テラーノベル
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中央へ提示されたのは、アイリス領周辺の緻密な地図、マレフィカ侯爵軍の進軍経路、兵糧や武器の供給記録。そして――カサンドラの私印が押された極秘命令書。
『ウィステリア伯爵軍のみでは、アイリス領を落としきれまい』
『マレフィカ侯爵軍を増援として向かわせよ』
第二王子派の中核となる前に、ベルシュタイン公爵家の戦力を削げ』
命令書が朗読されると、マレフィカ侯爵の目が鋭く細められた。
「偽物ですわ! 私印など、盗み出せば誰にでも使えます!」
「そうだね。だから、実際に領地で現状を見てきた人に話を聞こうか」
レオンの合図を受け、ジュール男爵が静かに前へ進み出た。
「私は貴族連合の代表として証言いたします。マレフィカ侯爵軍は、明確な統制のもとアイリス領へ侵攻いたしました。押収した兵站記録には、王妃派に属する複数の貴族家から兵糧が供給された証拠が残されております。……これでもなお、すべて偽物だとおっしゃるのですか?」
貴族たちの冷ややかな視線が、カサンドラへ集まる。 続いて、アレクが一歩前へ出た。大広間の空気が、目に見えて凍りつく。
「マレフィカ侯爵軍が使用した『禁忌刻印』の武器は、すべて押収済みだ」
布に包まれた黒い剣や槍が運び込まれる。厳重に封印されている今でさえ、禍々しい瘴気が滲んでいた。
「使用者の生命力を強制的に魔力へ変換する、王国法で固く禁じられた兵器だ。これを私軍に持たせ、領地へ送り込んだ責任は重い」
カサンドラは言い放つ。
「そのようなもの、わたくしは知りませんわ。軍を率いていたのは父です。マレフィカ侯爵にお尋ねになればよろしいでしょう!」
「……王妃殿下の命令書に従ったまでのこと」
カサンドラの実父であるマレフィカ侯爵が、ついに娘を突き放すように冷たく言い捨てた。
私一歩前へ出た。
「ウィステリア領によるアイリス領への侵攻は、ただの領主同士の争いではありません」
大広間にいるすべての者へ届くよう、澄んだ声を響かせる。
「私の領地では、多くの人々が不当に傷つきました。家を焼かれ、畑を荒らされ、大切な家族を守るために戦わざるを得なかった人々がいます。……そして今も、目を覚まさない私の大切な仲間がいます」
ぎゅっと、拳を握りしめる。毅然とカサンドラを見据えた。
「王国法では、評議会の承認なく王家が領地紛争へ一方的に軍事介入することを禁止しています。ましてや王妃が私印を使い、禁忌兵器を送り込むなど――これは紛争ではなく、王権を私物化した『不当な侵略行為』です」
静まり返る大広間。 カサンドラは、しばらく私を冷たく見つめていた。やがて――。
「……あっははは!」
甲高い高笑いが響く。
「仮にわたくしに罪があったとして……あなたが国王になれるわけではありませんのよ、レオン?」
カサンドラの視線が、嘲笑を込めてレオンへ向く。
「この国には、正統なる王太子がいる。ユリウスこそが、先王陛下の血を受け継ぐ次の国王となるんですもの!」
大広間が再び大きく揺れた。 カサンドラが失脚しても、息子のユリウスが即位すれば、王妃派の権力は保たれる。これこそが、彼女に残された最後の切り札。
レオンは、少しだけ目を伏せた。
「……そうだね」
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「だから――その話もしようか」
扉が、再び開く。 近衛騎士たちに引き立てられて現れたのは──
「ユリウス……!」
カサンドラが反射的に駆け寄ろうとするが、銀の枷の鎖が激しい音を立てて彼女を引き止めた。 王太子の装飾品も剣も奪われ、少年は恐怖に顔を蒼白にさせて震えている。
「……母上」
「大丈夫よ、ユリウス! あなたは正統なる王太子です。誰にも、あなたの地位を奪うことなどできません!」
レオンは大神官代行へ視線を送った。 神官たちが運び込んできたのは、金と白銀で作られた神聖な聖杯。
「こちらは、王都大神殿に保管されている血統鑑定の神具『聖血の杯』にございます」
大神官代行が、厳かに告げる。
「王家の血を受け継ぐ者の血に反応し、その真偽を示す神具。先代大神官は生前、ユリウス殿下の魔力量と聖具の反応に強い疑義を抱いておられました。正式な鑑定を求めようとした直後、先代は不自然な死を遂げ、記録も封じられたのです」
カサンドラの表情から、ついに一切の余裕が消え失せた。
「本日、神殿は先代の遺志を継ぎ、この疑惑を正式に告発いたします」
大神官代行は、青ざめるユリウスとカサンドラを冷ややかに見据えた。
「――ユリウス殿下が、本当に先王陛下の直系でいらっしゃるかどうかを」
#執着
ひより
76
鷹槻れん

53,685
#ギャップ
ひより
2,239
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
828
コメント
1件
わあ……第94話、一気に引き込まれました! カサンドラの“最後の切り札”が王太子の正統性だったのは確かに重い一手だけど、そこにレオンが「だからその話もしようか」と切り返すシーンがめちゃくちゃかっこよかったです。ユリウスが枷をはめられて現れた瞬間のカサンドラの狼狽、そして聖血の杯の登場――伏線がここで回収されるとは。息を呑む展開の連続で、次の話が待ち遠しいです!🌷