第7話 〜怪物〜
あらすじ
大森は湯ノ内に自分の思いをぶつけた。
しかし、湯ノ内は大森が思っているより何倍も怪物のような人間だった。
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「僕は信じています」
「音楽は 命だって 救える」
湯ノ内が信じなくたっていい。
俺が、それを体現させてやる。
大森は涙ぐみながらも、瞳を燃やした。
湯ノ内はその言葉を受けると、気持ちが悪いほど口角を上げて笑った。
引き上げられた口角から歯茎が除く。
「よく逃げずに答えたね」
「いい子だ」
大森は、ぞっとして身構える。
「うん、合格、合格」
「やっぱり君は普通の子じゃないね」
湯ノ内は目ん玉が飛び出そうな程、目を見開く。
その顔のまま、大森の瞳を覗き込む。
大森は蛇に睨まれた蛙のように動けない。
ただただ、戦慄して固まった。
「どんな闇を見てきた?」
「話してごらん」
湯ノ内は子供に話すように、ゆっくりと猫なで声で問いかける。
大森は身体を震わせながら、後ろに下がった。
憎しみも、悔しさも一瞬で泡になった。
こいつ本当に人間か
「この歪み方、幼少期に原因があるね」
「君、初めて曲を作ったのはいつだ?」
湯ノ内の声が耳元で鳴る。
少しの動きも見逃さんと、湯ノ内の目がぎょろっと大森の瞳を見る。
まるで、妖怪だ
「…12歳から」
どうせ調べられたら分かる事なので正直に答える。
「その時友達は?」
湯ノ内が聞く。
「人並みにはいました」
大森は模範的な回答をした
「…いや居なかっただろう」
「誰も君を理解できなかった」
「違うかい?」
なんだこれは、カウンセリングか?
「いいえ」
「こんなことありません」
大森の断固とした姿勢に 湯ノ内は仕方ないというように息を吐く。
後ろに立っている秘書に声をかけた。
「りなちゃん」
「大森くんの資料持ってきて」
「はい、すぐに」
秘書は返事をすると、鞄から資料を取り出す。
そして、それを湯ノ内に手渡した。
湯ノ内は資料をめくると、話す
「いやー正直、君には興味がなくてね」
「目を通してなかったんだよ」
大森は苦虫を潰したような顔をする。
そのまま興味を持たれないまま、この会を終えたかった。
湯ノ内は資料に目を通すと、ぱっと顔を上げて言う。
「君、人格が音楽と混ざってるね」
「は?」
大森は素っ頓狂な声を上げた。
「いわゆる、そういう子だ」
大森は苛立って、下唇を軽く噛む。
いわゆるってなんだ
大森は怒りのギアが一つ上がる。
「いわゆる?」
「ああ、湯ノ内さん “そういう子” が好きなんだ」
「残念、僕とは相性悪いですね」
湯ノ内が、楽しそうに大森の様子をみる。
余裕そうなのが、余計に腹が立つ
もっと強い言葉を使ってやろうか
「自分は違うと?」
湯ノ内が言う。
大森は口を閉ざしたまま、睨みつけた。
「君の感性は全部、波やリズムで出来ているはずだ」
「君は、人の考えを読むのが上手いね」
「それは 君が言葉や顔色よりも、声色やテンポ、言葉のリズムを聞いてるからだ」
「これも違うかい?」
正直に言えば、当たっている。
だが、認めてやるもんか
「僕を分析して、何が楽しいんですか」
大森は鋭く言う。
「おや、相談に乗っているつもりなんだけどね」
嘘つけ、人の心を土足で踏みつけやがって
大森は湯ノ内に抱いていた微かな愛情を捨てた。
敵認定のボックスに放り込む。
「いいえ」
「嘘つかないでください」
大森はきっぱりと言い捨てると、毅然として続けた。
「貴方は怖いんだ、僕のことが理解できないから」
「安心したいんでしょ」
「いいですよ、なんて言って欲しいですか」
湯ノ内はしばらく何も言わずに、大森を観察した。
しかし、大森にとって沈黙はそれほど怖いものではない。
大森も調子を崩さずに湯ノ内の様子を観察した。
湯ノ内はそっと言った。
「君…今、私を警戒対象に入れたね」
大森はつい、息を飲んだ。
身体が微かに震える。
湯ノ内が続けて話す。
「私も君と同じさ」
「人の言葉を信じない」
「だから、君は何も言わなくていい」
そう言うと、湯ノ内は大森の手を握ると問いかける。
「私が信じるのは、何だと思う」
大森は速くなる鼓動を誤魔化すように、深い呼吸を心がける。
しかし、湯ノ内の前では それすら感じ取られている気がして生きた心地がしない。
「恐怖だよ」
「さて 恐怖の底に、君は何を隠してる」
大森の頭の中でアラートが鳴る。
だめだ
この人とこれ以上話したら、自分の正体が暴かれてしまう。
身体が馬鹿みたいに震えた。
「おや、理解出来たようだね?」
「素晴らしい」
湯ノ内が大森の頭をぽんぽんと撫でる。
「さあ、始めようか」
「本当の君を見せてくれ」
大森は、やっと気がついた。
芸能界に入って間もない頃、聞かされた。
この世界には近づいたらいけない人間が居ると
まさに、それが湯ノ内だ。
あぁ、勝てない
この人には勝てない
大森は項垂れるように俯いた。
「ん、なんだ…もう降参かい?」
「はい」
「煮るなり、焼くなり勝手にどうぞ」
大森は、やけくそな気分になりながら背もたれに背中を預ける。
なんか、疲れてしまった。
「…」
「困ったな…」
湯ノ内が残念そうに言う。
なんで、お前が困るんだよ
困ってんのはこっちだ
「じゃあ帰っていいですか」
大森が適当に言うと、湯ノ内が笑う。
「不思議だね」
「君は追い込まれると開き直るのか」
湯ノ内がスマホを触る。
「飯田に来てもらおうか」
突然の提案に、大森は身構える。
どっちの意味だ?
迎えに来させるのか、それとも監視役として連れてくるのか
「…」
大森はどうしていいか分からず、湯ノ内を見つめる。
「…あぁ、お疲れ様!!」
湯ノ内がご機嫌な様子で飯田に電話をかける。
「ん?いや問題、大ありだよー」
湯ノ内が豪快に笑う。
「扱いづらいたら、ありゃしないね」
そっちか
大森は湯ノ内を睨みつける。
飯田が何が言ったんだろうか、再びガハガハと笑う。
一件、気前の良いおじさんに見えるのが怖い
「いいの、いいの!!」
「それは、こっちで教育しとくからさ」
大森は顔を顰める。
絶対、自分の事だ
嫌だな、何をさせられるんだろう
「それよりもさ、他の子連れてきてよ」
「ほら、いたでしょ」
「両サイドにも可愛い子が」
まだ、誰かを呼ぶつもりか
いや、むしろ他に分散すれば助かるかもしれない
大森は一瞬そう思った。
しかし、意味を理解すると飛び跳ねる。
両サイド
もしかして
大森は慌てて、湯ノ内を見る
でも、確信がない
それに違った場合、自分から弱点を晒すことになる
大森は言葉のトーンに注意しながら言う
「まだ、誰か呼ぶつもり?」
湯ノ内は通話を切ると、大森を見る。
「どうだい?」
「これで君の不貞腐れも治るかな」
大森はその言葉で確信する。
「約束と違う!!」
大森は耐えられず叫んだ。
「約束?」
「君と約束なんてしたかな」
大森は、泣きそうになりながら湯ノ内を見つめる。
確かに湯ノ内とはしてない
飯田との約束だ
「あぁ 、もしかして…」
「2人を守るために君は接待しに来たのかい?」
「そ、そういうわけじゃ…」
もちろん、理由はそれだけではない
しかし、2人を守る為ならなんだってする覚悟だ
そこは変わらない
大森は覚悟を決める。
靴を脱ぐと椅子の上に正座をする。
「お願いします!!」
そういうと大森は頭を下げた。
「僕には何してもいいですから!!」
湯ノ内は何も言わない
このタイミングの沈黙
今の大森にはすごく痛い
それでも頭を下げ続けると、湯ノ内がぼそっと呟く。
「君は、綺麗な所で土下座をするんだね」
大森は一瞬、思考が停止した。
再び、動き出すと大森は、自分の失態に気がついた。
大森は転げ落ちるように、床に這い蹲る
「あ、あ、の」
自分でも笑ってしまう程、声が震える。
「ほ、ほん、とに」
「なんでも、」
大森は意味の分からない恐怖に襲われながら身体を震わせて、頭を下げる。
「なんでもします!!」
床に頭を擦り付けるように、土下座をする。
すると、湯ノ内が立ち上がる。
「頭を上げなさい」
大森は震えながら、頭を上げる。
湯ノ内は自分のズボンのチャックを下ろした。
大森は心が竦み上る。
終わった
どうする、咥えるか?
嫌だ、こいつの物なんて見たくもない
ごそごそと股間を弄ると下を、ぼろっと出す。
湯ノ内は大森を見下ろした。
「舐めなさい」
湯ノ内のグロテスクなそれを、 大森は直視出来ない。
目線を逸らして答える。
「は、はい」
最悪だ
でも、やるしかない
大森は、どうにか嫌悪を押し込みながら顔を近づける。
「違うねー」
「大森くん」
「え」
大森は、固まると湯ノ内を見る。
まずい、何かやらかしたか
「ただ、舐めるんじゃない」
「私が喜ぶ事を君が考えるんだ」
「喜ぶ…?」
大森な戸惑いながら湯ノ内を見つめる。
「そうだ」
「一瞬、一瞬それを考えなさい」
「私のを咥える前に、言うことがあるだろ」
大森は奥歯を噛み締める。
どこまでも、追い詰められる。
心の逃げ場すら奪うつもりか
「…あ」
「ありがとうございます」
大森は呟くように言う。
「おっと?」
「それじゃあ弱いね」
「君なら分かってるだろ」
「こういう奴が何を好むのか」
大森は今度は屈辱で震えた。
くそ、言いたくない
「私もそこまで優しくしないよ」
「もう一度間違えたら、道はない」
「理解して、挑みなさい」
大森は荒く息をすると、歯を食いしばりながら絞り出すようにいう。
「…喜んで」
「咥えさせて頂きます」
「湯ノ内さま」
口調はどうにかしたが、目つきはどうしようもない
このまま咥えさせたら、湯ノ内のを噛み砕くのではと言うほど殺意がこもる。
「うん、 いいね 」
「まぁ、頑張った方かな」
大森はつい耐えられず、床を見つめた。
怖いからじゃない
あまりの悔しさに、全てを捨てて衝動のまま動きそうになる
頼む、抑えてくれ
2人の為なんだ。
大森は震えながら、衝動を押し込む。
「さっさとしなさい」
湯ノ内が冷たく言う
大森は被せるように叫んだ。
「うるさい!」
「分かってる!!」
しまった
大森は、ぱっと湯ノ内を見る。
湯ノ内は特に顔色も変えず、あっさりと言う。
「うん」
「2人には来てもらうね」
「あ、あ」
大森は、慌てて首をふる
「ち、違います!!」
「あの、あ、」
大森は湯ノ内の足にしがみつくと涙ぐみながら謝罪をする。
「ごめんなさい」
「僕、馬鹿だから」
「自分でも分かってます、ごめんなさい」
湯ノ内は、大森を見下ろす。
「あ、そう」
「理解してるんだね」
「それなら、いいけどね?」
「は、はい」
大森はなぜか安心して、笑顔で頷いた
もう、何がなんだか分からない
「ほら咥えなさい」
湯ノ内が大森に指示する。
「は、はい!」
「喜んで!!」
やばい、心が壊れそうだ
さっきから、身体の震えも止まらない
震える手で湯ノ内の下を掴む。
どうしたらいいのか分からず、一瞬躊躇した。
迷うな、待たせるな
もう1度怒らせたら、おしまいだ
絶対に気に入られないと
大森は思考を停止させると、ぱくっと下を口の中に入れる。
よく、分からないまま混乱する頭で下を舐めた。
「…」
「…なんだい、それは」
湯ノ内が呆れた声で言う。
大森は咥えながら、湯ノ内を上目遣いで見上げる。
「君、このやり方すら学んで来なかったのかい?」
大森は困惑しながら、頷く
湯ノ内が興味を無くしたように言う
「もういいよ」
「で、も」
大森は咥えながら話す。
しかし、湯ノ内は冷たく言い放った。
「やめなさい」
「…」
大森は心がぎゅっと、締め付けれる。
口から下を出すと、耐えられず喉から嗚咽が漏れる。
「ぅ゛、うぅ゛」
やった事もないんだから、仕方ないだろ
そんな冷たく言わなくても
「泣くんじゃない」
「君の力不足を反省しなさい」
「ぅう゛!!」
大森は、さらに嗚咽が溢れ出す。
こっちだって泣きたくて泣いてるんじゃない
「だ、って!!」
「う゛ぅ、」
湯ノ内が大森の顔を覗き込む。
「大森くん」
「よく、聞きなさい」
大森はしゃくり声を上げながら、湯ノ内を見上げる。
湯ノ内が続けて言う。
「若井くんと藤澤くん」
「2人には来てもらう」
「っな゛!!」
大森は立ち上がりかけると、湯ノ内は鋭く言い放つ
「最後まで聞きなさい」
「…」
大森は、すとんと地面に座る。
「落ち着きがない子だね、君は」
大森は、少し口を尖らせた。
大人になっても、言われるとは
「2人には接待はさせない」
大森は驚いて、目を見開く
「本当に…?」
心に少し光が差した。
「君がいい子にしてたらね」
湯ノ内は厳しい顔で、大森を見る。
「さっき、教えた事を覚えているかな?」
大森は頭を回転させるとすぐに答える。
「湯ノ内さんが喜ぶ事を考えます」
湯ノ内は、こくりと頷く。
「そうだね、いい子だ」
「出来るね?」
大森は決心を決めると、大きく頷いた
「はい、できます」
「喜んで奉仕させてください」
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〜ご案内〜
若井と藤澤の登場はない予定でしたが、次回スペシャルゲストとして登場します。
ぜひ、お待ちください。
コメント
13件
湯ノ内やばい… あの、なんでもします、とか 勢いで言っちゃうの好きなんですよね(( 若井さんと涼ちゃん……どうなるんだろ、、
湯ノ内怖……! でも可哀想な大森さんも良いんだよなぁ 見るの楽しすぎる!!!
こえぇよぉぉ面白いよぉ 最高すぎますよぉぉぉぉ 続きが楽しみですぅぅぅ✨