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王宮に到着し、馬車を降りるとアラベルが先を歩いており他の令嬢と挨拶を交わしている。


その時、オパールがアラベルに気づき笑顔で駆け寄って行く姿が目に入った。


どういうことですの?


オパールはアリエルとアラベルを見間違えたことは今まで一度もなかった。

呆然としていると、向こうからエルヴェが歩い来るのが見えた。アリエルが軽く手を振ると、エルヴェはアリエルを無視して、アラベルを見ると満面の笑みでアラベルの方へ吸い寄せられるように歩いていった。


呆然としていると、そんなアリエルに気づいたアラベルがこちらを見てにこりと微笑んだ。


その時アリエルの脳裏に、一度目のあの惨めなお茶会でのことがよぎった。

いたたまれなくなったアリエルは、踵を返すと人目のつかない場所へ隠れた。


なぜ、どうして……? 私は人生を変えることができなかったということですの?


そう思いながら目の前にあったベンチに座り込むと、惨めでつらくて苦しくてとめどもなく涙が溢れた。そして、もう一度チャンスがほしいと言ったエルヴェを恨んだ。


すると、遠くからオパールの声が聞こえどうやらこちらに向かっているようだと気づいた。

アリエルはオパールとアラベルの会話を聞きたくもなかったし、今は顔を見るのもつらかった。


それに以前のようにみんなの前で晒し者にされるつもりもない。


アリエルは帰った方がよいと判断し、慌てて立ち上がると入り口の方へ足早に歩きだした。


歩きながら涙を拭う。


泣いている場合ではない、これからどうするのかを考えなければ!


そうして突然ファニーのことを思い出した。


ファニーに雇ってもらえないだろうか?


突然屋敷へ行くのは気が引けたが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。


ファニーのところでしばらく匿ってもらい、お針子として雇ってもらおう。


そう決めるとアリエルは急いで馬車に飛び乗り、一度屋敷へ戻った。そして、この時のためにとっておいたサファイアの入った袋を手に取ると、突然帰ってきたアリエルに慌てふためくアンナを連れてファニーの屋敷へ向かった。


ファニーの屋敷の前に到着したところで、冷静になり勢いで出てきてしまったものの、拒否されたらどうしようかと突然不安になった。


ところが門のところで名前を告げると、あっさり中へ通される。


「レイディー! どうしたのさ!!」


ファニーはエントランスでアリエルを見るととても驚いた顔をしたが、快く招き入れた。


「美しい顔が台無しじゃないか~! 可哀想に。それにそのドレスは? 僕がデザインしたドレスと違うじゃない?」


アリエルは今までの経緯を説明し、妹のアラベルにおとしいれられ自分が窮地に立たされていることも説明した。そして、しばらくのあいだ匿ってもらい、できることならお針子としてこの国を出たいと話した。


ファニーは口を挟まず、最後まで真剣に話を聞くと口を開いた。


「レイディーの話はわかった。とりあえず落ち着いて! 何か勘違いかも知れないよ? とにかく今はここでゆっくりしてさ、今後のことは後で考えよう? それにしてもピンチの時に僕のことを思い出してくれるなんて嬉しいな~。頼ってくれてありがとう!」


そう言って微笑んだ。


そうしてしばらくは、ファニーがアリエルを匿ってくれることになった。ファニーにいくらかお礼をしようとしたが、ファニーはそれを受け取らなかった。


「僕は結構これでも稼いでるんだよ~? そんなのいらないって。それに好きな令嬢にはカッコいいところを見せたいでしょう?」


そう言うとウインクして返した。そうして、アリエルたちが不自由ないように客人として最大限もてなしてくれた。


アンナはアリエルが『屋敷を出る』と言った時なにも言わずについてきてくれたが、ファニーの屋敷へ来るとひとつだけアリエルに忠告した。


「お嬢様、旦那様には居場所は伝えなくとも、安全な場所にいることだけは伝えませんと」


「もちろんですわ、安心してアンナ。お父様にはすぐに手紙を書きましたし、その中で事情も説明しました。お父様は絶対に私を信じてくださると知ってますもの」


それを聞いたアンナはほっとしたような顔をした。


ファニーの屋敷でもてなしを受けているあいだも、アリエルはエルヴェのことを思いだしては胸がしめつけられた。そしてエルヴェを信じてしまったことを酷く後悔した。


三日ほど部屋でぼんやりして過ごしていると、アンナに気晴らしに庭でも散歩するように促され、アリエルは気分転換にひとりで庭を歩くことにした。

そうしてゆっくりしているうちに、木々の緑と花の香りでいくぶん癒されたような気がした。


と、その時遠くから自分の名を呼ぶエルヴェの声が聞こえた気がした。


まさか、と思いながら周囲を見ると向こうにエルヴェが立っているのが見える。アリエルは血の気が引いた。


今捕まれば、また処刑されるかもしれない……。


慌てて踵を返すと、ドレスの裾をつまんで全速力で走った。命がかかっているのだ恥も外聞もない。ヒールは脱げスカートの裾も捲れ上がっているが、そんなことは気にしていられなかった。


逃げなければ、でもどこに?


そう思っていると、突然後ろから腕をつかまれた。


「アリエル、ずっと探していた!」


「見逃してください!」


そう言ってエルヴェから逃れようとするが、エルヴェはアリエルを後ろから抱き締める。


「アリエル、もう二度と離さない!」


「申し訳ありません! 目の届かぬ場所へ行き、二度と姿を現したりいたしませんから、今回はお見逃しください!」


アリエルがそう懇願すると、エルヴェは驚いた顔でアリエルを見つめた。


「どういうことだ?」


「私お茶会で殿下がアラベルと親しくなさっているのを見ましたの。ですから、私のことは捨て置いてください」


「違う! あれはアラベルが君のドレスを着ていたからだ。でなければあの悪魔のような女と君を間違えるはずがない。まさか君のドレスを奪ってまで着るなんて思いもしなかったんだ」


アリエルは驚き振り向いてエルヴェを見つめた。


「なぜドレスのことを知ってますの?」


エルヴェは苦笑した。


「やっと私の顔を見てくれたね? よかった」


そう言うとエルヴェはアリエルを抱きしめる腕を少し緩め微笑んだ。


「なぜ知っているかって? 当然だ、あのドレスをプレゼントしたのは私なのだから」


アリエルはエルヴェの顔をまじまじと見つめて言った。


「でも、あのドレスは商人に紹介されたファニーにデザインしてもらったものですわ」


「そうだ。そもそもファニーを差し向けたのは私だ。その商人は『ファニーは王宮直属のデザイナー』と言っていなかったか?」


「確かにそう聞いてましたけれど……」

 

エルヴェはアリエルに優しく微笑んだ。


「どうしても君にドレスをプレゼントしたかったんだ。だが、君はなにを贈っても受け取ってはくれないだろう? だからこんな手の込んだことをさせてもらった」


「では殿下はあのドレスを見たことがあるのですね?」


「もちろんだ。ファニーと詳細にデザインについて話し合ったからな。もちろんオパールにも見立ててもらった。あのドレスを着た君を見るのを私も楽しみにしていたんだよ?」


「お茶会でアラベルに駆け寄る殿下を見て私はてっきり……」


アリエルがそう言って少し俯くと、エルヴェがアリエルの顔を覗き込む。


「てっきり、なんだい?」


アリエルは自分が早とちりをしたことが恥ずかしくて顔を背けた。

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