなのだろうか。
甘酸っぱい…のような。
「もう一度聞くぞ。お前はなんの思いを吐いたんだ?」
真っ直ぐな瞳。青色の瞳のほとんどを占めている俺の赤が混ざりあって紫のように見える。
「好きだぁ…」
間の抜けた声。好きな相手に告白したとは思えないような。
「やっとか、ドット。」
やっとか…?おう、やっとだよ。やっと伝え…伝え…?やっと…?
「はぁ!?お前っ!気付いてっっ!?」
「無自覚だったのか?行動に全部出てたぞ」
え?え?え?、出てた?マジで?
「っはぁ…もうさいあく…」
「なんで最悪なんだ?両思いが発覚したんだから最高だろ。」
「……え?ちょ、おま、いまなんて」
もしかして?両思いって言った?は?
「お前が好きだ。ドット。」
信じられないことを口にしたと思えば徐に立ち上がり先程吐いた紫色の宝石を手に取る。宝石を口元まで持っていき大きく口を開けガリッと音がする。
「やはりインチキ魔法だったな。ただの琥珀糖だ。」
「いや、琥珀糖にしたって俺が吐いたやつだぞ…?何食ってんだよ…」
普段潔癖気味のお前が…
「お前が吐いたやつだから食べたんだ。他のやつが吐いたやつは食べないし、普段から琥珀糖を食べる訳でもない。」
こいつ、アンナちゃん関連以外でも愛を向けた人に対して激重感情が出てくるのか…
その激重感情を俺に向けていることが信じられないが、嬉しくてたまらない。
そして両思いだとわかった今、それだけで幸せなはずなのに、欲がドロドロと零れてしまう。
「お前と、付き合いたい…で、す…」
「当たり前だろう。ただ、死んでも別れるなんて言うなよ。監禁するぞ。まぁ、離すつもりはないが。」
さらっと問題発言をされた気がするがまぁいい。
付き合えたのか。なんか、言葉に表せないくらい幸せだ。今宝石を吐いたら確実に真っ赤だろう。
「そういやなんで紫だったんだろうな、」
「知らん。インチキ魔法のことなんて。」
だよなぁ。ただの琥珀糖吐き出す魔法だもんな。
「どうしても気になるんなら、“俺とお前の色が混ざった”とでも考えておけ。」
俺とお前の色が混ざった。
ランスとドットの色が混ざった。
青と赤が混ざった。
よくそんな事スっと思いつくよな。しかも平気で口にするし。さすがイケメン様だな。まぁそんなとこに惚れたのが俺だけど。
紫色の宝石である「アメジスト」の宝石言葉の一つに「愛情」があります。
コメント
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ランドトだァァァ⤴︎ ⤴︎好きィ!ついつい夢中になって見てしまう!モカさんが書く小説は、中毒性があるぞ、まじで、好きすぎて何回も見てるもん!