テラーノベル
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──その日、レイの車内は静かで穏やかだった。お気に入りの曲が流れ、ネグとマモンはリズムに合わせて小さく口ずさむ。レイもハンドルを握りながら肩を揺らし、まるで何事もなかったかのような空気がそこにはあった。
「やっぱ、たまにはこうやって逃げるのも悪くないよな。」
レイがそんな軽口を叩き、マモンとネグが「うん」「わしもそう思う」と笑い合っていた。
だが、平和な時間は長くは続かなかった──。
コンビニでの休憩を終え、隣町のホテルで一泊した翌朝。再び車に乗り込んで走り出したその時だった。
「……ん?」
ネグが助手席から何気なく後方を振り返った瞬間、血の気が引く。
「ちょ、ちょっとレイ!! 後ろ!!」
「んぁ?」
レイがバックミラーを見ると、そこにはあの見慣れた車。──だぁ、すかー、夢魔の3人が乗った車がすぐ後ろについてきていた。
バックミラー越しにすかーがハンドルを握り、夢魔は助手席、だぁは後部座席からこちらを睨みつけている。その目線は間違いなく──怒りに燃えていた。
「マジかよ……!」
レイがエンジンを吹かし、急加速する。「掴まれ!!」と声をかけ、ネグとマモンは慌ててシートベルトを締め直す。
だが、3人の車もすぐに追ってきた。普通なら諦めそうなところを、だぁたちは本気で追いかけてきている。
ネグは心臓がバクバクしながらも、窓越しにちらっと後ろを見た。「こっわ……マジでこっわ……!」
そして──最終的には、小さな交差点で進路を塞がれ、ついに捕まってしまった。
車を降りた瞬間、だぁ、すかー、夢魔の3人は車から降りるなりこちらに歩み寄ってくる。だぁの表情は氷のように冷たく、すかーは肩を震わせて怒りをこらえ、夢魔は無言のまま睨みつけてきた。
だぁが低い声で一言。
「逃げるなって言ったよね、ネグ。」
その声だけで、ネグは肩をビクリと震わせた。マモンも何も言えずに黙って下を向いている。
レイは「いやぁ……偶然ですよ?偶然」なんて軽く笑っていたが、すぐにだぁに睨まれ「はい、すみません」と素直に頭を下げた。
結局、だぁの友人がレイを別の車で連れて行き──残ったのはネグとマモン、だぁ、すかー、夢魔の5人。
車内は重苦しい沈黙に包まれていた。
ネグとマモンは後部座席で並んで座り、だぁがその隣、すかーが前の助手席、運転は夢魔。誰も口を開かないまま、車は静かに発進した。
──が、すぐにその沈黙を破ったのは、だぁだった。
「ネグ。マモン。」
低く静かな声。それだけで二人は体を固くした。
「何回逃げれば気が済むんだよ。お前たち……子供か?」
マモンが少し唇を噛みしめて目を逸らす。ネグは小さく「……ごめんなさい」とだけ呟いた。
だぁは続けた。「煽りも、逃げるのも、全部だ。俺はお前らの保護者でも何でもないけど、限度があるだろう?」
すかーも横から言葉を挟む。「本当にな……! 何度下半身やられてると思ってんだよ、俺ら……! 冗談抜きで、もう許す気無いからな!」
夢魔はハンドルを握ったまま、前を向いたまま静かに一言。
「もう、そういうの……疲れた。」
だぁとすかーの説教はその後も続いた。だけど、不思議とその声はどこか穏やかで、ネグとマモンの耳には次第に優しい音のように響き──まるで子守唄のように、意識がぼんやりと薄れていった。
気づけば、マモンは先に眠り、ネグも自然と目を閉じ──だぁの隣で頭を預ける形で、静かに寝息を立て始めた。
すかーはその様子を見て、大きくため息をついた。「はぁ……」
だぁは眠ったネグの髪を無意識に撫でながら、目線を落とす。
「……結局、憎めないんだよな……こいつ。」
夢魔もちらりとバックミラー越しに後ろを見た。「本当にな……」
そんな静かな時間のまま、車は家へとたどり着いた。
家に着いても、ネグとマモンはまだ目を覚まさない。仕方なく、だぁたちは二人を抱えてベッドへ運び、静かに毛布をかけてやる。
そして──その日は、ようやく静かに終わりを迎えたのだった。
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