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こんなときは、はっきり主張するのが一番だ。
社会人生活が長いと、自分の意見を通すこともできる。
沙耶は姿勢を正して、恵子と友也に言った。
「美奈さんとの同居を、お断りします」
だが!
「お断り」のところで美奈が嬌声を上げた。
「嬉しいわ! 沙耶さん」
「は?」
「同居を歓迎します、なんて」
「じゃなくて、」
「ほら、沙耶さん、私に言ったじゃない。
お力になれることがあれば御協力します、って」
それは、友也の父の葬儀で話した『社交辞令』だ。
実父を亡くした娘に会えば、葬儀場で誰もがいう言葉。
それを逆手に取って、美奈は沙耶の新居に乗り込んだ。
「離婚して家も無くして、途方に暮れたとき、沙耶さんの言葉を思い出したの」
「それとも、こんなに困ってる親子を追い出すっていうの?」
「でも……、ここは私の母が住む私の実家だし。住んで当然ね」
沙耶は友也を見た。
「何か言って!」と合図を送る。
「姉ちゃん、ずっとじゃないよな?」
「まぁ、住む場所と仕事が見つかればね」
「探してるのかよ?」
「引越しが落ち着いたら、ゆっくり探す予定」
美奈は夫が破産して、家も貯金も無くなった。
財産分与も養育費も無いらしい。
だから[家賃]も[生活費]も入れないという。
美奈と翔太の食費や光熱費などは、沙耶と友也が負担することになった。
翔太の学費は、恵子の僅かな貯金で賄うことに決まった。
公立への転校を勧めたが、私立小学校に通い続けるという。
引越しが終わって2週間が過ぎた。
沙耶は書斎の簡易ベッド、友也はリビングのソファーで寝ている。
身体は疲れるし、夫婦の会話も減った。
美奈は職を探さない。家事もしない。
たまに着飾って出掛けるが、
どこで何をしているのか、さっぱり解らない。