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結婚一年半。
互いの家の為に一緒になっただけの、政略結婚。
異性と交際経験が無かった私は、
恋愛なんて夢物語だと思っていた。
だけど、
あの人との出逢いが――
私の全てを変えてくれた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「……遅かったね」
「仕事、忙しいんだよ」
「ご飯は?」
「食ってきた。風呂入ったらもう寝るわ」
「分かった」
深夜、一時を過ぎた頃に夫の小西 貴哉が帰宅した。
最近帰りはいつもこれくらいで、本人曰く『仕事が忙しい』らしい。
だけど私は知っている。
こんな時間まで仕事をしていない事を。
他に、女の人がいる事も。
それに気付いたのは、今から約半年前の事だった。
スーツのポケットからレシートが出て来て、そこにとても綺麗な文字で『早く別れろ』という文字が書かれていたから。
いくら恋愛に疎い私でも、これが何を意味しているかくらい分かった。
貴哉には私の他に女がいるんだって。
それを知った時は、不思議と悲しくは無かった。
だって、私たちは政略結婚。
家の為にお見合いして、流れるように身体の関係を持って、そのまま結婚する事になっただけだから。
そこに愛なんてものは無かった。
それは貴哉も同じなんだと思う。
だから、悲しくは無かったけど、悔しくはある。
私には自由をくれないくせに、自分だけ、外で好き勝手やっているのだから。
いっその事、不倫相手に乗り換えればいいのにとさえ思うけれど、今の状態で責め立てても言い逃れ出来ない不倫の証拠を抑えておかなければ良いように言いくるめられるのがいいところ。
きちんと証拠を提示しなければ、私は身一つで捨てられる事にもなりかねないのだ。
だから、女の影があると分かったその日から、自由が無い私は働く事も出来ないので、まずは自由になるお金を作るべく、家計をやり繰りしたり、独身時代から持っていた服やバッグやアクセサリーを売り捌いて、少しずつお金を貯めてきた。
その貯めたお金で探偵を雇って、証拠を集めて貰う為に。
頼む探偵は、もう決めてある。
暇潰しにやっていたSNSで何となく呟いたら、良い探偵がいると紹介されたから。
正直誰でも良かったけど、その人は格安の金額で依頼を請け負ってくれて、偶然にも同じ市内に住んでいるから頼み易いというのが決め手だった。
(……準備は整った。早速明日、依頼をしに行こう)
ある程度のお金を集められた私は明日、美容院を理由に外出をして、依頼をお願いする為に探偵事務所を訪れる事に決めていた。
「すみません、お電話した小西です」
「小西様、お待ちしておりました、中へどうぞ」
翌日、家事を早々に済ませた私は家を出る前に電話をして伺う事を伝えていた『杉野探偵事務所』へやって来た。
五階建てビルの三階にある事務所のインターホンを押して名乗ると、中からウルフスタイルでパーマがかった茶髪の男の人が出迎えてくれた。
中へ案内された私は応接室のような個室へ通され、椅子に座るよう促されたのでペコリと頭を軽く下げて腰を下ろす。
他の従業員の姿は無く、出迎えてくれた男の人がお茶を淹れて持って来てくれた。
「では早速ですが、今回小西様を担当させていだたく杉野 由季です。よろしくお願い致します」
彼――杉野さんは私の向かい側に座るや否や、名刺入れから一枚名刺を取り出すと、名乗りながら手渡して来る。
「あ、ありがとうございます。小西 璃々子です。こちらこそよろしくお願い致します」
そして名刺を受け取った私もまた、彼に倣って名を名乗り、
「それで、今回はどのようなご依頼内容でしょうか?」
「……実は、恥ずかしながら夫が不倫していまして、その証拠を集めて貰いたくて、伺いました。こちらでは浮気調査なども引き受けてくださると聞いたものですから……。お願いできますか?」
本題である依頼内容を口にした。