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「じゃ、お疲れー」
そう言ってかざねは通話アプリから抜ける。今日の撮影も順調に終了した。納期まで時間がある為、然程急いで仕事をする必要はない。
椅子に座った侭伸びをしていると、傍らに置いてあったスマホが通知音を鳴らす。確認すれば、しゅうとからで。
『三十分後に』
簡潔な言葉が意味するものを理解しているかざねは、すぐに返信をする。
「了解、と」
椅子から立ち上がり、空になったマグカップを手に持ってキッチンへと向かう。洗うのは後で、とも思ったが確実に疲労困憊になる為、今やっておく方が無難だった。
カップを洗い、軽く準備を整える。とはいっても荷物などは必要ない。寧ろ、邪魔になる。
しゅうとの指定した時間の少し前、戸締りをして家を出た。向かうのは、ふうはややりもこんの家とは逆の方向。
「さっきぶり」
少し歩けば、待っていたしゅうとと合流をする。他愛のない会話をしながら、二人は足早に歩き始める。そして辿り着いたのは、古びた神社。
放棄されて久しいのだろう。手入れなどされていないような、ぼろぼろの建物。鳥居もかなり古くなってしまっている。少しばかり小高い場所にあるそこまで、二人は階段を昇る。
灯りなどはない。木々の隙間から月の光が差し込むくらい。だが、二人の足取りは重い訳ではない。寧ろ、その逆だった。
急ぎ足で階段を昇って行く。彼等は気付いていた。自分達の背後から、幾つもの影が迫ってきていることに。
「…さて、此処まで来ればいいな」
階段を昇りきり、境内に当たる場所へと辿り着く。そこで漸くと二人は足を止めた。後ろを振り返れば、影達が段々と迫ってきている。
「あんまりふうはやとりもこんを戦いに巻き込みたくないんだよね。代償が大きすぎるし」
「ああ。俺達がその分身体を張る」
かざねとしゅうとの瞳が怪しく光る。瞬きをひとつ、した後にはしゅうとの手には巨大な鎌が握られていた。かざねの手には、大振りのナイフのような刃物が握られている。
「さて、今日も情報収集とお掃除と参りますか」
「ああ」
二人は地面を蹴る。それぞれの武器を振り上げ、影へと飛び込んで行った。鮮やかなステップで鎌とナイフが空を引き裂く。次々と影が餌食となって霧散する。
「雑魚ばかりだな」
「とは言っても数は多いけどね」
上段から振り下ろされた鎌が影を消滅させた。集中が切れ、しゅうとは荒い息を付きながらその場に膝を付く。
「大丈夫か?」
「…ああ」
額を汗が一筋流れる。平静そうな顔をしつつも、しゅうとの胸元が静かに軋んでいた。
それにかざねは気付いている。しかし、何も言葉を言うことはしない。それが何を意味するのか、彼だけは知っているからだ。
「へばっていられないな。次が、きた」
ふう、と少し長めに息を吐き出し、しゅうとは視線を先へと向けた。蹴散らした筈の影。だが、新しいものが再び湧き出して二人へと歩みを進めていた。
「こいつらってさ、一体何を意味してんだろ?」
「分からない。けど、きっと俺達にとって余り良くないことだろうなってことは分かるよ」
かざねは再びナイフを取り出す。肉体が内側から締め付けられる感覚がする。だが、止まることは許されない。
飛びかかってくる影に向かってナイフを振り上げる。軽い身のこなしで蹴散らすが、背後から複数の影が迫った。
それに気付きつつも、回避行動を敢えて取らない。影の攻撃がかざねの腕を切りつける。そこからは血が溢れることはなかった。
攻撃を受けながらもナイフを振りかざし、影切り裂く。一撃の元に影は霧散し、次の影が襲い掛かる。それらを軽いステップで交わしながら攻撃をしゅうと共に繰り返した。
「はー…ッ、疲れたッ」
暫しの戦闘の後、影の全てを消し去ることに成功した。二人は地面に腰を下ろし、大きく息を付く。
特にしゅうとは暫く荒い息を付き続けていた。胸がギシギシと痛むことには目を瞑りながら。
「大丈夫?」
「なんとか」
かざねが自分を心配してくれるが、見た目の負傷度でいえば彼の方が多い。切り裂かれた服の隙間からは血が溢れてはいない。しかし傷は確かに負っており、そこからは綿のようなものが覗いていた。
「かざねの方が怪我してんじゃん。痛いでしょ?」
「まあ、それなりに」
「…なんだかなぁ…」
しゅうとはかざねの状態を理解している。それが、彼の戦闘スタイルに大きく影響をしていることも。
かざねは呪いによって本来の肉体を消失してしまっている。故に肉体の損傷による死という概念が存在しない。だからこそ無茶な戦い方をすることが出来るのだ。
だが、痛みは感じる。痛みを感じていないように見えても、かざねはそれを精神力で押さえつけているのだ。
「俺はかざねが自分を傷つけながらも戦っているのを見るのは嫌だ」
「…しゅうとにそんなこと言われてもなぁ」
かざねも知っている。しゅうとの呪いがもたらしている副作用に、看過出来ないものがあることを。
しかしそれらを互いに知っても尚、二人は戦うことを止めない。その背景には、大切な他の二人がいた。
「まあでも、俺達が戦う方がいいからさ」
「それには同感。でもそろそろ、この状況を打破する情報を何か得たいよな」
しゅうとの呼吸が整い、立ち上がる。先程まで手にしていた大鎌は既にその形を消していた。かざねの手にもナイフは既にない。
「影が何か痕跡残してないかな?」
「いやー、ないでしょ。しゅうとの鎌は綺麗に消し去る力を持ってるし」
そう言いながらも二人は周囲を歩き回って何か手がかりがないかを探す。戦闘を行う度、二人はこうして手がかりになるようなものがないかを探していた。
「…見付からないな」
「そうだな。流石に夜も遅い。また戦闘になっても面倒だし、そろそろ帰ろう」
少し前に上ってきた道を、二人は戻る。蹴散らしたばかりだからだろう。帰り道に影に襲われることはなかった。そのまま無事、帰路に着く。
「じゃあ、また明日」
「おやすみ」
分岐にて、二人は別れる。それぞれ自宅へと戻って休む為だ。次の日も仕事がある。こうして夜な夜な、情報を求めて影と戦っているなんてふうはやとりもこんには言えない。
「…早くしないと、手遅れになる」
そう呟いたのは、果たしてどちらか。
―――
―――
―――…
「…見付けた」
街灯の消えた公園で、りもこんは一人呟く。その足元には、身動きひとつ取らない影。空間を、何かがきらりと光った。
ふうはやは一人、夜の街を歩いていた。目的地はない。しかし、探しているものはある。
彼が探しているのは、今の状況を打破する為の情報。色々と調べてはいるが、有益なものは見付からない。ならば、実際の現場へと赴くしかなかった。
このことはメンバーの誰にも言っていない。危険なことをしていると指摘されかねないからだ。
ふうはやは自身の得た力をまだ余り上手く使うことが出来ていない。更には影を前にすることで飢餓に襲われ、喰らうことで精神にダメージを受ける。それを如何にかして克服出来ないか模索することも目的のひとつに含まれている。
以前戦闘を繰り広げた公園には、今日は何もいなかった。その為少し離れた場所まで範囲を広げることにする。
「…こんな場所あったか?」
住宅街を歩いていると、ふと記憶にない場所が目に入る。それは小さな池。水面が風もないのに微かに揺れている。
感じるものがあり、側に寄る。水面を覗き込むと、薄っすらと自分の姿が映り込む。
ゆらゆらと揺れる姿を見ていると、ふと気づいた。自分の影に重なるように異形のものが映り込んでいることに。
「!」
敵かと反射的に背後を振り返るも、そこには何もいない。訝し気にしながらも再度水面を覗き込む。
「俺…なのか…?」
再び映り込む異形のもの。それが、何処か自分の姿に似ているように見えた。それが分かってしまえば恐ろしさはなくなる。答えなど分からないが、感覚的に思った。これは、呪いに呑み込まれた自分の姿だと。
「ははっ、こんなすんごい化け物に変貌するんだ、俺」
戦いの最中にこのような姿になっているのかは分からない。しかし、いずれ呪いに完全に呑み込まれてしまえばこのような姿になってしまうのだろう。
「絶対に方法を見付けなきゃな」
こんな化け物になどなる心算はない。だからこそ、情報を得る必要があった。
その時だった。背後に映り込んだ、別の影。それは明らかに敵の姿。
「!」
今度こそ、倒さなくてはいけない者が出現した。振り返った時には影がふうはやに攻撃の手を伸ばしていた。このままでは直撃を喰らってしまう。だが、ふうはやの身体能力はそれを無視した。
反射的に身体を捩って無理矢理攻撃を避ける。下に潜り込み、影の胸元を狙って手を横薙ぎに振るった。
呪いの力を発現させたことにより、ふうはやの手には鋭い爪が出現している。日々、戦いを続けたことにより、彼は瞬間的に身体の一部を変質させて攻撃を行うことが可能になっていた。
影は一体だけだったようで、直ぐに地面へと転がった。呪いの力を使用したことで、代償として飢餓が襲う。
自身の精神に影響が出ると知りながらも、その強烈な欲求に抗うことは出来ない。ふうはやは影へと手を伸ばして掴み、口へと運んだ。
咀嚼し、飲み込む。自身の脳内に流れてくる、痛みと悲しみ。それらはふうはやの精神を削るが、此処にも重要な情報が秘められていた。
「はっ、は…ッ」
息を荒くつきながらも、少し落ち着く。思わず零れたのは、戸惑いの言葉だった。
「あれ、は…?」
自分の中に、飲み込んんだ侭にしておかなくてはいけない。何故か、ふうはやはそう思った。
月が、欠けようとしていた―――――