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ネシ@プロフ見てね
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ネシ@プロフ見てね
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あいちゃんへ。
今からちょうど一年前。
あなたは、どこか遠くへ行ってしまった。
私には、それが何を意味するのか、すぐには分からなかった。
私はそのとき、病院に入院していた。
白い壁、白い天井、消毒液の匂い。
毎日同じような時間にやってくる看護師さん。
窓の外を眺めながら、
「早く帰りたいな」
なんて、何度も思っていた。
けれど、まさか。
帰りたいと思っていた場所から、一番大切な人がいなくなっているなんて。
そんなこと、想像すらしていなかった。
【あいちゃん】
あなたは、いつも病院に来てくれていた。
学校が終わったあと。
少し疲れているはずなのに、
「今日も来たよ」
って、当たり前みたいに病室の扉を開けて。
私が寝ていれば、
「寝てる?」
なんて小さな声で笑って。
私が起きていれば、
「今日の授業ね、めっちゃつまんなかった」
なんて、どうでもいい話をして。
本当に、どうでもいい話ばっかりだった。
先生が変なことを言っていたとか。
給食のおかずが美味しかったとか。
誰々が宿題を忘れて怒られていたとか。
そんな話。
私はそれを聞くのが好きだった。
病院の中では、時間がゆっくりだった。
毎日同じ景色、同じ天井、同じ音。
だから、あいちゃんが来てくれる時間だけは、少しだけ世界が明るくなった気がした。
「今日も来てくれたんだ」
そう言うと、
「当たり前じゃん」
って。
あなたは笑っていた。
それが、当たり前だと思っていた。
明日も来る、明後日も来る。
退院したら、また学校で会える。
ずっと友達でいられる。
そう思っていた。
だから、その日。
あいちゃんが来なかったことを、私はそれほど気に留めなかった。
「……あれ?」
時計を見た。
いつもなら、とっくに来ている時間だった。
私は病室の扉を見た。
開かない。
廊下から聞こえてくる足音に、何度も顔を上げた。
けれど、あなたは来なかった。
「……忙しいのかな」
そう呟いた。
きっとそうだ。
今日は用事があるんだ。
明日は来てくれる。
そう思った。
でも、その日の夜。
お母さんの様子がおかしかった。
電話をしていた…小さな声で。
私には聞こえないようにしているみたいだった。
電話を切ったあとも、しばらく何も言わなかった。
「…? お母さん?」
「……なに?」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
笑った、けれど。
その笑顔が、いつものお母さんとは違っていた。
どこか無理をしているような。
何かを隠しているような。
私は首を傾げた。
「……あいちゃん、今日来なかったね」
その瞬間。
お母さんの顔が固まった。
ほんの一瞬だった。
でも、僅かな変化を私は見逃さなかった。
「……そうね」
「忙しかったのかな?」
「……うん」
「明日は来るかな」
「……どうかな」
その言葉が妙に引っかかった。
どうかな。
いつもなら、
「きっと来るよ」
って言うはずなのに。
その日は違った。
「おやすみ」
と言われても。
なかなか眠れなかった。
胸の奥が、ざわざわしていた。
何かがおかしい。
でも。
何がおかしいのかは、分からない。
その夜。
私は何度もスマホを見た。
あいちゃんから連絡が来ていないか。
メッセージがないか。
通知は来ない。
画面を閉じる。
また開く。
それを何度繰り返したか分からない。
「……あいちゃん」
小さく名前を呼んだ。
返事はない。
当たり前なのに。
寂しかった。
次の日。
お母さんが病室に来た。
手には、黒い服を持っていた。
私はそれを見て。
少しだけ眉をひそめた。
「……それ、なに?」
お母さんは答えなかった。
「お母さんの服?」
「……違う」
「じゃあ誰の?」
お母さんの手の中にある服は。
明らかに子供用だった。
私より少し小さいくらい。
黒い服。
きれいに畳まれている。
私はそれを見つめた。
嫌な感じがした。
胸の奥が、きゅっと締まった。
「……〇〇ちゃん」
お母さんが私の名前を呼んだ。
声が震えていた。
「これから、行くところがあるの」
「……うん?」
「一緒に来てくれる?」
「どこに?」
お母さんは答えなかった。
ただ。
私の手を握った。
その手が。
ひどく冷たかった。
「……どこなの?」
もう一度聞いた。
しばらくして。
お母さんが、ぽつりと言った。
「あいちゃんの……葬式よ」
時間が。
止まった。
何を言われたのか。
分からなかった。
「……え?」
聞き返した。
お母さんは何も言わなかった。
「……誰の?」
「……」
「今、なんて言ったの?」
「……あいちゃん」
その名前を聞いた瞬間。
頭の中が真っ白になった。
「……嘘」
最初に出てきた言葉は、それだった。
「嘘でしょ?」
お母さんは首を横に振った。
「……嫌」
「〇〇ちゃん……」
「嫌だ」
私は布団を握った。
「だって……昨日まで……」
言葉が続かない。
昨日まで。
昨日まで。
何を言おうとしていたのだろう。
あいちゃんは。
昨日まで生きていた。
昨日まで。
私の友達だった。
いつも病院に来て。
笑って。
くだらない話をして。
また明日ねって。
そう言っていた。
なのに。
「……なんで?」
声が震えた。
「なんで……?」
答えは返ってこなかった。
私は泣いた。
泣きながら、
「嘘だ」
と繰り返した。
「絶対嘘」
「……」
「だって、あいちゃん、今日も来るって……」
そんな約束。
あなたはしていなかった。
でも私は。
勝手にそう思っていた。
明日も会える。
明後日も会える。
来週も。
来月も。
ずっと。
ずっと一緒にいられる。
そんなふうに。
勝手に信じていた。
それが。
全部、突然なくなった。
葬式へ向かう車の中。
私はずっと窓の外を見ていた。
景色が流れていく。
いつもなら何とも思わない景色。
なのに。
今日は全部がぼやけていた。
涙のせいだった。
「……あいちゃん」
何度も名前を呼んだ。
誰も返事をしてくれない。
いつもなら、
「なに?」
って返してくれるのに。
今日は。
何度呼んでも。
返ってこなかった。
会場に着いた。
黒い服の人がたくさんいた。
見慣れた顔もあった。
同級生。
先生。
あいちゃんのお母さん。
みんな。
泣いていた。
私はその光景を見て。
ようやく。
本当にいなくなったんだ。
そう思った。
それでも。
信じたくなかった。
足が震えた。
お母さんに手を引かれて。
ゆっくり歩いた。
そして。
あなたのところへ行った。
そこに。
あいちゃんがいた。
静かに眠っていた。
綺麗な服を着て。
たくさんのお花に囲まれて。
いつもと同じ顔。
今にも、
「遅かったじゃん」
って笑いそうな顔。
だから。
私は笑いかけた。
「……あいちゃん」
返事はない。
「ねえ」
返事はない。
「起きてよ」
返事はない。
私はそっと頬に触れた。
冷たかった。
いつものあなたの頬じゃなかった。
「……冷たい」
その瞬間。
現実が一気に押し寄せてきた。
「嫌……」
涙が溢れた。
「嫌だよ……」
私は何度もあなたを呼んだ。
「ねえ、あいちゃん」
「起きてよ」
「私、来たよ」
「いつもみたいに……話そうよ」
返事はない。
「昨日、来なかったじゃん」
「だから……今日来てくれると思ってた」
自分でも。
何を言っているのか分からなかった。
「ねえ……」
涙で視界が滲む。
あなたの顔が見えなくなる。
「私……まだ……」
言葉が詰まった。
「ありがとうって……言ってない」
それが。
一番苦しかった。
私はあなたに。
ちゃんとありがとうと言ったことがあっただろうか。
病院に来てくれたこと。
私が寂しいときに話してくれたこと。
くだらないことで笑わせてくれたこと。
何度も。
何度も。
救ってもらったのに。
私は。
当たり前だと思っていた。
「また明日言えばいい」
そう思っていた。
その「また明日」が。
もう来ないなんて。
知らなかった。
お花の隙間に。
折り紙で作られた鶴があった。
綺麗に折られていた。
私はそれを見つめた。
「……鶴」
あいちゃん。
あなたが好きだったもの。
私はその鶴を見ながら。
どうしてこんなところにいるんだろう。
そう思った。
学校で。
病院で。
一緒に笑っていたはずなのに。
どうして。
今は。
こんなにも静かな場所にいるんだろう。
「……ねえ」
私はもう一度呼んだ。
「私のこと……忘れないでね」
言ってから。
馬鹿みたいだと思った。
忘れるのは。
私のほうなのに。
あなたは何も言わない。
だから私は。
一方的に話し続けた。
「私ね」
「退院したら、一緒に学校行きたかった」
「またくだらない話したかった」
「帰り道、一緒に歩きたかった」
「また病院にも来てほしかった」
「……わがままだよね」
涙が落ちる。
「ごめんね」
何に対して謝っているのかも。
分からなかった。
ただ。
謝りたかった。
もっと話せばよかった。
もっと大切にすればよかった。
もっと。
もっと。
もっと。
そんな後悔だけが。
頭の中を埋め尽くしていった。
葬式が始まった。
大人たちの声。
静かな音楽。
泣いている誰かの声。
私は何も聞こえなかった。
ただ。
あなたを見ていた。
もう一度。
もう一度だけ。
笑ってほしかった。
目を開けてほしかった。
「また明日ね」
そう言ってほしかった。
でも。
叶わなかった。
式が終わって。
人が少しずつ帰っていく。
私は最後までその場から動けなかった。
お母さんに、
「帰ろう」
と言われても。
首を横に振った。
「……もう少し」
もう少しだけ。
ここにいたかった。
だって。
ここを離れたら。
本当にあなたがいなくなる気がしたから。
帰り道。
私はずっと黙っていた。
家に帰ってからも。
何もしたくなかった。
ベッドに横になって。
天井を見つめた。
スマホを手に取る。
あいちゃんとのメッセージを開く。
最後の会話。
たった数行。
「また明日ね」
そんな言葉。
どこにでもある。
普通の言葉。
なのに。
今は。
世界で一番重たい言葉だった。
「……明日なんて、来なかったじゃん」
画面に向かって呟いた。
当然。
返事はない。
私はスマホを胸に抱えた。
「……会いたい」
声が震えた。
「会いたいよ……あいちゃん」
涙が枕を濡らした。
その日から。
私の中で。
時間の流れ方が変わった。
一日。
一週間。
一ヶ月。
三ヶ月。
半年。
時間だけは。
私を置いていかずに進んでいった。
でも。
私の中のあの日は。
ずっと止まったままだった。
あなたがいなくなった日。
私は初めて。
「当たり前」が。
当たり前じゃないことを知った。
朝起きられること。
学校へ行けること。
友達と話せること。
くだらないことで笑えること。
明日が来ること。
全部。
奇跡みたいなものだった。
それを。
あなたがいなくなってから知った。
何度も。
あなたに手紙を書いた。
一枚。
二枚。
三枚。
でも。
どれも最後まで書けなかった。
「元気?」
なんて書いて。
違う。
元気なわけない。
「会いたい」
そう書いて。
また消す。
会えるわけない。
だから。
最後まで。
何を書けばいいのか分からなかった。
そして。
一年が経った。
今日。
私は。
あの日と同じ日を迎えた。
窓を開ける。
冷たい風が入ってくる。
空は。
あの日よりずっと明るかった。
私は机に座る。
目の前には。
一枚の便箋。
そして。
ペン。
私はゆっくり。
最初の言葉を書いた。
「あいちゃんへ」
一年経って。
ようやく。
私はあなたに伝えたい言葉を見つけた。
あの日。
言えなかった言葉。
ずっと胸の中に残っていた言葉。
私は。
ペンを握り直した。
そして。
続きを書き始めた。
あなたがいなくなって。
今日で一年。
私は。
まだあなたを忘れていない。
忘れられない。
でも。
もう。
泣くだけの私ではいたくない。
だから。
この一年間で。
私が見つけたものを。
全部。
あなたに伝えようと思う。
たった一つの。
大切な言葉を。
今度こそ。
ちゃんと。
あなたへ。
届けるために。
あいちゃんへ。
あなたがいなくなって。
今日で、一年が経ちました。
一年前の今日。
私は病院にいた。
あなたがいつも来てくれていた、あの病院。
あなたが来なかった、あの日。
私は、あなたがただ忙しいだけだと思っていた。
明日になれば来る。
明後日になれば、また来る。
そう信じていた。
なのに。
次の日。
お母さんが持っていた黒い服を見て。
私は初めて知った。
あなたが、もう二度と私のところへ来ないことを。
あの日から。
私は何度も考えた。
どうして。
どうして何も言ってくれなかったんだろう。
どうして。
最後に会ったとき。
「また明日」
なんて言ったんだろう。
どうして。
私は何も気づけなかったんだろう。
ずっと。
ずっと。
考えていた。
あなたがいなくなってから。
私は何度も後悔した。
もっと話せばよかった。
もっと一緒にいればよかった。
もっと。
あなたの話を聞けばよかった。
もっと。
「ありがとう」って言えばよかった。
でも。
何度考えても。
過ぎてしまった時間は戻らなかった。
あなたがいない病院は。
とても静かだった。
あなたが座っていた椅子。
あなたがいつも持ってきてくれた小さなお菓子。
一緒に見た窓の外。
何も変わっていないのに。
そこだけ。
世界から色が抜け落ちたみたいだった。
私は。
あなたが座っていた椅子を見るたびに。
「今日も来るかな」
なんて。
馬鹿みたいに思った。
もちろん。
来なかった。
扉が開いて。
看護師さんが入ってきても。
お母さんが入ってきても。
あなたじゃない。
分かっている。
分かっているのに。
期待してしまう。
「……あいちゃんじゃないんだ」
そう呟くたび。
胸が痛かった。
退院してからも。
あなたのことを思い出した。
学校へ行けば。
あなたの席を見てしまう。
廊下を歩けば。
あなたが友達と話していた場所を見てしまう。
帰り道を歩けば。
一緒に歩いた道を思い出す。
何も変わっていない。
学校は普通に続いていた。
授業もある。
テストもある。
宿題もある。
友達も笑っている。
先生もいつも通り。
世界は。
あなたがいなくなったことなんて。
知らないみたいに進んでいく。
それが。
私は少し嫌だった。
どうして。
こんなに悲しいのに。
どうして。
朝は来るんだろう。
どうして。
みんな笑えるんだろう。
どうして。
私だけが。
あの日に取り残されているんだろう。
そんなことを。
何度も思った。
でも。
一年経った今なら。
少しだけ分かる。
世界が進むことは。
あなたを忘れることじゃない。
笑うことは。
あなたを裏切ることじゃない。
楽しいと思うことも。
幸せになることも。
あなたを置いていくことじゃない。
それに気づくまで。
私は。
ずいぶん時間がかかった。
最初は。
笑うことすら怖かった。
友達と話していて。
楽しくなって。
思わず笑ってしまったあと。
「あ……」
って思った。
私。
笑っちゃった。
あいちゃんがいないのに。
笑っちゃった。
そんな自分が嫌だった。
でも。
ある日。
ふと思った。
もし。
あいちゃんがここにいたら。
きっと。
「なんでそんな顔してるの?」
って言うんじゃないかって。
そして。
「笑えばいいじゃん」
って。
いつものように言うんじゃないかって。
そう考えたら。
少しだけ。
泣きながら笑えた。
あなたは。
私に何度も笑顔をくれた。
病院に来て。
くだらない話をして。
私が落ち込んでいたら。
変な話をして。
私を笑わせた。
私は。
それを全部。
覚えている。
だから。
あなたがいなくなってからも。
あなたがくれたものは。
私の中に残っている。
笑った記憶。
話した記憶。
一緒に帰った記憶。
喧嘩した記憶。
仲直りした記憶。
どうでもいいことで盛り上がった記憶。
全部。
全部。
私の中に残っている。
だから。
あなたは。
完全にいなくなったわけじゃない。
そう思えるようになった。
もちろん。
今でも寂しい。
今日だって。
何度も泣いた。
一年経ったからって。
悲しくなくなるわけじゃない。
時間が経てば。
全部忘れられるわけでもない。
むしろ。
時間が経ったからこそ。
気づいたこともある。
あの日。
私はあなたの死を受け入れられなかった。
今だって。
完全に理解できているわけじゃない。
どうして何も言ってくれなかったの。
どうして私には。
何も教えてくれなかったの。
どうして。
一人で抱えてしまったの。
今でも。
そう思う。
悲しい。
悔しい。
寂しい。
たくさん。
たくさん。
言いたいことがある。
「どうして」
って。
何度も問いかけた。
でも。
答えは返ってこない。
だから。
私はもう。
答えを無理に探すのをやめた。
あなたが抱えていたものを。
私は全部知ることはできない。
あなたがどんな気持ちだったのか。
全部理解することもできない。
それを。
分かったふりはしたくない。
ただ。
一つだけ。
私は確かに知っている。
あなたが。
私にとって。
大切な人だったこと。
それだけは。
誰にも否定できない。
だから。
私はあなたの死を。
なかったことにはしない。
悲しかったことも。
寂しかったことも。
悔しかったことも。
全部。
私の中に残しておく。
そして。
それと同じくらい。
あなたと過ごした時間も。
大切にしていく。
あなたのことを。
「いなかったこと」にしたくないから。
あなたは。
私の親友だった。
今でも。
そう思ってる。
一年経って。
私の生活は変わった。
学校へ行って。
勉強して。
友達と話して。
笑って。
泣いて。
たまには怒って。
また笑って。
そんな毎日を過ごしている。
あなたがいない毎日。
でも。
あなたがくれたものがある毎日。
あの日。
あなたが病院へ来てくれたこと。
何度も。
何度も。
会いに来てくれたこと。
私の話を聞いてくれたこと。
私が寂しくならないように。
そばにいてくれたこと。
全部。
忘れない。
だから。
今。
この手紙を書いている。
一年越しの手紙。
届くかどうかなんて。
分からない。
もしかしたら。
届かないかもしれない。
それでも。
書きたい。
言いたい。
あの日。
言えなかったから。
今度こそ。
ちゃんと。
伝えたい。
私は便箋を見つめた。
最初に書いた。
「あいちゃんへ」
という文字。
その下には。
一年分の気持ちが。
たくさん並んでいる。
途中。
涙で文字が滲んでいた。
何度も。
書く手が止まった。
何度も。
消そうと思った。
でも。
最後まで書いた。
そして。
最後の一行。
そこだけは。
なかなか書けなかった。
ペンを持ったまま。
私は窓の外を見る。
空が綺麗だった。
一年前と。
同じ空なのかもしれない。
でも。
私には。
少し違って見えた。
「……あいちゃん」
私は小さく呟いた。
「いる?」
もちろん。
返事はない。
それでも。
私は話しかけた。
「ねえ」
「私ね」
「この一年間、ずっと考えてた」
「あなたに何を伝えたかったのかなって」
「何を言えばいいのかなって」
「いっぱいあるんだよ」
「言いたいこと」
「もっと話したかったとか」
「もっと会いたかったとか」
「どうして何も言ってくれなかったの、とか」
「寂しかった、とか」
「悲しかった、とか」
「悔しかった、とか」
私は一度。
言葉を止めた。
「……でもね」
涙が。
頬を伝った。
「最後に言いたいのは」
一番。
簡単な言葉だった。
一番。
伝えたかった言葉。
一番。
言うのが遅くなってしまった言葉。
私は便箋にペンを置いた。
ゆっくり。
一文字ずつ。
書いた。
『ありがとう』
その二文字を書いた瞬間。
涙が止まらなくなった。
「……ありがとう」
声に出してみる。
「病院に来てくれて」
「一緒に笑ってくれて」
「一緒に泣いてくれて」
「私の親友でいてくれて」
「……ありがとう」
何度も。
何度も。
言った。
「私ね」
「あなたのこと」
「絶対忘れないよ」
「でも」
「ずっと悲しんでるわけじゃないからね」
「ちゃんと笑うから」
「ちゃんと生きるから」
その言葉を口にしたとき。
胸の奥が。
少しだけ温かくなった。
あなたがいなくなったことは。
変わらない。
戻ってくることもない。
でも。
私はこれからも。
あなたとの思い出を持って歩いていく。
あなたがくれた笑顔を。
私も誰かに渡していく。
あなたが私にくれた優しさを。
私も誰かに返していく。
そうしたら。
あなたがこの世界に残してくれたものは。
きっと。
消えない。
私は。
そう信じたい。
便箋を折る。
封筒に入れる。
でも。
宛先は書かなかった。
書けなかった。
必要ないと思った。
だって。
この手紙は。
郵便屋さんに届けてもらうためのものじゃない。
空に届けるためのものでもない。
私自身が。
あなたに伝えたかった言葉を。
ちゃんと形にするためのものだから。
私は手紙を胸に抱いた。
「……あいちゃん」
「一年経ったよ」
「私、少しだけ強くなったよ」
「まだ泣くけど」
「まだ会いたいって思うけど」
「それでも」
「ちゃんと前を向けるようになった」
窓の外を見た。
風が吹いた。
カーテンが揺れた。
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
あの日のあなたの声が聞こえたような気がした。
――またね。
私は。
思わず笑った。
「……うん」
涙を拭う。
「またね」
本当なら。
「また明日」
と言いたかった。
でも。
私はもう。
その言葉を怖がらない。
明日が来ることを。
怖がらない。
あなたがいなくなった明日も。
その次の日も。
私は生きていく。
あなたと一緒に過ごした日々を。
抱きしめながら。
私は。
これからも歩いていく。
そして。
いつか。
私があなたのことを思い出して。
泣くんじゃなくて。
笑える日が来たら。
そのときは。
きっと。
こう言うんだと思う。
「楽しかったね」
って。
「ありがとう」
って。
そして。
今まで言えなかった分まで。
何度でも。
何度でも。
伝える。
あなたが私の人生にいてくれたこと。
あなたと友達になれたこと。
一緒に笑えたこと。
一緒に過ごせたこと。
全部。
全部。
宝物だった。
だから。
あいちゃん。
私は。
あなたの死を否定しない。
あなたが抱えていたものを。
分かったふりもしない。
ただ。
あなたが私の大切な親友だったことだけは。
これからも。
絶対に変わらない。
一年経っても。
十年経っても。
きっと。
ずっと。
あなたのことを思い出す。
あなたがいなくなった日を。
忘れることはない。
でも。
その日だけを覚えているんじゃない。
あなたと笑った日も。
あなたと話した日も。
あなたが病院に来てくれた日も。
全部。
全部。
覚えている。
だから。
さよならは言わない。
だって。
さよならを言ったら。
本当に全部終わってしまいそうだから。
私は。
最後に一つだけ。
あなたへ。
伝える。
一年分の涙と。
一年分の思い出と。
一年分のありがとうを。
全部。
全部。
詰め込んで。
小さく。
でも。
ちゃんと届くように。
笑って。
泣きながら。
あなたの名前を呼ぶ。
「……あいちゃん」
そして。
最後の言葉を。
口にした。
「いつもありがとっ……」
その瞬間。
窓から入ってきた風が。
机の上の手紙を。
ほんの少しだけ揺らした。
私は。
その手紙を抱きしめる。
まるで。
あなたを抱きしめるみたいに。
そして。
空を見上げた。
今日も。
空は青かった。
あの日と同じように。
どこまでも。
どこまでも。
青かった。
泣いちゃう私へ。
これからも強く生きていこうね
コメント
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