桜乃の話は俺を驚愕させた。
「……ほら、結萌とマネージャーと南田さんが会っていた日、あるでしょ? あの日結萌はシャワーを浴びたかったから少し遅れて待ち合わせ場所に行ったの。そうしたら、原さんと南田さんが深刻な顔して帰ろうとしていたから理由を聞いたんだけどね、何でも二人きりで話があるからって言われたの」
莉世となかなか連絡がつかなかったあの日、桜乃が遅れていくと、莉世と原が二人きりで話があると場所を変えたらしい。
「だからそのまま二人と別れたの。それから……二時間くらいかな? 仕事の事で原さんに連絡したんだけど、結萌の声を聞いた原さんは凄く焦った様子で……少し離れたところから、シャワーの音が聞こえてきたの。原さん、一人暮らしなのに」
それから二人はどこか別の場所で話をしたらしいが、一人暮らしの原が電話に出ている時、遠くからシャワーの音が聞こえたと桜乃が言う。
「それが、何だって言うんだよ? 彼女でも来てたんじゃねぇの?」
「原さん、彼女はいないわ。もう随分前に別れたって聞いたもの。それに、南田さんと彼はホテルのラウンジからどこかへ場所を移したのよ? 部屋でって事も考えられるでしょ? 雪蛍くん、南田さんと連絡が取れないって言ってたじゃない? 結局、何時くらいに連絡がついたの?」
「…………」
そう問われてあの日の事を思い出してみると、桜乃が言っている時間帯はまだ連絡がつかなかった。
それから三十分くらいだろうか、車で仮眠を取ってたと莉世が電話に出たのは。
(有り得ねぇ。莉世に限って、絶対有り得ねぇ)
桜乃が何を言いたいのかは、よく分かる。
要は、莉世と原が関係を持ったんじゃないかって言ってるんだ。
有り得ない事だけど、仮にそうだとしても、莉世が自分からアイツを求める訳がねぇ。それだけは絶対に有り得ないと言い切れる。
(それなら、莉世は原に無理矢理……)
そう思った瞬間、一気に頭に血が上ると共に怒りの矛先をテーブルにぶつけた俺には、桜乃は勿論、周りに居る客たちが驚いてこちらを注視する。
「……雪蛍くん?」
「金、払っといて。俺、行くとこあるから」
財布から一万円札を取り出した俺はテーブルに叩きつけるように置くと、桜乃の返事を待たず急いで店を出た。
そしてすぐ側に控えていたタクシーに乗った俺は迷わず莉世のアパートへ向かって行く。
莉世はきっと、風邪を拗らせて休んでる訳じゃない。
そんな事があって、誰にも相談出来なくて、どうしていいか分からないんだと思ったら居ても立ってもいられなかった。
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