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「……あのね、小田ちゃん」
「普通でしょ? 付き合ってるんだし。もうすぐ結婚するんだし」
言い辛そうに口を開いた美紗を遮る。
美紗が困惑気味に黒目を揺らしながら俺を見上げた。
「……どういうこと?」
小田さんの視線は俺ではなく美紗に向いていて、明らかに美紗に問いかけていた。
「……それは…」
「昼休み、終わりだよ。美紗も小田さんもデスクに戻らなきゃ」
それでも美紗の話を切断し、代わりに小田さんに答えながら美紗の背中をそっと押して、「俺に任せて。しっかり盾の役割を果たさせて頂きます。だから心配しないで」と耳打ちをすると、「後でメールするから見て」と美紗が俺のスーツの裾をツンツンと引っ張った。
美紗に頷くと、美紗が小田さんに何か言われない様に、美紗のデスク経由で自分の席に戻った。
俺がピッタリ美紗に貼り付いていたせいで何も聞くことの出来なかった小田さんは、不審と言うよりは不快の眼差しを美紗に向け、何か納得のいっていない様な表情をしながら自分の席に着いた。
俺の席は美紗と小田さんの席からは離れているが、2人の様子は見える位置にある。
誤解を解くなら、戦略会議が始まる前。会議に入ってしまえば、2人の動きが分からない。
どう説明すれば波風が立ち辛いだろうと、頭の中で話す段取りを考えていると、パソコン画面に新着メールの知らせが表示された。
差出人は美紗。
マウスを動かしメールを開くと、【私たちのことを説明するのに私の過去を話す必要があるなら、私はもう隠しておこうとは思っていないから別にいいよ。でも、勇太くんの家族が絡む問題だし、何も悪いことをしていない勇太くんが偏見を持たれる可能性がある。勇太くんが嫌な思いをするのは嫌だ。勇太くんは、みんなにどう話そうと思っているの?】と書かれていた。
【俺、偏見持たれたくないなんて言ったことあった? 俺、美紗が変な嘘を吐いて俺を守ろうとしてくれたの、正直嫌だったんだ。自分が白い目を向けられることより何倍も嫌だっだ。だから俺は平気。美紗が平気なら、俺は平気。だから正直に話す。もう嘘は懲り懲り】
美紗に返信文を打ち、送信すると、
【勇太くんに任せる。勇太くんに従う。自分で掻き回しておいて人任せにしてごめんね。だけど、勇太くんの思うところを私がニュアンスを間違えて伝えたくない。甘えさせてください】
美紗からすぐに返信が来た。
チラっと美紗の方を見ると、美紗も俺を見ていて、俺に伺いを立てるかの様に首を傾げた。そんな美紗に、
【だから頼ってって。盾になるって言ったじゃん】
メールを返すと、短い文章の返事がきた。
【私は勇太くんが大好きです】
パソコンの文字を見た瞬間、本当に『きゅん』という音がしたんじゃないか? と思うくらいに胸がきゅんきゅんした。
これは永久保存。と自分のスマホに転送し、保護。
また美紗の方に目をやると、赤面した美紗が照れを誤魔化そうと猛烈にキーボードを打っていた。
照れを隠すどころか、悪目立ちしてしまっている美紗に、
【そんなに照れるならさっきのメール打たなきゃ良かったのに。でも、すっごく嬉しかった。そんな美紗もどんな美紗も大好き】
怪しい動きを指摘しつつ、『大好き』を言い返してまた美紗を見ると、美紗は更に顔を赤くしながら両手で自分の顔を仰いでいた。
可愛いなと思った。こんなに可愛い人が自分のお嫁さんになってくれるのだから、絶対に守り通そうと思った。
決意を固め、自分も仕事に取り組もうと稟議書の見直しをしていると、
「これ、どういうこと?」
隣のデスクの岡本が俺の椅子の肘置きを掴み、自分の席に引きずり込んだ。
岡本に見せられたパソコン画面には、差出人が小田さんのメールが開かれていた。
件名のないメール。本文には【佐藤さんと美紗、結婚するって】と書かれていた。
「結婚、しないんだろ? 木原さん、新しい彼氏に振られたからって調子良く戻って来たとか? お前、あんな酷い裏切られ方をしたのに、木原さんを受け入れたわけじゃないよな?」
『違います』と言う答えしか受け付けていないだろう質問の仕方をする岡本。
『違う』ことには間違いないが、俺の『違う』は岡本が期待している『違う』とは違う。
そもそも全部が違う。
「するよ、結婚。当然だろ。美紗の彼氏は俺なんだから」
「は?」
俺の返答に苛立つ岡本。
パソコン画面の右下のデジタル時計を確認すると、戦略会議の10分前。喫煙ルームを横目で見ると、誰もいない。
「岡本、場所変えよう。5分だけ話せる?」
「いいよ。行こうぜ」
俺の誘いに乗る岡本。さっきの俺の返事に対して言いたいことがあるのだろう。
岡本と一緒に喫煙ルームへ。
2人共煙草を吸わない為、そんな俺らが喫煙ルームにいることを周りに怪しまれない様に、窓の外から中を確認出来ない高さまでしゃがみ込み、田舎のヤンキーの様な佇まいで話すことに。
「手短に話すと、結論として結婚はする。絶対にする。美紗が浮気したって話、美紗が言いふらした嘘だから」
「何それ。何の為にだよ」
短すぎて不可解な俺の発言は、岡本を納得させられるわけもなく、疑問しか生まなかった。
「美紗、中学の時に酷い苛めに遭ってたんだよ。本当に耳を疑う程の壮絶な内容の苛めだった。結婚の挨拶をしに俺の実家に行った時、美紗を苛めていた人間が俺の妹だったことが分かってさ。美紗、妹を見た途端に顔色悪くして、呼吸困難になるほどの過呼吸になってた。で、『結婚出来ない。ごめんなさい』って。美紗、『自分から婚約破棄を申し出たから、責任は全部負う』って悪者を買って出て、あんな嘘を吐いたんだ。美紗の嘘、すぐに辞めさせようと思ったけど、美紗に『過去に苛めを受けていたことは誰にも言わないで欲しい。自分にもプライドがある』って言われて出来なかった。本当は美紗、自分のプライドより俺の体裁を守りたかっただけなんだよ。俺が周りから『苛めを行う人間の兄』という目で見られないように。実を言うと、さっきのさっきまでそんな状態だった。だけど、美紗が考え直してくれてさ。多分、美紗にとって全部を納得した結婚ではないと思うんだ。それでも美紗は俺を選んでくれたから、俺も美紗の為に動く。俺、美紗がでっち上げた嘘、全部消すから」
詳しく補足をすると、
「……佐藤が前に言ってた『美紗は何も悪くない』って、そういうことだったんだ。……木原さんに悪いことをしちゃったな。結構キツく当たったもんな、俺」
岡本が「何だよ、それ。まじかー」と言いながら頭を垂れ、項垂れた。が、ムクっと顔を上げる岡本。
「だとしても、木原さんの嘘はやっぱエグイわ」
「え?」
「佐藤は木原さんとのゴタゴタで周りの様子に気付かなかったかもしれないけどさ、みんな見事に木原さんの嘘に騙されて、『小田さん、頑張って今度こそ佐藤と付き合え‼』っていう応援ムードになってたんだよ。俺も本人に『攻めろ‼ 押せ押せ‼』的なこと言っちゃたしさ。木原さんが吐いた嘘をそのまま訂正してみんなに話すのは、ちょっと小田さんが可哀想。部署のみんなだって、どうしていいか分かんないだろ。小田さんに何て声掛けて、どう接しろって言うんだよ。その真実は小田さんを傷つけるよ。小田さんがあまりにも不憫」
岡本が難しい顔をしながら俺を見た。
岡本の話に、俺の顔も険しくなる。
自分のことで精いっぱいで、周辺がそんな動きをしているなんて微塵も気付かなかった。
真実は小田さんを傷つける。どうすれば美紗の嘘は覆るのだろう。
「……」
人差指で眉間を擦りながら悩んでいると、
「佐藤、会議の時間だぞ。取り敢えず、小田さんには俺から本当のことを話しておく。今の話を木原さんの味方である佐藤から伝えられるのは、相当辛いし残酷だと思う。自分の好きな人が、騙された自分ではなく、騙した側を擁護するって、ショック大きいよ。絶対。だって小田さん、佐藤のことが凄く好きだったからさ。佐藤の結婚が決まって、小田さんがどんな思いで諦めたと思う? そんな想いをもう1度掘り起こしておいて『嘘でした』はないよ。木原さんの嘘はだめだよ。佐藤を守りたくて吐いた嘘だからって、他の誰かを傷付けていいはずがないよ。みんなにどう話すかは佐藤が考えろよ。話し方を間違えると大変なことになる。みんなに『木原さんの嘘に踊らされてた』って捉えられ兼ねないから」
岡本が先に立ち上がり『行くぞ』と俺の頭をポンポンと撫でた。
「ありがとな、岡本。小田さんのこと、頼むわ。俺、ちょっと考えるわ。どうにかするから」
遅れて自分も立ち上がり、2人で喫煙ルームを出た。
コメント
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第18話、読み終えたよ〜〜!!😭💕 美紗ちゃんの過去のいじめの話が明らかになって、勇太くんが全部知った上で「盾になる」って決意するのが…泣ける…尊すぎる…!! 「私は勇太くんが大好きです」のメール、永久保存案件すぎるでしょ!!照れてキーボード打ちまくる美紗ちゃんも可愛すぎて悶絶したわ😇💕 岡本くんの「真実は小田さんを傷つける」って指摘もリアルで、どうなるんだろう…続きが気になりすぎる!!応援してるよ中めさん🌸✨