テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
アイビルが初めて遅刻してきてから数日が経った。その間もアイビルは度々遅刻して学校に来ていた。
さすがに転校早々からこれだけ遅刻が激しいと成績的にももちろん、単純に体調面が心配になる鳥愛(とあ)。
その日も遅刻して来たアイビルに対し、職員室で
「アイビルくん、今日の放課後ちょっと時間ある?」
と言ってみた。
「あ、はい」
「じゃあ授業終わったらちょっと時間ちょうだいね」
「わかりました」
アイビルが職員室を出ていく。
「呼び出しですか?」
天美(あみ)が後ろから鳥愛に言う。
「まー、呼び出しって形になるのかな?」
「最近遅刻多いですもんね」
「そうなのよ」
「お説教?」
「いや。単純に大丈夫かなって。うちって他校と違って、学校を盛り上げる理由とかだったら
欠席しても遅刻しても大目に見られるじゃん?だからそこはカバーできるかもだけど、体調面とかかな」
「あぁ〜」
「体調面で遅刻が続いてるんだったら私がカバーしても、後々響いてくるから」
「ですねぇ〜。担任持ったことないからわからんけど」
という職員室の一方、教室へ行ったアイビル。
「おぉ〜!遅刻大魔神!おはよー!」
葉道(はど)がアイビルを見つけて手を挙げる。
「おはよー。遅刻大魔神でーす」
アイビルも手を挙げる。
「おはよー。アイビルくん意外と不良だったん?」
万尋(まひろ)が冗談半分で言う。
「おはよ。不良じゃないよ」
笑いながら返す。
「遠空田(とおくだ)さんおはよ」
内気な虹言にはアイビルから挨拶をすることが通例となっている。
「あ、アイビルくんおはよ」
「アイビルおはよ」
「士おはよ」
「遅刻したのに本日も変わらずイケメンですなぁ〜」
「お。そお?羽飛過(うひか)さんも可愛いよ?」
「いやん!」
「お世辞お世辞。おはよ、アイビル」
「お世辞じゃないよ。おはよ、蘭」
仲良いメンバーに挨拶をして席に座る。
「マジでどしたん?最近めっちゃ遅刻してるけど」
一番遅刻しそうな葉道が、さすがに遅刻しすぎているアイビルを少しだけ心配になったのか聞く。
「あ、まあ。うん。今は言えないけど、ちょっと裏でやっててね?」
「お?なんだなんだ?悪いことかぁ〜?」
「いや。まあ、遅刻してまでやることか?って感じだけど
文化祭とか盛り上がるー…んじゃないかな?って思うことかな?
特に葉道、蘭、羽飛過さんは盛り上がるんじゃないかな?」
名前が出てバッっと振り返る円(まどか)。
「なになに?」
「オレらが喜ぶことだって」
蘭が伝える。
「なんだろうな」
葉道が腕を組む。
「うちらが喜ぶっていったら音楽関係しかなくね?」
円が言う。
「たしかに。当たり?」
葉道が興味津々で聞く。円も興味津々の視線を送る。
蘭もクールぶっているが内心はめちゃくちゃ興味津々である。
「さあ?どうかな?」
イタズラっぽい笑顔をするアイビル。
「おいぃ〜。イケメンだからって許されると思うなよ?」
「そうだそうだー!」
葉道と円が抗議する。そんなこんなで午後の授業が始まる。
ちゃんと朝起きて遅刻せずに来た葉道や円だが午後イチの授業は大概眠気に負けている。
蘭も万尋も虹言(にこ)も眠くはあるもののしっかり授業を聞いている。
アイビルもちゃんと授業を聞いていたものの、他のこと
そして放課後鳥愛(とあ)に呼び出されて何の話をされるのか、少しドキドキもしつつ不安でもあった。
午後の授業がすべて終わり、鳥愛が教室に入ってきて帰りのホームルームが始まった。
「ということで、本日も皆さんが無事1日を終われてよかったです。
あ、でもまだ部活とかがある人もいますし、帰った後遊びに行くにも自由ですが
くれぐれも怪我をしないように。他人様に迷惑をかけないようにお願いします」
「「はぁ〜い!」」
小学校低学年のような返事をする葉道と円。それにクスクス笑うクラス。
「はい。では終わります」
学級委員が掛け声をかけて
「起りーつ」
みんなが立ち上がり
「礼」
「ありがとうございましたー」
「さよーならー」
各々が帰りの挨拶を担任の鳥愛に投げかけて帰りのホームルームが終わった。
「しゃー!練習じゃい!」
「お。そっか。今日はバンドの練習日か」
「そよー。アイビルも参加する?」
冗談を言う葉道。
「今日はちょっと。先生から呼び出されてて」
「お?お説教?鳥愛ちゃーん!」
葉道が鳥愛を自分の席から呼ぶ。
「奥樽家(オタルゲ)先生ね。なに?」
「アイビルのことお説教すんの?」
「お説教はしないーけど。あと「すんの?」じゃなくて」
「「するんですか?」」
「ね?」
「わかってるならそう言いなさい」
「はーい」
「じゃ、アイビルくん。職員室来てね」
と告げて教室を出る鳥愛。
「じゃ、オレらも行くか」
と蘭がスクールバッグを持つ。
「んだな。じゃーなーアイビルー士ー。また明日ぁ〜」
葉道もスクールバッグを持って歌うように言いながら教室の出入り口へ向かう。
「うん。また明日ね、葉道」
「おう。またな」
と士も返す。
「じゃ、また明日。アイビル、士」
「うん。蘭もまた明日」
「うん。また明日」
「アイビルきゅ〜ん!また明日ねぇ〜!」
「羽飛過さんもまた明日ね」
円は万尋と虹言にも「また明日ねぇ〜」と言って3人で話しながら教室を出て行った。
「じゃ、士。また明日ね」
アイビルもスクールバッグを持って席を立つ。
「ん。説教頑張れよ」
「ま、頑張るってのもあれだけど。ありがと」
「おう。また明日」
「うん。また明日ね」
机の間を歩いていく。
「アイビルくん、またね」
万尋が席で手を挙げ、軽く振る。
「うん。雨上風(はれかぜ)さん、また明日」
「アイビルくん、また明日」
「遠空田さん、また明日ね」
虹言が席で背の高いアイビルを見上げる。
「うん。アイビルくんまた明日」
と笑顔で軽く手を振る虹言。とアイビルは仲良いメンバーに挨拶してから教室を出た。
「さて〜。空き教室…どこがいいかなぁ〜」
と自分のデスクで呟く鳥愛。
「あぁ。お説教か」
天美がイスを回転させ、鳥愛のほうを向く。天美の声に反応して、鳥愛もイスを回転させ、天美のほうを向く。
「お説教じゃないって言ったでしょ」
「方針変えたかもしれないじゃないですかー」
「変えてません。…ま、直前で変更するかもしれんけど」
「クラス受け持つと大変ですねぇ〜。私は当分いいかなぁ〜」
「家庭科教師なんだから少しはクラス受け持って貢献してくれ。なんなら変わって」
「やだー」
なんて話していると
「失礼しまーす」
とアイビルが職員室に顔を覗かせる。
「あ、来た来た」
鳥愛が立ち上がり職員室を出る。
「じゃ、行こっか」
「はい」
鳥愛の後ろをついて歩くアイビル。
「ここ空いてる。さ、入って」
「はい」
空き教室で机の向きを変えて
給食を食べるときのような、三者面談のときのような、机を突き合わせる形にして座る2人。
「さてさて」
両手を机の上に置く鳥愛。
「時間取ってくれてありがとうね」
「いえいえ」
「今回話したいことがね」
「告白の返事ですか?」
「…え?」
微笑むアイビルをキョトンとした顔で見る鳥愛。
「オーケーですか?」
微笑みの爆弾を休むことなく投下するアイビル。
「…」
屈服しそうになる破壊力だが、それには負けず
「いや、そのことについてはちゃんとお断りしたはずだし、あと」
周囲を確認する鳥愛。鳥愛は少し前に身を乗り出してアイビルに少し近付く
アイビルのいい香りが鼻に届き正気を失いかけるが、少し距離を離して
「そのことに関しては学校で話すの禁止。オッケー?」
と小声で言う。
「じゃ、学校じゃなければオーケーですか?」
と小声で返すアイビル。
ホストかコイツは
と思う。このままだと本題に入れないと思い
「学校じゃなきゃいいよ」
と折れた。
「やった」
やったって…
可愛いなと少し思いつつも、そんなこと思ったらダメだと頭を軽く振り、本題へ入る。
「ま、最近遅刻が多い件についてなんだけどね?」
「あ。その件ですか」
「そう」
逆になんだと思ったん?
と思うが口には出さずにいた。
「一応うちの高校は特別で、学校を盛り上げるためになにかしてて
それで遅刻、欠席しているならその分の遅刻、欠席は免除。っていう制度なんだけど。
ま、授業出てなかったところは学校でカバーできるけど
その出てなかった分の授業内容とかはカバーできないし
テストで赤点取ったら、ちゃんと補修もあるし、留年だったあり得るからね?」
「はい」
「ま、本当ならば、もし学校を盛り上がるためなら
遅刻、欠席が増える前に、ま、計画書、見積もりじゃないけど
これこれこーゆーことをするため、何日ほど遅刻します、欠席しますっていうのを
本当は事実に教えてもらいたいんだけどね?」
「はい」
「…んー…。で。ちなみにアイビルくんの最近のこの度重なる遅刻は
学校を盛り上げることに繋がることなのかな?…それなら私も遅刻分に関してはカバーできるんだけどー…」
とアイビルを見る鳥愛。するとアイビルは初めて悩むような表情を見せた。
「んん〜…」
左手を腕を組むように右腕の下に入れ、右拳の親指のほうを口にあてて考え込むアイビル。
しばらくアイビルの悩み声が教室を練り歩く。
「なんとも言えない感じ?」
鳥愛が切り込む。
「うぅ〜ん…。正直奥樽家先生には嘘つきたくないんですよ」
「おぉ?まあ、いい心がけだk」
「だけど」と言い終わる前に、アイビルは右拳の親指のほうを口にあてて
俯き加減のまま、瞳だけを鳥愛に向け
「奥樽家先生のこと好きなんで」
と言い放った。身長は圧倒的に鳥愛よりアイビルのほうが高いので、座高ももちろんアイビルのほうが高い。
なので鳥愛がアイビルを見下げている感じではないが、俯き加減のまま、瞳だけを鳥愛に向けている状態なので
鳥愛から見たらアイビルは上目遣いをしていることになる。
ただでさえめちゃくちゃ整った顔で、涼しげな水色の髪に
涼しげな水色のバサバサまつ毛、涼しげな水色の瞳に魅了されつつあるのに
そんなアイドル的容姿で、なおかつ自分に好意を向けてくれている生徒が
上目遣いでさらっっと「奥樽家先生のこと好きなので」と言った。
鳥愛は座っているイスのまま宙を浮く感覚に襲われた。
あぁ〜…もうこのまま禁忌を犯して生徒と付き合ってってのもアリかー?
一生の内にこんなイケメンに怒涛の好意寄せられることもないしなぁ〜
と教室の中を机やイスが浮かぶ中、自分もイスに座ったまま宙を浮いているという感覚の中
現実逃避、夢見心地でいたが、両手で自分の頬を軽く叩いて現実に引き戻す。
危ない危ない。人生を終えるところだった
と現在の教室に戻ってきてアイビルと対峙する。
「…で?嘘つきたくない…うん。それで?」
「はい。奥樽家先生には正直に言いますけど。好きなので」
「んんん!」
喉を鳴らすというのか、咳払いというか、そんな音でまるで言っていなかったかのようにかき消す。
かき消せていないが。
「正直、今、この遅刻してまでやっていることは
…んん〜…そんなに高校を盛り上げることにはならないかと思います」
頷く鳥愛。
「でも、…たぶん。たぶんですけど文化祭とかに呼んだら
割と盛り上がるんじゃないかっていうことはできます」
呼んだら盛り上がる?文化祭に?
と思った。
「それはー…。そうか。文化祭。それは事前におしえてもらうことは可能?」
「うぅ〜ん。そ、う、で、す、ねぇ〜…。内緒にしておきたいんですけど…。
奥樽家先生も喜んでくれると思うので」
「ん?私が?」
「はい」
ニコッっと笑うアイビル。
「ほお…」
「自分で校長先生にいろいろ話してみます」
「え?校長先生に?」
「はい。なので心配しないでください。あ、気にかけてくれるのはめちゃくちゃ嬉しいですけどね」
と微笑むアイビル。
「お、おう…」
校長先生に直談判というのと自分に好意を隠すことなく向けてくるアイビルというので
頭の中が整理できずに空返事となる鳥愛。
「じゃ、ま。一件落着ー…なのかな?ちなみにこれから遅刻する予定とかある?こんな聞き方変だけどね」
「あぁ〜…。そうですね。できれば1日休みたいですね」
「あと1日でどうにかできるものなの?」
「…おそらく」
「おそらくか。…ま、いいや。わかった。
とにかく体調不良とか学校に不満とかあったとかじゃなくて良かった」
「そんな!学校に不満なんてないです!」
アイビルは鳥愛の両手を両手で包み込む。
「奥樽家先生に会える学校に不満なんてありません!」
真剣な眼差しで鳥愛を見つめるアイビル。
「お…おぉ…」
飲み込もうとしたが、状況を整理し、包んでいたアイビルの手から手を抜き
「はいダメー」
と言った。
「ま、じゃ、ということで話し合いは終りょ(終了)ー。
ま、極力遅刻欠席はしないようにね。気をつけて帰ってね」
とそそくさと教室を出て行った鳥愛。
あぁ〜。手、冷たくて気持ちよかったぁ〜。手おっきかった〜
と心臓をバクバクさせながら職員室へ戻った。
コンコン。
「?どうぞぉ〜?」
「失礼します」
校長室に足を踏み入れるアイビル。
「おぉ。アイビルくん。ささ。座って座って」
「ありがとうございます」
ローテーブルを挟んでソファーに腰掛けるアイビルと校長先生。
「どお?学校生活は」
「お陰様でめちゃくちゃ楽しいです」
「おぉ〜。それは良かった」
「それで、1つお願いがあったきたんですが」
「なにかな?」
「今取り組んでいるものに、あと少しだけ時間を費やしたくて。今までも結構遅刻しちゃってるんですけど
あと1回くらいの遅刻と、できれば丸1日休んじゃうかもしれないんですけど」
「それを免除してほしいってことかな?」
「はい。その通りです。お願いします」
頭を下げるアイビル。
「うん。いいよ」
あっさりである。
「今取り組んでるのってあれでしょ?SNSで見たよ」
「はい。それです」
「私も楽しみにしてるからね」
「ありがとうございます」
「ちなみにまだ誰にもバレてないの?アイビルくんの正体」
「はい。まだバレてません」