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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
フィオナが目を覚ますと、窓の外には月が輝いていた。
森の中の、何年も暮らす丸太小屋。どこからともなく、微かに虫の音が聞こえてくる。
ふと、夜風に当たりたくなって庭に出る。
先日は油断して攫われてしまったが、魔法でバリアを張りながら――
……ただ、やはり警戒はしてしまう。
誰かいないか、何か潜んでいないか。
空気の冷たさを感じながら、あちらこちらを見てまわす。
すると2階の屋根の上に人影を見つけた。
一瞬びくりとしたが、よく見てみれば、それはアリアだった。
「……アリアさん?」
「あ、フィオナさん。眠れないんですか?」
「ええ……。あんなことがあったから、まだ緊張しているのでしょうか」
「そうかもしれませんねぇ。……一緒に、月でも見ます?」
「うふふ、それも良いですね」
フィオナの言葉を聞くと、アリアは軽く腰を上げてから、そのまま地面に飛び下りた。
……重さを感じさせない、軽やかな着地。
「では、失礼しますね」
アリアはフィオナの背中に手をまわし、膝の裏に手を添えて、ひょいっと身体を持ち上げた。
そしてそのまま、トーン、と2階の屋根に飛び上がる。
「わぁ……♪」
フィオナは、屋根の上に立つことは初めてだった。
そんな非日常の中、いつもより月が近く見える。いつもより、地面が遠く見える。
「ずっといると冷えちゃうから、お喋りは少しだけ、ですね?」
「そうですね、残念です」
この不思議な時間は、すぐに終わってしまう。
こんな気持ちで、こんな時間を過ごすのは……次はきっと、いつになることやら。
いや、そんな特別な時間だからこそ――
「……アリアさん。
私の異能……『生命付与』が必要なんですよね?」
「はい。でも、無理は言いませんよ。だから、やっぱり無理……というのでも大丈夫です。
あたし、フィオナさんを殺したくないですから」
フィオナは先日、アリアに異能を渡すことには同意していた。
ただ、そのあとにヴェルガ教に攫われてしまったから――
……アリアとしては、フィオナに改めて選択肢を与えたのだ。
「そうしたら……アリアさんは、また旅を続けるんでしょう?」
「そうですね。アタリを引くまで、いろいろな場所をまわるだけです」
どこか達観しているような、どこまでも孤独な笑顔に、フィオナは頬を赤らめた。
「――『生命付与』は特別な異能。
使えるのは1回だけです。どうかあなたに、祝福の道を……」
フィオナは全てを受け入れるように、そっと目を閉じた。
彼女の両手は身体の前で交差され、尊いものに心を委ねている――そんなふうにも見える。
「――ならば祈りを受け容れよう。
簒奪たる我が手、虚無たる五指に寄り至れ。
降れよ力、『生命付与』は我らと共に在り――」
柔らかな光が、アリアとフィオナの間に満ちていった。
その光は森を照らし、儚い影を落とし、そしてそのまま……ゆっくりと消えていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、ザインが食卓に行くと、豪華な食事が並んでいた。
「おお……? これは、朝から……」
「美味しそうでしょ?」
食事の準備をするアリアが、とびきりの笑顔で言ってきた。
彼女を覆っていた感情の皮が1枚だけ剥けたような……そんな印象を受けてしまう。
「あ、ああ。これは全部、お前が?」
「ううん、フィオナさんとメルちゃんと一緒にだよ~」
台所を見てみれば、メルヴィナは野菜くずの処理をしているところだった。
気持ち、皮に付いた身の部分が多いようにも見えるが……まぁ、不慣れな人のあるあるだ。
「レイラはまだ寝てるのか……? えぇっと……ガルドの旦那は?」
「イノシシを狩りに行ってるよ。今日のお昼はバーベキュー!!」
「ほう……がっつりいくんだな!!」
そうこうしていると、外からガルドが戻ってきた。
「フィオナ様、遅れてすいません。熟成の時間までは取れませんが、準備は終わりました」
「ありがとう。お昼が楽しみね♪」
「俺も経験として、解体するところは見たかったなぁ」
「……ふっ。そんな機会、どこかで来るかもな」
「え?」
「さぁ、それでは食事にいたしましょう。
アリアさんとメルヴィナさんにもお手伝いして頂いたんですから!」
「それじゃ、あたしがレイラを起こしてくるね。みんなは座ってて~」
しばらくすると、アリアはレイラを引きずって連れてきた。
椅子に座らせられたレイラは、レモンがたっぷり掛かったサラダを食べて、飛び上がるように目を覚ました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――昼過ぎ。朝食がすっかり消化された頃、バーベキューが始まった。
イノシシの肉はガルドが切り分け、野菜の下拵えはメルヴィナが行い、アリアは謎の調味料を出していた。
「……お前、また変なものを食わすんじゃないだろうな……。アマーみたいな……」
「アマーを変なものと仰いましたかね? あれは今後、世界を獲る料理だよ!!」
「アマーって何ですか? 私、食べてませんけど……」
レイラの言葉に、アリアはギクリとした。
今回は世話になったものの、レイラのことはやはり、早々にどこかに送り返したいのだ。
「そんな機会、どこかで来るかもね?」
丸太小屋から出てきたフィオナが食器を並べ、ザインが飲み物を注いでいく。
レイラはイノシシが初めてだということで、肉が焼けるのを興味深そうに見ていた。
そのうち、ガルドを真似しながら、肉を焼き始めた。
「――うん、美味しい! とっても野生的ぃ~」
頬を押さえて、嬉しそうに食べるアリア。
他の全員も、焼けたものを次々に口に運んでいく。
しばらくすると、フィオナが改まって言ってきた。
「……みなさん。ここでお伝えしたいことがあります」
「今回のお礼は、もう無しですよ?」
そう言うザインに、フィオナは笑顔を向ける。
「確かにもう、何回も言いましたものね。それでは今後の話なのですが――
……私、大聖堂に入ろうと思うんです。アリアさんが間を取り持ってくれるということで」
「今はゴタゴタしてるけど、だからこそ……フィオナさんがいた方が良いと思うんだよね。
問題が起きないように、あたしからもオリバー様に圧を掛けておくから」
アリアとフィオナは目を合わせて、お互い微笑んだ。
それをガルドは、寂しそうな、優しい瞳で眺めている。
「それで、ガルドはしばらく……アリアさんと一緒に旅をしてもらうことになりました。
だから皆さん、よろしくお願いしますね」
驚いたのはザインだった。慌ててガルドの顔を見上げる。
「……まぁ、そういうことだ。ただ、この旅が終わったら、オレも大聖堂に戻る。
フィオナ様を、ずっとひとりにしてはいられないからな」
「そっか、大聖堂に……。旦那にはつらい選択だと思うが――」
「あはは。最初は凄く反対してたけど、フィオナさんが押し切ってねぇ」
「その話が終わったら急に、イノシシを狩りにいきましたからね。
きっとガルドも、みなさんとの思い出を作りたかったのでしょう」
ザインは何となく、八つ当たりに行ったのではないか……と思ってしまった。
そのイノシシは可哀想なことになってしまったが、おかげで今は、美味しい肉が食べられている。
一方のメルヴィナは、居辛そうな表情を浮かべていた。
……大聖堂を出たメルヴィナに対して、大聖堂に入るフィオナ。
本当に自分の選択は正しかったのか――正しかったはずなのに、はっきりしない感情が沸き上がってくる。
そんなメルヴィナに、アリアは静かに近寄っていく。
「悩むんじゃよ、若人よ。解決したときのことを考えれば、悩むのは悪くないことじゃ」
「な、何を言ってるんですか! アリアさんだって、年齢は同じくらいじゃないですか!」
「あはは、その調子、その調子。それじゃ、これでも食べて元気を出して~♪」
メルヴィナはレモンだけが刺さった串焼きを渡された。
戸惑いながらも口にしてみると――……何だか、微妙な味だった。
フィオナは一通り食べ終わると、近くにあった椅子に腰を下ろした。
この森、この丸太小屋で……今までで一番、賑やかな時間。
これから大聖堂に入ったら、きっとこんな時間には巡り合わないだろう。
……そんな思いを胸に、森の空気を感じながら、皆の姿を目に焼き付けていた。
ずっと昔から、命を懸けて自分を助けてくれたガルド。
心はどこか幼いのに、それでも気丈に自分を貫いてくるレイラ。
まわりに翻弄されているように見えて、その実……強く足掻き続けるメルヴィナ。
いろいろな個性をまとめて、場を上手くまわすことのできるザイン。
そして、今まで誰にも秘密を打ち明けてこなかった――……アリア。
――自分が縛られていた異能……『生命付与』を、まさかそんな形で使おうだなんて。
そもそも、アリアから聞いた話――オルビス神が、そんな存在だったなんて。
自分には信じられない。
信じられる範疇を越えている。しかし――
「――神を討つ、か……」
フィオナの視線の先では、アリアが、ザインが、メルヴィナが、レイラが、ガルドが、楽しそうに時間を過ごしていた。
とても平和な、全てが輝いている時間。
こんな時間が、いつまでもずっと続きますように――
フィオナは心の中で、静かに……オルビスではないものに、祈りを捧げた。
コメント
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いやあ、第48話、すごく良かったです……! 屋根の上で月を見ながらのアリアとフィオナの会話、静かだけど心に沁みました。特に「ずっといると冷えちゃうから、お喋りは少しだけ」っていう台詞、この特別な時間が儚いからこそ美しいんだなって思いました。 それでいて、翌朝の賑やかな朝食やバーベキューのシーンがまた温かくて。フィオナが「こんな時間がいつまでも続きますように」って祈るところ、胸がぎゅっとなりました。みんなそれぞれの道を選び始めているのが切ないけど、前向きな空気もあって。 それにしても「神を討つ」って台詞、改めてゾクッとしましたね。この物語、佳境に入ってきた感じがします。続きがすごく気になります!