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街の灯りがやさしく揺れる夜、七瀬陸と九条天は並んで歩いていた。ライブのリハーサルが終わり、少し遠回りして帰ることにしたのは、天の提案だった。
「今日のリハ、よかったよ。最後の高音、きれいに届いてた」
「ほんとに……? 天にぃにそう言ってもらえると、すごく嬉しい……」
「うん。ちゃんと伝わってたよ、りくの歌」
天の声はやわらかく、穏やかで、陸の心にそっと沁み込む。
その優しさに、自然と笑顔になる。けれど――ふと、息が少し苦しくなるのを陸は感じた。
胸が、わずかに重たい。けれど、それを言い出すには勇気が必要だった。
(……言おうかな……でも……)
せっかくの時間を壊したくなかった。
天に心配も、迷惑もかけたくなかった。
「……」
黙ったまま歩き続ける。その間にも、胸の奥のざわつきは静かに広がっていく。
でも天にぃは、すぐに気づいてくれた。
「りく……大丈夫?」
優しい声が、静かに降ってきた。
「……無理してるよね?」
陸はふっと立ち止まり、視線を下げた。
「……なんで、わかったの……?」
「僕、ずっとりくのこと見てるから。声の出し方も、歩き方も、呼吸の音も……少し変わったなって思って」
その一言が、陸の中の何かをほどいた。
「天にぃ……ごめん、俺……ちょっと、しんどくて……」
しゃがみ込むように、膝をつく。呼吸がうまくできない。胸の奥がきゅっと締めつけられる。
「落ち着いて、ゆっくりでいいよ。ほら、僕がいる。大丈夫」
天はすぐに膝をつき、そっと陸の背中を支えてくれる。
その手は、まるで安心そのものみたいに、あたたかかった。
「……吸って、ゆっくり、そう……大丈夫、りく」
天の声が、遠くの不安をすべて洗い流していく。
やがて、少しずつ呼吸が落ち着いてきた。陸は目を伏せながら、小さくつぶやいた。
「……俺、また迷惑かけちゃったな……」
「そんなこと、言わないで。……ちゃんと助けを求めようとしてた。偉いよ」
陸はふと天を見上げた。その瞳には、心からのやさしさがあった。
「僕は、りくがしんどいときは、ちゃんとそばにいる。いつだって、ね」
陸はこくりと頷き、静かに深呼吸をひとつした。
「ありがとう、天にぃ……」
夜の風が少し冷たく感じたけれど、天の手と声がそばにあるだけで、陸の心はとてもあたたかかった。
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