テラーノベル
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医務室の会議スペースは、いつもより静かだった。
ロボロは、ベッドではなく椅子に座っている。
向かいには――エーミール、トントン、しんぺい神。
誰も、急かさない。
誰も、資料を広げない。
先に口を開いたのは、エーミールだった。
「今日は、
あなた自身に関わることを、すべて共有します」
“説明”ではない。
“報告”でもない。
「聞くかどうかは、あなたが決めてください」
ロボロは、少し考えてから頷いた。
「……もう、気づいています」
自分の体が、普通ではないこと。
管理される前提で動いていること。
「だから、聞きます」
エーミールは、静かに息を整える。
「では、私たちが把握している事実から」
視線が、トントンに移る。
「結論から言う」
トントンは、淡々と話す。
「君の体は、自然な成長や進化の結果ではない」
ロボロの肩が、わずかに強張る。
「複数の臓器・神経系・内分泌系に
人為的な再設計の痕跡がある」
否定の余地がない口調。
「特に――」
言葉を選ぶように、少し間を置く。
「本来、存在しないはずの
“保持・変化・排出”を前提とした機能が組み込まれている」
ロボロは、ゆっくり理解した。
――“器”として。
「……男でも」
声が、少しだけ震える。
「……妊娠、する体ですか」
しんぺい神が、すぐに言葉を重ねる。
「“妊娠”という言葉が、
一番近いが、完全には一致しない」
医師として、慎重に。
「人としての尊厳を削る目的ではなく、
実験結果として成立させるための機能だ」
それが、どれほど残酷か。
だからこそ、言葉を選ぶ。
「君の体は、
“生むため”ではなく
“成立するかどうかを見るため”に作られている」
ロボロは、目を閉じた。
研究所で、
「起きるから記録しろ」と言われた意味が、
今、繋がった。
「重要なことがある」
エーミールが、はっきり言う。
「ここでは、
それを行わせない」
ロボロは、顔を上げた。
「wrwrd国は、
研究の続きを目的に、あなたを保護していない」
視線を逸らさず、続ける。
「あなたは、
兵器でも、実験体でもない」
「……でも」
ロボロは、問いかける。
「この体は、
勝手に反応します」
吐いたこと。
勝手に整う数値。
「止められません」
トントンが答える。
「完全には、止められない」
正直に。
「だが、管理と抑制はできる」
しんぺい神が補足する。
「医療として、
“起きないようにする”方向で介入する」
それは、
研究のためではない。
「君が、
望まないことを起こさないためだ」
ロボロの胸が、静かに軋む。
初めてだ。
“起こさない”前提で話されたのは。
「最後に」
エーミールは、言った。
「選択肢を、提示します」
一つずつ。
「ここに留まり、
医療管理下で生活する」
「情報部や参謀部で、
本人の意思のもと仕事を続ける」
「あるいは、
回復後に、この国を離れる」
ロボロは、驚いて目を見開く。
「……出ても、いいんですか」
「ええ」
即答だった。
「あなたは、
所有物ではありません」
その言葉で、
ロボロの中の何かが、崩れた。
研究所では、
選択肢は一つだった。
従うか、壊れるか。
だが、ここでは。
「……少し」
ロボロは、深く息を吸う。
「……考える時間を、ください」
「もちろんです」
エーミールは、穏やかに頷く。
「答えは、急ぎません」
会議が終わり、
皆が席を立つ。
最後に、トントンが振り返った。
「一つだけ」
「君は、
異常な数値を持っている」
だが。
「それをどう扱うかは、
君と、この国次第だ」
扉が閉まる。
ロボロは、一人になった。
重い。
だが、不思議と――潰れない。
すべてを知っても、
まだ、ここに居ていいと思えた。
それが、
この国の“異常さ”だった。
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