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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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競技用コートに辿り着いた二人は、すぐ隣にある男女別の更衣室で着替えを済ませた。用具は男女とも、二十一世紀のものとほぼ同じだった。

コートは芝生で、広さは現代サッカーのものと変わらなかった。中央付近では、エドを含む数人の結社の会員が、体操やパス交換をしている。

一通りストレッチを終えた桐畑が辺りを見渡していると、「桐畑君」。遥香の涼やかな声がした。

向き直ると、縫い目のある茶色のボールが足元に転がってきた。

右足の内側で止めた桐畑が顔を上げると、集中した様子の遥香が視界に入った。すぐに蹴り返すと、遥香は滑らかなトラップを見せた。

「気付いたんだけどさ、朝波って、アルマの性格をコピってんだろ。俺もさ、ケントの演技、すべきなのかな? あとさっきの続きだけど、結局朝波は、現代にどうやって帰るつもりなんだよ」

抑えた声で桐畑が問うと、遥香は、「まーた一度に訊いてくる」と口を窄めてむっとした面持ちになった。

「私がアルマを演じてる理由は、アルマが何者かに憑依されてるって疑われないようにするため。スピリチュアリズムの盛んな時代だからね。だけど、君は演技は必要ないよ。君が成り代わる前も、ケントは、ざっくばらんな明け透け男子だったからさ」

「ざっくばらんは良いとして、明け透けってなんだよ、明け透けって。なんか俺、すっごいアホな子みたいじゃん」

あっさりと言い切った遥香に、桐畑は軽く声を荒げた。

「ごめん、気を悪くしたなら謝るよ。でも悪口のつもりじゃあないのよ」

桐畑の詰問に、遥香は申し訳なさげに即答した。

「おう、そうかよ。そんじゃあ気にしないことにするわ」と、拍子抜けの思いで桐畑は答えた。

「で、帰る方法だったよね。じゃあ、今から教えてあげる」

声を微かに弾ませた遥香は、足の先端で、ボールを宙に浮かせた。落ちる前に足を振り抜き、大きく蹴り上げる。

高々と上がったボールが、下降を始めた。落下点に入った桐畑は、右足を内に曲げてボールを去なした。

(うっわ、完璧なトラップ。足に吸い付くったぁ、まさにこのことだな)と、内心、自画自賛をする。

「ね、もうわかったでしょ?」

澄まし顔の遥香は、軽やかな雰囲気だ。

「私たちのアビリティーは、十九世紀のイギリスに相応しいものに変わった。日本語の代わりに、英語が自然と口から出るようになった、みたいにね。私なんか、乗馬までできるようになったしさ。馬なんて怖くて、触れなかったにも拘わらず、だよ?」

姉が弟に言い聞かせるような語調に、桐畑は口を挟めない。

「でもさっき、君は私の蹴り上げたボールを、そこそこ綺麗にトラップした。サッカーのスキルは、タイム・スリップの前後で変化してないってわけ。ここに何かがあると思わない?」

「……そこそこね。まあ、俺は器が大きいからスルーしてやるとしよう。んで、アビリティーの件だけどよ。俺には早計に思えるね。俺らを過去に飛ばした何者かが、フットボールの技術も、『十九世紀のイギリスに相応しい』って見做してるとも考えられるんじゃあねえか?」

努めて冷静に指摘を返すが、遥香は依然として、光明を見出したような雰囲気だった。

「うん、なかなか合理的な意見だよね。だけど思い出してみて。私たちはこの時代に来る前に、どんな出来事を経験したか」

歌うような調子の遥香の台詞に、桐畑はタイム・スリップに至った経緯を思い出す。

「結社はちょうど今、全英フットボール大会に出てる。強豪だから、ここまで危なげなく準々決勝まで勝ち上がってるの。優勝ができたら、日本に戻れる。百%じゃあないけど、努力してみる価値があるとは思わないかな?」

遥香の主張は希望を湛えていた。

だが、(どうだろうな。俺には、机上の空論に思えるけどな)と、桐畑は首を捻る思いだった。

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