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東京タワーに臨む場所に、それはそれは立派な桃太郎機関のビルが建っている。
練馬での激闘から数週間が経ち、ビル内もようやく落ち着きを取り戻していた。
その最上階にある大広間に、月詠・桜介・神門・蓬の姿がある。
彼らの前には、包帯でグルグル巻きになった気味の悪い人形のようなものが5体並んでいた。
どれも口が大きく開いており、そこに内蔵されたスピーカーからここにはいない人物たちの声が聞こえてくる。
並んで座る5体の人形から発せられる話題は、最近現れた”鬼神の子”…一ノ瀬四季について。
自分たちにとって脅威となる前に、長く続く戦争に終止符をうつために、彼の存在をどうにかしなければならない。
そこで一ノ瀬と相対した月詠たちを呼び出し、話を聞こうというわけだ。
それに対し神門が、無陀野との会話をベースにした自分の考えを披露する。
それを一通り聞き終えた”大皇帝”と呼ばれる人物は、納得したように話を区切った。
『若い者の意見は大事だ…一度議題に取り上げよう。』
『大皇帝様…!』
「ありがとうございます。」
『さて、次だが…生け捕り対象になっている”斑鳩鳴海”は、今どういう状況かな?』
鳴海の名が出た瞬間、分かりやすく反応した神門と桜介。
どちらも彼に対して、少しだけ特別な感情を抱いている。
シンと静まった場で最初に口を開いたのは、意外にも桜介であった。
「……もうあいつに関わんな。」
「桜介。」
『どういうことかな?』
「鳴海を生け捕りにしてどうすんだよ。また昔みたいに実験に使うのか?それとも自分たちの体を治療させんのか?させねぇよな?テメェらみたいな考え方の奴が、鬼に体を触らせるわけねぇ。捕まえたところで、どうせロクな扱い方しねぇだろ。だから手引けって言ってんだよ。」
『貴様!さっきから何だその物言いは!』
『今の君の発言は、斑鳩鳴海を守ろうとしているように感じるが…そうなのかい?』
「…鳴海は俺らがもらう。そんだけの話だ。」
『意図が分からないな。詳しく説明してくれないか。』
「度重なる非礼、大変申し訳ありません。私の方からお話させていただきます。斑鳩鳴海の持つ力は、治癒能力のない私たち桃太郎にとってとても魅力的です。常に戦いに身を置く者として是が非でも欲しい存在。しかし一方でそう思わない者達もいます。鬼ごときに治療される筋合いはない…と。そういう者達が彼を生け捕りにした場合、当然扱いは雑になる。最悪言いつけを破って、そのまま殺してしまう可能性もあります。私たちはそれを避けたいんです。ご存知か分かりませんが、私たちの部隊は桃太郎機関の中でも戦いの機会が多い。彼の力が必要なんです。」
『ふむ…それが我々が手を引くということとどう関係する?』
「生け捕り命令は “あくまでも”、上からの指示。ですから現在、桃太郎機関全体がその指示を守って彼を探し捕らえようとしています。しかし生け捕りの中止を宣言していただければ、先程申し上げたような彼と関わりたくない人間が間引かれる。結果、本当に必要としている人間だけが彼を追いかけることになります。その状況を作っていただきたいんです。」
月詠の話を咀嚼するように、しばし無言の時間が流れる。
その後、大皇帝は”分かった”と一言呟いた。
『今の件についても一度持ち帰る。…今日の所は以上にしよう。遥々すまない。蓬君、神門君…隊長を失った君たちの配属先はもうじき掲示される。』
大皇帝のその言葉で、場は解散の運びとなった。
広間を出て、廊下を歩く4人。
堅苦しい状況から解放され、桜介からは欠伸が漏れる。
「大皇帝、意外と柔軟だな。」
「ありがたいことです。」
「そうかい?僕には暖簾に腕押しに感じたけど。それより桜介。」
「ん?」
「鳴海のことは慎重に進めようって言ったじゃないか。反感を買って、彼に対してもっと強い指示が出たらどうするつもりだい?」
「…悪かったよ。あいつらから鳴海の名前が出たら、何かカッとなっちまった。」
「いくら好きだからって、誰彼構わず噛みついてたら疲れるよ?」
「そういうんじゃねぇって言ってんだろ。」
「斑鳩鳴海って無陀野の秘書っすよね?好きなんすか?」
「だから違ぇって!!」
桜介と蓬がワーワーと言い合っていると、不意に月詠のスマホが音を立てる。
桃太郎機関から支給されているもので、緊急性や機密性の高い指示などが隊長宛に送られてくるのだ。
メールを見た月詠は、フッと口角を上げる。
「上手くいったみたいだよ。」
「何が?」
「鳴海のこと。生け捕り命令が中止された。」
「マジか!よっしゃ!これでバカ共に手出される心配はなくなったな。」
「(良かった…鳴海さんに知らせてあげたいな。あ、四季君経由なら…!)」
神門の顔にも少し笑みが浮かび、4人の間に和やかな空気が生まれる。
だがそれも束の間…
掲示板の前に来た一行は、その内容に目を奪われた。
「はは!降格な上、鹿児島行きか!」
「やっぱりね。蓬君は東京、神門君は鹿児島と降格。露骨な嫌がらせだね。大皇帝様は君の話を聞く気はないみたいだ。」
「ドンマイ、元エリート。言っとくが俺はテメェの意見にゃ反対だ、馬鹿野郎。戦う相手がいなくなるなんてつまんねぇだろ。」
「鹿児島か…九州には強い鬼がいるって聞く。毎年多くの隊員が亡くなってるらしいよ。君なら平気だと思うけど、生きてまた会えることを願うよ。占ってほしかったらいつでも言いなよ。」
「ご愁傷っす。」
一番後輩の彼に口々に言葉をかけながら、年上3人はその場を後にした。
残された神門は、他の隊員からの陰口をサラッと受け流して廊下を歩いて行く。
「別に僕は出世も地位も興味ない。やることはどこでも同じさ。」
その目から光は失われていなかった。
一方自分たちの持ち場に戻るべく、練馬へと向かっていた月詠と桜介。
部下の運転する車の中で、ふと桜介が言葉を漏らす。
「俺って鳴海のこと好きなんか?」
「…何、急に。今さっき散々違うって自分で叫んでたよね?」
「そうなんだけどよぉ…何かよく分かんなくなってきた。」
「はぁ~…じゃあ鳴海に会ってみれば?」
「会ったら解決すんのか?」
「するかもしれないし、しないかもしれない。会った時の自分の気持ちに従ってみればいいんじゃない?」
「自分の気持ちね~」
「顔見た時に抱き締めたいとか、キスしたいとか、そういう風に想うのかどうか確かめてみなよ。」
「お~分かった~。んで、そういう風に想ったら抱き締めていいわけ?」
「ダメに決まってるよね?いきなりそんなことしたら、彼の顔面陥没パンチが飛んでくるよ。桜介はまず少女漫画とか読んで、女心…いや、男心?を理解するところから始めた方がいいよ。」
「めんどくせー」
女子高生みたいな会話をする上司2人に、運転席の部下は苦笑するのだった。
「降格オメデトウ。神門」
「…それを言うためにわざわざ来たのかい?」
ひょこっと現れたクラッカー片手に棒読みで祝う菊華とげんなりした顔をする神門。
実は同期であるこの2人。
訓練生時代、悪名高い悪ガキであった菊華とストッパーの神門。(極偶に一緒に悪さをする)
お互いを心配してかこうして会いに来たり行ったりの2人は仲のいいことで有名である。
「冗談だよ冗談。」
「どうだか…ほら、クラッカー貸して。どうせぶっ放すでしょ」
「へへっ、バレてら」
「全く…そういえば菊華も異動だったよね?どこなの?」
「えっと、華厳の滝ってとこ」
「そっか…じゃあ暫くは一緒に出かけられないね」
「ねー。だからさーご飯行こ。」
そう言って歩き出した2人
「そうだ、お兄さんのこと聞いた?」
「聞いたって言うか聞かされたって感じ。懸賞金も無くなったみたいで母さんが怒り狂ってる。杉並の誰かさんが怒りそうだよね〜」
「そうか…」
「ま、僕には関係ないけど」
「前々から思ってたけど菊華は色んなことに無頓智な気がする。ご飯だって食べられればいいし、服も着られればいい。仕事だってそうだ」
「神門、僕はね生きたいたように生きたいんだよね。好きに生きて好きに死ぬ。人生は一度きり、好き勝手に生きて何が悪いのさ」
「鳴海さんのことだって…」
「鳴海兄さんは別だよ。あの人は特別。鬼神に愛されてると思うよ?能力の汎用性も高いしフィジカルだって他の隊長と引けを取らないレベルだし」
「だとしてもだよ」
「兄さんが実家を壊滅させる未来もそう遠くはないと思うよ。こんな家無くなって当然だし」
「それってどういう…」
神門の問いを菊華は “さぁ?どういうことかな?” とはぐらかした