夜空に浮かぶ満月が、逃げる二人をじっと見つめていた。
雲間から射す光が追跡者のように足元を照らし、キッドはハンググライダーを操りながら、その視線を冷たく睨む。
「見つかる前に逃げ切らないとな…」
軽く呟いた声には涼やかな調子が宿るが、左腕の銃創から滴る血は止まらない。
それでも、腕の中で感じる青子の体温がキッドを支え続けていた。
「……キッド……」
青子の弱々しい声が風に溶ける。
彼女のまぶたが重く落ちかけ、月明かりに映るその肌は傷と血で褐色に染まっていた。
「お嬢さん、少しだけ我慢を。こんなことであなたに怖い思いをさせるわけにはいきません。」
いつもと変わらぬキザな口調だが、その言葉に込められた温かさに、青子の意識の隅で幼馴染の快斗の面影がよぎる。
「あなたは……犯罪者、でしょう……? なのに……どうして……」
声にならないほど弱々しい問いに、彼は微かに笑みを浮かべた。
「貴女を見捨てるなど、そんな不粋な真似はできませんよ。」
表情には余裕を保ち、彼女の問いをさらりと受け流す。
だが、その軽やかな言葉の裏にある「何か」に気づかれるのではないかという焦りが、彼の瞳を微かに曇らせていた。
やがて青子の意識は完全に途切れ、彼女の体は力なくキッドに預けられた。
「……青子……」
彼はその名を、あの月にさえ聞こえないほど小さな声で呼んだ。
キッドの仮面を脱ぎ捨てたかのようなその声は、ただ彼女の無事を祈る想いだけを宿している。
「……どうか、無事でいてくれ。」
月が追いかける視線の中、二人は静かに世界から身を隠すように夜の闇へ消えていく――
終
コメント
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歌詞からぴんと来たってやつだっけ? 知ってると100倍増で感動する🤯🤯