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私達は、隣同士に並んでゆっくり駅に向かった。
今は、大丈夫。
樹さんが側にいてくれるから。
大丈夫だよ、うん、大丈夫。
だって、今日は楽しかったんだから。
そう何度も言い聞かせるけど、会話が途切れて、しばらく黙って歩いてたら、自然に涙が溢れてきた。
どうしよう、我慢しなきゃ。
泣いたら樹さんに心配かけちゃうよ。
せっかく、一生懸命私を励ましてくれたのに……
一緒にボーリングして、ラーメン食べて、笑って。
なのに何で、こんなに涙が出るんだろう。
胸が苦しくて痛いよ。
柊君……
何でよ……
私、本当に、柊君のことが大好きだったのに。
ずっとずっと柊君のことが頭から消えない。
たとえ、忘れられる瞬間があったとしても、必ずまた思い出してしまう。
どうしたらいいのかわからなくなる……
もう嫌だ、声を出して泣きたい。
そう思った時、樹さんの大きな手のひらが、私の頭を優しく撫でた。
何も言わず、何も聞かず……
そして、立ち止まって私のことを見た。
上から見下ろされてる私の顔は、間違いなく涙でぐちゃぐちゃ。
私、樹さんには変な顔ばっかり見られてる。
本当に恥ずかしい……
「柚葉、我慢なんかしないでいっぱい泣いたらいい」
樹さんは、私を引き寄せ、優しく抱きしめてくれた。
きっと、これもアメリカ式。
でも、何でもいい。
今は、樹さんにただ甘えたかった。
私を抱く樹さんの腕に、少しずつ力が込められていく。
背中を支えてくれるその腕に、ものすごく守られてる気がした。
周りには誰もいない、静かな2人だけの時間が続く。
「……ごめんなさい」
そのうち気持ちが落ち着いて、私は樹さんから離れた。
「大丈夫か……?」
「はい……。おかげで落ち着きました。厚かましく抱きついたりしてごめんなさい」
私達は、人気の無い道をまたゆっくり歩き出した。
もう、涙は出ない。だけど、まだ重苦しい気持ちをぬぐい去ることはできなかった。
しばらく歩いたところで、
「柚葉が抱きついてきたわけじゃない。俺がお前を抱きしめたかったんだ」
樹さんがポツリと言った。
「つらそうな柚葉のこと、放っておけないだろ」
樹さん……
「本当に……すごく優しいんですね」
そう、この人は人間として私を守ってくれてる。
「そんなことない。どうしたら柚葉が元気になれるのか、正直、俺にはわからないんだ」
樹さんは、すごくつらそうな顔をした。
人のために、ここまで一緒に悩める人なんてなかなかいないと思う。
「私、今日はすごく楽しかったです。ボーリングしたり、ラーメン食べたり。本当に元気になりました。嬉しかったです、すごく」
「……柚葉がそう言うなら……まあ、良かった」
「はい、本当に楽しかったです。でも……」