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過ぎ去りし夏の日々よ

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過ぎ去りし夏の日々よ

1 - 過ぎ去りし夏の日々よ

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2025年01月12日

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図書館の片隅、ひっそりとした一角に座る私(千夏)は、手に取った小説のページをゆっくりとめくっていた。静寂に包まれた空間の中、私の心はその物語に引き込まれていく。


――「もう、隠し通せないよ。私はあの人を愛してるの。」


その一行を目にした瞬間、私はページをめくる手を止めた。まるで、そのセリフが自分自身に向けられたもののように感じられたからだ。


物語の中では、二人の親友が一人の男性を巡って対立し、隠し続けてきた感情が爆発する場面だった。彼女たちはお互いの思いを知りながらも、友情を壊すまいと必死に笑顔を保っていた――少なくとも、表面上は。


「なんでこんな話を選んじゃったんだろう……」

私は自嘲気味に呟いた。


目の前の物語の登場人物たちが、まるで自分自身の過去を暴露しているようで、読むのが苦しかった。


「……あの時、私はどうするべきだったんだろう。」


私の脳裏に、去年の夏の記憶が鮮明に蘇る。

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夏休み中、部活の合宿で訪れたキャンプ場。

私と親友の沙紀、そして沙紀の片想いの相手であり、私が密かに心を寄せていた相澤先輩の三人は、星空の下でふざけ合いながら過ごしていた。


「ねえ、千夏。相澤先輩、最近優しくない?」

沙紀が笑いながら言ったその言葉に、私の胸が締め付けられた。


(それは、私が先輩に想いを伝えたから……)


その事実を隠しながら笑顔を作るのは、予想以上に苦しかった。沙紀にとって相澤先輩は初恋の相手。そんな相手を、自分のエゴで奪ったのだという罪悪感が、私の心を蝕んでいた。

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「……あの時、私は沙紀にちゃんと伝えるべきだった。」

小説を閉じ、私は図書館の窓から外を見つめた。


けれど、その瞬間。携帯に届いた一通のメッセージが、現実に引き戻した。


「久しぶりに会わない?話したいことがあるの。」


差出人は、沙紀だった。

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私は、携帯を持つ手が小刻みに震えるのを感じた。

沙紀からのメッセージを受け取るのは、本当に久しぶりだった。高校を卒業してから、沙紀とは何となく疎遠になり、連絡を取り合うこともなくなっていた。


「話したいことがある」――その一文の意味が、胸の奥で重く響く。


(今さら、何を話すつもりなんだろう……)


私はその夜、何度も携帯の画面を見つめながら返事を打つべきか迷った。しかし、答えを出せぬまま眠れぬ時間が過ぎていった。


数日後、沙紀が指定したカフェで二人は再会した。


「千夏、久しぶりだね。」

沙紀の笑顔は昔と変わらず明るかったが、その裏にある複雑な感情を私はすぐに察した。


「うん、久しぶり。」

ぎこちない返事をしながら、私はコーヒーのカップに視線を落とした。


少しの雑談を交わした後、沙紀が唐突に切り出した。


「ねえ、千夏。相澤先輩とは、まだ続いてる?」


その言葉は、私の心臓を止めるような衝撃だった。


「……どうしてその話を?」

声が震えた。私は一瞬、沙紀の真意を読み取ろうとしたが、沙紀の表情は柔らかいままだった。


「実はね、最近先輩と偶然会ったの。」

沙紀の言葉に、私は無意識に息を呑んだ。


「結婚するんだって。新しい彼女と。」


その瞬間、私の胸の中に押し込めていた何かが、音を立てて崩れ落ちた。

結婚――それは私にとって、過去の全てを無意味にされるような響きを持っていた。


「……そうなんだ。」

それ以上の言葉が出てこない。


沙紀は、私の反応をじっと見つめた。そして、ゆっくりと声のトーンを落とした。


「千夏、あの時のこと、ずっと気にしてたの。私、気づいてたよ。相澤先輩と付き合ってたこと。」


私は驚きで目を見開いた。


「でもね、ずっと言えなかったの。私も、あの時は何かを言えば壊れる気がして……。」


沙紀の言葉に、私の目には涙が滲み始めた。


「……ごめん、沙紀。私、本当にあの時……最低だった。」


「いいの。だって、好きだったんでしょ?私も同じだったから。」


沙紀は、そう言って静かに微笑んだ。その微笑みは、どこか遠い場所を見ているようだった。


カフェを出て、私は夕暮れの街を歩きながら、一人の男性に振り回され、壊れた友情と、未だに癒えない心の傷を思い返していた。


(結局、私はあの時、誰のためにもならなかった。)


でも、沙紀との再会を通じて、彼女は一つの事実に気づいた。


あの日々は決して無意味ではない。傷つけ、傷つけられたとしても、あの時間があったからこそ、自分は今ここにいる。


「……ありがとう、沙紀。」


私は呟いた。その声は、薄暗くなり始めた空に溶けていった。

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