「ん?」
「樹さん、私なんかと遊んでて大丈夫なんですか? 彼女さんがいるなら……」
とうとう口に出してしまった。
いくら私を励ますためでも、彼女がいるなら2人で会うのは良くない。
「いない。彼女なんか」
少し冷たく聞こえたのは気のせい?
「いないんですか……本当に?」
「信じないのか?」
「いえ、すみません。樹さんには素敵な彼女さんがいるんだろうなってずっと思ってました。きっと、美人の彼女さんが……」
「美人……ね。この前、俺が空港で言ったこと、根に持ってる?」
2人とも、苦笑い。
「別に根に持ってるわけじゃないですよ。私が美人じゃないのは確かだから」
「あの時は……悪かった」
よそ見をしながら、樹さんは言った。
本当に悪かったなんて思ってるの?
「会って、いきなりでしたからね。ちょっとショックでしたけど」
「……」
樹さんは、黙ってしまった。
「う、嘘ですよ。ちょっと意地悪でしたよね、すみません。でも、私は美人じゃないのに、なぜ柊君が選んだのか……って、みんなも気にしていたと思いますから。だから、大丈夫です」
本当に……そうだ。
私は目立つ存在じゃないし、なぜ柊君がって、誰よりも自分自身が1番疑問に思ってたんだから。
どんなに柚葉が好きだって言われても、自信なんてなかなか持てなくて……
そんなことを思いながら歩いてたら、また柊君の顔が浮かんできた。
柊君がプロポーズしてくれたあの日。
~6月14日~
『今日は私の誕生日。柊君に…プロポーズされた。付き合って1年半、こんな嬉しい誕生日があっていいのかな?柊君、すごく照れて可愛かったな。私、キュンキュンしたよ。これから先も柊君とずっと一緒にいられるんだね。本当に幸せだよ。ありがとう』
日記のそのページを、私は今まで何度読み返したかわからない。
『柚葉、僕と結婚してほしい。僕の奥さんになってくれないか?』
真っ直ぐなプロポーズの言葉だった。
『柊君、本当に? 私で……いいの?』
『ああ、もちろんだよ。柚葉と結婚して、幸せな家庭を作りたいんだ。一生、一緒にいたい』
『嬉しい、本当に嬉しいよ。柊君、ありがとう』
『ってことは、OKってことかな?』
私はうなづきながら、
『もちろん、よろしくお願いします』
って、笑顔いっぱいに答えた。
幸せ過ぎて、怖くなった。
自分みたいな地味な女が、柊君みたいな華やかな男性に、こんなにも愛されていいのかなって。
申し訳なさとか、不安とか、心配とか、正直、そういうマイナスの感情が、どうしても私の中には存在した。
それでも柊君を信じようって……
私は、結婚を決めた。
幸せな未来を夢に見て――
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