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アザレアはカルの質問に答えるため説明し始めた。


「ここ数ヶ月の間、昼夜絶えず、ありとあらゆるものに毒物スキャンを行いながら生活してまいりましたわ」


カルは頷くと言った。


「毒殺される可能性があったことを考えれば当然だろうね」


アザレアも頷き、続ける。


「そのスキャン魔法も、以前は水魔法のみで行なう魔法でしたわ。でもずっとスキャン魔法を使い続けたことで、全属性を使用して、意識せずとも魔法を発動し続けることができるようになりましたの」


カルは人差し指と中指を額にあて、眉根にシワを寄せると目を閉じ唸った。


「君が凄いことは知っていたが……」


そう言ったあと、顔を上げにこりと微笑む。


「わかった。もう、君については通常の常識範囲内では考えないことにする」


アザレアもそれを受けてにこりと笑って答える。


「ありがとうございます」


そして話を続ける。


「最近では感覚的に、どこにどの様な物質がどのくらいあり、その物質構成や物質量なども、簡単に読み取ることができるようになりましたわ。でも、その調子でスキャンを続けますと、情報量が多すぎてしまいますでしょ? なので自然と必要なことだけスキャンできるようになりましたの。これは全て無意識で行っていたものですから、私自身、この能力で飛散粒子を測定できるかもしれない、と言うことに気づくのが遅れてしまいましたわ」


そう言うと、カルはアザレアの顔を穴が空きそうなほど見つめる。


「本当に君にはかなわないな、他にも何か能力を隠していそうだね」


そう言われて、アザレアは少し考えるとカルを真っ直ぐ見た。


「もし、本当にモンスターが飛散粒子なら、私、無効化できるかもしれませんわ」


その言葉に、カルは笑顔のまま固まった。そのとき、アザレアの後ろからコリンの声が聞こえた。


「殿下、失礼致します」


アザレアは振り返ろうとしたが、カルはアザレアに視線を向け、手を軽く挙げてその動きを制した。そしてそのままコリンに視線を戻す。


「何か報告か?」


そう尋ねる。コリンは答える。


「結界の消失した地点に小さな結界石の配置が終わりました。確認したところ、一時的に結界の穴を塞ぐことができたとのことです。それに病人も治療が功を奏し、次々に意識を取り戻し始めました」


カルは頷く。


「わかった、報告ご苦労。もう下がっていい」


そう言って、コリンに向かって手で払うような仕草をした。


コリンの立ち去る足音が消える前に、カルがコリンを呼び止めた。そして、テーブルに右手で頬杖をついて笑みを浮かべる。


「先日はアズの護衛で、大分世話になったみたいだね。ご苦労だった」


そう言うと、左手の人差し指でテーブルをトントンと叩きながら言った。


「だが、行動を起こす時は自分の身辺にも十分注意しなければね。護衛もできまいよ」


しばらく沈黙があり、アザレアは張りつめた空気の中、静かにコリンの返事を待った。すると、やっとコリンが返事をした。


「ご忠告肝に銘じます。僭越ながら、私からも一言よろしいでしょうか?」


カルは一瞬眉根にシワを寄せ返事をする。


「あぁ」


その返事を受けて、コリンはカルに優しく諭すように言った。


「花は世話をしなければ枯れてしまいます。水をあげすぎても、です」


カルは鼻で笑う。


「お前はその花の世話をするふりをして、自ら手折ろうとしていたくせに。笑えるな」


しばらくの沈黙の後、コリンは


「失礼します」


と言って去っていった。あまりにも険悪な雰囲気にアザレアは訊いた。


「カルとコリンはケンカでもしてますの?」


カルは声を出して笑った。


「彼とは昔ちょっとね」


そう言うと、苦笑しながら肩をすくめる。


「君には隠し事はしない。と言ったから話すが、私の十四歳の誕生会の時だ。あの誕生会の日、暗黙の掟で私の愛する女性には誰も手を出さなかった。だが、一人だけその掟を破った者がいた、それがコリウスだ。彼は私が見ているのを分かっていて、私をみてニヤリと笑うと、堂々とその女性をダンスに誘った。あれは彼なりの宣戦布告だったのだろう」


そう言うと、アザレアを見つめた。アザレアはあの誕生会でそんなことがあったのかと驚いた。


「そうでしたの、知りませんでしたわ」


そうして他人事のようにカルを見つめ返していたが、その女性とは自分のことだと気づくと、その瞬間、思わずカルから視線を外す。


そんな様子を見て、カルは楽しそうに両手で頬杖をついてアザレアを見つめたまま言う。


「何度も言うが君は本当に可愛いね。早く君が私だけのものになればいいのに」


微笑むと話を続ける。


「さて、どうやら結界の消失した部分の一時的な補修は完了したみたいだし、君の言っていたアドバイス通りの治療の効果も出たようだ。あとは君とヒュー先生と私とで根本的な解決策を考えなければね」


立ち上がりアザレアの横に立ち手をさしのべて言った。


「では宮廷魔導師様、行きましょう」 


アザレアはその手を取った。


現場はヴィバーチェ公爵領の外れの農村地帯にあった。アザレアの瞬間移動の魔石がなければ、移動だけでも数十日かかったかもしれない。


「対応が遅れれば、もっと甚大な被害が出ていただろう。君の作ってくれた魔石で迅速に騎士団小隊の派兵と、調査団と治療班を現場に送りこむことができた。これだけとっても、君の力がいかに国に貢献しているかが分かるね」


そう言って微笑むと、簡素な小屋へ案内した。


「調査のための急拵《きゅうごしら》えの粗雑な小屋で、居心地は悪いだろうが勘弁して欲しい」


そう言うと苦笑した。が、この短時間で小屋を建ててしまうとは、騎士団の技術力の高さが伺えた。


小屋の中に入ると、他の研究者らしき人物と、書類を覗き込みながら議論しているヒュー先生が目に入った。先生はこちらに気づくと言った。


「お、真打ち登場だねぇ、待ってました」


そして手を広げたあと、右手を胸に当て左手を腰の後ろにあてて一礼した。それを見た他の研究者たちも慌てて頭を下げる。アザレアも慌てる。


「やめてください、皆さんあの、違いますの。ヒュー先生が私の師匠ですの」


そう言って、カルの後ろに隠れた。その場にいた全員が声を出して笑い、一瞬場がなごんだ。


死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

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